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オリジンオブモンスター

出勤。タイムカードを切る前に、朝食代わりのモンスターエナジー(355ml)を飲み干す。

休憩。ご飯を食べた後、コンビニの前でモンスターエナジー(355ml)を飲み干す。

退勤。ホームの自販機で買ったモンスターエナジー(355ml)を、腰に手を当てて一気に飲み干す。

そして乗り込んだ車内で、エナジー臭い息を吐きながら、空き缶片手に船を漕ぐ。

それを見た乗客らは、モンスターに対して不信感を覚えるだろう。飲んでシャキっとするどころか、ホットミルク飲んだみたいにな顔して眠りこけているじゃないか、と。


私は今、愛するモンスターの名誉のために、これを書いている。その誤解を解きたい一心で―。

一年中手足が冷たいこの体は、血のめぐりが異常に悪い。そのため、摂取した成分がなかなか体内に行き渡らない。約1リットルのモンスターは、日付を越えた頃、漸く五臓六腑に浸透するのだ。だから夜中の3時過ぎまで、無駄に元気なのである。そのシャッキリとした姿を誰にもお見せできないのが非常に残念だ。声を大にして言いたい。「モンスターの威力は凄まじい!!」(早よ寝ろ!)

ここで、この特異体質をより深くご理解いただけるエピソードをひとつ、ご紹介したい。歯医者でのことだ。

虫歯治療のために打った麻酔が、全然効いていないような気がしました。でもお忙しい先生は、次の予約もあるのでしょう。「痛かったら手を挙げてください」と言って、私の口腔にドリルを突っ込みました。痛い!すごく痛い!ずっと虚しく挙がったままの手は「大丈夫大丈夫」と言って、無視され続けました。そして激痛に疲れ、ヨロヨロと帰宅して気絶するように眠り、激しい空腹で目を覚ました頃、スコーンと顎が消滅したのです。先生、今!虫歯を削るのは今です!口に入れたお粥がジャージャー出てしまうのは、「おかしいな~」と首を傾げながら打った追加の麻酔が明らかに余計だったとしか思えませんでした。

麻酔はちゃんと効いてくれないと辛い。だが、もしモンスターに期待されている効果がなかったとしても、私はモンスターを買う。夜中に目が冴えて寝不足になって日中ボウっとしてしまうのは、ちょっとした副作用でしかない。私が期待している作用は「超美味しい=多幸感」だけで、あの自然界には存在しない「エナジー」という味も香りもないものをイメージした、幻のようなエナジーフレーバーが単純に好きなのである。

行きつけの喫茶店「上島珈琲店」の「黒糖ミルク珈琲」が「黒糖入りミルク珈琲」としてペットボトルで発売されたが、似て非なるものだった。1日2本も買って飲んでいるから、つまりとても美味しいのだが、どこかでガッカリが抜けない。私にとっては、あの銅製マグで提供される「黒糖ミルク珈琲」がオリジナルだからだ。

その点モンスターは、何かの味を模したものではなく、モンスター以上はこの世に存在しない、最強のモンスターだ。

おそらくカフェインとアルギニンと砂糖が入ったちょっとお値段高めの炭酸入り清涼飲料水ならなんでもエナジードリンクと言うのだろうが、そして、それを最初に言い出したのはレッドブルだが、モンスターはそれに並ぶ、2大巨頭と言っても過言ではない。

頭に「い」が付く人気小説家の2大巨頭と言えば、池井戸潤と伊坂幸太郎だが(無理矢理!)、先日売り場で「私は伊坂幸太郎が好きなのだが、何かおすすめはないか」と聞かれて、頭を抱えた。

面白い本は売るほどあるが、あえて伊坂幸太郎と言われると、途端にわからなくなる。

伊坂幸太郎の何をもって伊坂幸太郎っぽいと思うのかは人それぞれで、私が思う伊坂幸太郎みたいなやつを勧めても、それは似て非なるものだろう。オリジンがあると、せっかく美味しくてもなんだかガッカリしてしまうあのペットボトルになってしまう。

伊坂幸太郎は島田荘司を愛読しているが、島田荘司を勧めたところでそれはカフェインでしかなく、逆に伊坂幸太郎を敬愛している作家の作品はアルギニンでしかなく、単純に「面白い」は砂糖でしかない。どの清涼飲料水にだって砂糖くらい入っている。

どの小説にも「面白い」は入っている。

じゃあどれでも良くねぇか?と開き直り、「伊坂幸太郎と全然関係ない作家の本だけど私が読んで超面白かったのはコレ」と言って、1冊の本をゴリ推しした。

伊坂幸太郎全然関係ねぇのかよ…と、あまり期待していない顔だったが、その「まあ聞いてしまった手前買わないわけにもいかないか」くらいのテンションのほうがいいのだ。

せっかく私に聞いてくれたんだ。ペットボトル版「伊坂幸太郎」を売るなんて、つまんないだろ。

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