まんてん

ミラノ風ドリアは現金で【電子マネー編】

『ミラノ風ドリアは現金で』【クレジットカード編】のつづき


私が書店で働き始めた10年前には、すでにクレジット端末があった。だが交通系マネーが導入されたのは、それから何年か後である。クレジットカードのようにサインや暗証番号の入力が要らず、出てくる伝票の処理も簡単で、混雑時は本当にありがたかった。繁忙期など1日に200人の会計をしたこともあるが、全て現金だったら、170人が限界だったと思う。私はお札を数えるのが冗談みたいに遅いのだ。お客様の目の前で、いちにーのさーんしーと返すお札を数えていたら、バカにしているのかと怒られたことがある。

早晩そうなる予感がしていたのだ。ついに先日、日本にも電子マネーしか使えないファミレスが実験的にオープンしたらしい。キャッシュレス社会にいち早く進展したスウェーデンでは、現金お断りの店が当たり前だと、あの大前研一さんが言っていた。なんたって、現金使用率2%。人生で一度も現金を使ったことがない人だっていそうだ。そこまでキャッシュレス化すれば、手数料も少しは下がるのではないだろうか。もともと電子マネーの手数料は、クレジットカードより安い。

現金レジの精算作業がなくなれば、人件費も削減できる。おつり銭の渡し間違いは、人間だもの、どんなに注意してもなくなることはない。精算時に足りない1円玉を探して、ほこりだらけの床をはいつくばって終電を逃した経験のある人は、いっそ現金などなくなればいいと、一度は願ったことがあるはずだ。

反面、そうなれば我々は、サイゼリヤでミラノ風ドリアをあの価格で食べることができなくなる。なぜならサイゼリヤがあれほどの低価格を保てる秘訣のひとつは、現金支払いのみを徹底しているからなのだ。現金レジの考えうるデメリットよりも、手数料による負担の方が大きい、という証明ではないか。

うちの近所のスーパーも、個人経営で爆安のお店は現金のみ、全てが割高の大手スーパーはクレジットも各種電子マネーも使える。

しかしクレジットも各種電子マネーも図書カードも使えちゃうくせに、書店は全てを割高にすることなどできない。

前述のように、もう使えなかった頃には戻れないとすると、逆に振り切る、つまりイタリアよりスウェーデンに向かうしかないのではないか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?