アニメが本当に好きなら、生き方そのものがアニメの二次創作になるはずなんです―感情的であることをいとわない人間的なラッパー・ヤボシキイの道程

アニメオタクがヒップホップのセルフボースト曲を「キャラソン」と呼んでいて、なるほどと思ったことがある。歌い手自身に大きく依拠した歌を作ることが当然と捉えられているのは、ヒップホップの大きな特徴の一つだろう。それぞれが自分を主人公とした歌を作り続け、聴き手がそれを消費していく奇妙な文化であるともいえる。

ヤボシキイはMAZAI RECORDS在籍ラッパーの中で、もっとも主人公らしい歌詞を書くラッパーだ。トピックはオタクの悪口から仲間への思い、あるいはTwitterでのバカ話とさまざまだけど、その歌詞の中心にはいつも彼自身がどんと存在している。

遊びでラップを始め、4年のうちに3枚のアルバムに1枚のEPをリリース。Twitterや曲でその時々の自分自身の内面を素直にさらけ出しながらも、遊び心を忘れずに友人と制作を続ける。

Twitter大好きのふぁぼ魔・ツイ廃であり、ハイスピードで曲を作り続けるラップへの反射神経抜群のヤボシキイに、そのラップとの関わりについて話を聞いた。

オタクへの憎しみをたまたま出会ったラップに吐き出した

―ラップを始めるきっかけを教えてください。

おれのTwitterはもともとアニメの話をするために作ったんですけど、そこで知り合ったぽ太郎さんとかドクマンジュとかの影響です。みんなアニメ好きなんですけど、「涼宮ハルヒの憂鬱」っていうよりか「がくえんゆーとぴあ まなびストレート!」とか、そういうのが好きっていうちょっとひねくれたオタクの集まりだったんですよ。

おれはアニメしか観ていないオタクなんですけど、ぽ太郎さんとかドクマンジュはアンテナをいろいろ張ってて、お笑いとかも好きで。

で、ある日ニコニコ動画にあるUMBの試合のめっちゃふざけたパロディーを教えてもらって、それはラッパーのこともニコ動を見てる人のことも馬鹿にしてる感じなんですけど、それを見て面白いと思ったのがきっかけですね。

―バトル見てかっこいいと思ったとかじゃないんですね。

そうですね。そこからMCバトルのDVD見せてもらったり、動画サイトで見たりして。バトルってドラマがあるじゃないですか。こんなアニメみたいなことが現実にあるんだって、晋平太のUMBの決勝とかすごい泣きましたね。ただ、おれは好きなラッパー以外のバトルはあんまり興味が持てなくて、MCバトルそのものにはそこまでのめり込まなかったんですけど。

その流れで仲間内でラップがすごい流行ってたときにドクマンジュとカラオケに行って、フリースタイルやってみて「おれらも出来んじゃん」みたいになって。4年くらい前のことですけど、それがきっかけですね。

―ヤボシくんはリリースがめちゃくちゃ多いので、その変化を追っていきたいと思うんですが。最初はオタクdisやオタクの日常中心だったものが、ファーストアルバムの「テンシルエア」では、友人と遊んでいる時の情景を書いた「蘇我ハーバー」とか、延々とうんこについて歌うながら「な・が・らうんち」とか、いろいろトピックが広がってきてますね。そして、大丈夫音楽名義の「TOUMEIPOLICE」ではアニメの主題歌とかドラマCDに入っていそうな、主人公がヤボシくんじゃないのかなという曲もある。この変化について聞いていきたいです。

最初って、サウンドクラウドにアップしてた頃ですよね。あれはTwitterやる上で抱いていたオタクへの憎しみを、たまたまラップっていう媒体があったから吐き出したって感じですね。


ほんとに「クソみたいなオタクは死んでくれ」って思いながら書いてたんで。でも、思いつきですね。憎しみもあるけど、面白いかなと思ってたというのもあるし。自分で痛快だと思いつつ「おれもオタクだし……」みたいな同族嫌悪もあるという。

でも、同族嫌悪はあるけど、だっせえオタクはオタクの価値を汚すんで、いなくなってほしいって思ってて。

―オタクの価値とは?

かっこいいか否かがおれの中であって。ヒップホップと同じですね。オタクって基本キモいんですよ。アニメなんか観ないで、見た目ちゃんとしてお金を稼げる仕事してっていう価値観があるじゃないですか。それに比べるとオタクってどっかそうじゃない不条理なところで生きてて。

二次元の女の子に恋をするわけじゃないですか。まあ、女でも男でも同性でもいいし、百合やBLでもいいんですけど。それは端から見たらおかしいことだから、世間との対立が生まれるじゃないですか。でも、だからこそオタクとして自分の価値を信じられてる人がおれはすごい好きなんですよ。

オタクって自分の価値観に没頭できれば人間やめられるんですよね。「現実の女の子いらない!」って言って一人で死んでいくことも可能だし。だから、自分の価値観を疑ってるオタクがおれはすげえ腹が立ちますね。オタクやってることに後ろめたさがあるオタクっていうか。

あえて言わせてもらうと、おれはアニメを現実逃避にしたくないんですよ。「アニメに逃げてるんじゃなくてアニメを選んだ」っていう価値観があって、それを信じ切れている人がすげえ好きですね。

おれ、同人文化もあんまり好きじゃなくて。おれも絵を描くんで同人誌を作るすごさは重々承知してて、否定するわけじゃないんですけど、二次創作での解釈がコミュニティの中の固定された価値観みたいになっちゃったりするじゃないですか。公式厨っていうか、アニメを神格化してるのかもしれないですけど。

でも、アニメが本当に好きだったら自分の生き方そのものがアニメの二次創作になると思ってるんで。おれはラップをやっていてもアニメからの影響がすごい出てるし。

―ストイックですね!

いや、でもそういう意味ではおれ自身オタクやりきれてないっていうコンプレックスがすごいありますね。今はアニメも全然見ないし……。でも、アニメに限らず何かに影響を受けてそれを人間関係とかに活かしたいみたいのは思ってますね。

責任感がないから、いくらでも曲が作れた

―ヤボシくんのすごさは曲を作るスピードだと思うんです。みんなが書けない理由の一つにテーマが見つからないというのがあると思っていて。もつ酢飯のムノウちゃんなんかも昔「テーマを決めるのが苦手」とドクマンジュくんに言われたり。でも、ヤボシくんはオタクdisから入っていろいろなことを曲にしていくので、それがすばらしいと思います。

それは責任感の有無の問題だと思います。おれは責任感がまったくなかったので、どんなことでも曲にしてやろうと思ってたし、どんだけ人の悪口言っても面白きゃいいと思ってたし。

たとえば、田舎のストリート文化の中で先輩に誘われてビートもらって作るってことになったら、何も書けなかったと思います。でも、おれたちはヒップホップと何の関係もないキモオタクが、勝手にビート作ってラップも乗せちゃおうぜってなったから、逆に誰にも気を使わなくてもよくって。

ムノウちゃんはドクマンジュからビートもらってたし、相方もいるし、すごく責任を感じる立場なんだと思います。逆に言うと、おれはそういう環境でやってないからもつ酢飯のことリスペクトしてますね。

―そういえば、ヤボシくん、ドクマンジュくん、ジャバラさんからはあんまりヒップホップへのコンプレックスを聞かないですね。けっこう「ヒップホップは不良の文化だから、自分たちは外様だけどがんばりたい」っていう子いるんですど、マザレコの3人はそういうのがないし、あんまり逡巡してないなって。

うーん、そうですね。でもラッパーも無責任じゃないですか。法律とか破るし。だから、自分の信じてることをちゃんと好きにやってくことの方が大事なんじゃないですかね。そもそもヒップホップってそういう何でもありなものじゃないかなって。

―今までオタクdisで10曲くらい作ってるわけじゃないですか。

そんなに作ってますかね……。

―その語彙のつきなさがすごいなと。

もともと何か作るのはすごく好きで……。でも、好きだけど全然ダメダメなんで。中学の時もマンガ書いてたんですけど結局一本も完成させられなくて。でも作詞ってすげえ楽なんですよ。超奥深いとは思うんですけど。

ただ、ドクマンジュにビート作ってもらってるってのが大きいと思います。あいつとおれは対等な関係なんで。同い年の友達が「ビート作ったからラップ乗せてよ」って言うから、とりあえず書くと、おれはあんまり手を動かしてないのに作品ができる。マンガを描いているときには考えられないくらい簡単なので、それではまったところはあると思います。

「もう会えない」はよくあるけど、会えない人がどういう人かが大切

―じゃあ、アルバムについて聞いていきましょうか。「ILL THUG TRIPLE」は最初に出したものだし、みんな「とりあえずやってみた」というところがあるような。


あれはやばかったです。制作期間短かったし、黒歴史みたいな。自分ラップめっちゃ下手だったんで聞き直したくないですね。でも、最後に入ってる「open the door」はめっちゃ好きです。あれは歌詞が「AIR」っていうギャルゲーについての曲で、マジコンもジャバラさんも「AIR」が好きで、バチッとハマった曲ですね。

―そこからコンピレーション「MAZACON1」「Python Code」「テンルシエア」「ENERGY WAVE」「TOUMEIPOLICE」と続きますが、自分の中で変化を感じた部分はありますか。

「ILL THUG TRIPLE」を作って自分がラップ下手だって気付いて。それまであんまりラップ聴いてこなかったけど、ちゃんと聴こうって思った記憶があります。ラッパーの真似をしてそれを自分のフローに取り入れるというのを試したり。それでちょっとうまくなってきたかなって。


―アルバムを作るに当たってトピックの幅を広げようというのはありましたか?

単純に数作らなきゃいけないから同じような曲ばかりにならないようにってのはありました。あと、ふざけようと思わないとシリアスな曲書いちゃうから、ふざけた曲は意図的に入れました。うんちの曲とかは前々からやろうって言ってたんですけど。あれは4年くらい前にタイムラインで流行ってたんで。

―構想長い!

Twitterで「絶体絶命でんぢゃらすじーさん」ってコロコロコミックのマンガのキャプを貼ってゲラゲラ笑うみたいなことをやってて。それを曲にしました。だから、発表したときに当時の界隈の人に「ついに曲になった!感動した!」ってめっちゃ言われましたね。

―トイレでTwitterやるとか実感こもってますね。あと、ライブの時にドクマンジュくんが「14小節うんこについて考えるの大変だった」と話してたのに笑いました。でも「蘇我ハーバー」や「お小遣いも貰えない」はいわゆるいい曲ですね。

「蘇我ハーバー」は、千葉のプライベートシアターでやってるおれ主催のテレビアニメ視聴会のことを書いた曲です。みんなでアニメ見て、帰りは居酒屋でからあげ食って解散するっていう。featuringのオランゲーナさんはその会にもサイファーにも来てくれているから、すごく参加してほしいと思っていて。ビートはぽ太郎さんにお願いしました。ぽ太郎さんは自分のアルバムでリミックスもしてくれて、すごくうれしかったですね。

「お小遣いも貰えない」は、この頃におれのおじいちゃんが亡くなって、おれには祖父母がいなくなっちゃったんですよ。で、「もう行ってもおこづかいもらえないんだな」って。すげえ現金な話なんですけど。

おじいちゃんは80歳でなくなったんですけど、お葬式には関わった人たちが本当にたくさん来て、号泣する人とかもいたんですよ。でも、おれがおじいちゃんと過ごした時間って十数年くらいだし、夏休みの思い出しかなくて。もちろん血のつながった孫なんで受付とかやるんですけど、「おれよりこの人たちの方がおじいちゃんのこと好きだったろうな。なんでおれここにいるんだろう」って。

おじいちゃんからすると「かわいい孫」なんだけど、おれからすると「会うと20歳超えてもおこづかいくれるありがたい人」で。だから、汚れた絆なんですよ。でも、おれにとってはそういう関係だってことをちゃんと覚えておきたいというか、変に美化したくなくてあの曲を作りましたね。

―いいですね、嘘がなくて。

あのアルバムの中でも嘘つきまくってるところもあるんですけど、あの曲はリアルですね。「もう会えない」って曲は世の中に腐るほどあるじゃないですか。でも会えなくなった人との関係性が重要で。おれがおじいちゃんのこと思い出すなら「お小遣いもらえなくなって悲しい」ってことかなって。

―ほかはヒップホップっぽいセルフボースト曲「YABO」もあったり。

これは嘘しかないんで。「路上の哲学者」とか単に韻踏むだけに入れてるだけですね。「夢はデッカクな」とかも嘘で。夢とかないんで。「格が違う」も嘘で。ただのキモオタクで。「この界隈なんやかんや漏れ文句なしNo.1のオタクさ」。これも嘘ですね。おれはナンバースリーくらいですね。「路上で流布 噂」。路上とか行ったことないんで。この曲は全部嘘です。

―あえてヒップホップっぽいことをやってみた?

「キモオタクが何かっこつけてるんだよ」って、おれのこと知ってる人ならなると思って書きました。チェッケッラとか行ってるし。「第一人者ハヤオミヤザキみたいに朝起きて魔剤」とか、こんな虚無みたいなのよく思いついたなって。「カカオみたいにいい匂い」とかマジでないですね。この曲は初めてライブでやった曲で、すごい気に入ってますね。

あとは「東京以外」。これはゼロ年代オタクの心の「どっか別のところ行きたいな」という素直な気持ちを曲にしました。高校時代はどこにも行けないと思っていたけど、大人になると行きたいところに行けるようになるじゃないですか。今は無理にどこかに行かなくていいけど、あの時は行きたかったなという変化を曲にしました。

「カラフルライフ」も個人的に好きですね。ポプテピピック好きなやつをdisるっていうただの暴力みたいな歌詞なんですけど。「テンシルエア」の曲順はドクマンジュくんと相談して決めたんですけど、いいアルバムになったと思います。

自分自身の変化によってテーマが変わっていく

「wooooooo?-shit」はサウンドクラウドで「テンシルエア」と「ENERGY WAVE」の間に出した曲で、就職して環境が変わったくらいの時に出したもので。これはすごく明るい曲ですね。

このフックのところとかすごい好きなんですよ。「また今度のパーティ今日より明日 明日より次 次より次々 /ツギハギのミュージック /やっぱ好きだねここのこの空気」。ツギハギってヒップホップのことでもあるし、キモオタクがやってるってのもそうだし。「やっぱ好きだね ここのこの空気」って韻踏みながらいうの楽しいです。おれ、すごいナルシーなんで自分の作った歌詞大好きなんですよ。


―よく出来てない歌詞は歌えないですからね。

そうですね。歌ってるときに後ろめたさが出ちゃうんで。やりきれなかったというか。あと、「エナジーウェーブ」は超好きで、自分でもめちゃ聴きました。このEPはこの曲を作ってほしくて聴いた曲なんで。ほかの曲は全然メロディアスじゃなくて、ノイズっぽい曲も入れたりしてるし。

おれはあんまり実験的な音って使いたくないというか。単純に音楽としての難易度が跳ね上がるし、やっぱりヒップホップのビートは聴きやすいにこしたことはないと思ってるので。ただ、ドクマンジュはそういうノイズっぽい音が好きなので、このEPはあえてメロディアスなものをこの1曲に絞って作りました。全体的にわりと内省的な歌詞が多いですね。

※NERGY WAVEはストリーミングだと一部聴けない曲があります。ダウンロードしてPC・itunesなどに取り込み直して聴いて下さい。

―じゃあ、次は大丈夫音楽名義の「TOUMEIPOLICE」の話を。

大丈夫音楽はドクマンジュが「曲を作りたいけど、全部自分で書くのはしんどい」というので色んな人と組むために作ったプロジェクトですね。


―このアルバムは1枚の中に統一されたストーリーがある感じなんですか? ちょっとアニメとかのドラマCDっぽいというか。

そこまでちゃんとしたストーリーが1枚の中にあるわけじゃないですけど、世界観をこういう風にしようというのは話し合ってました。「OTK is DEAD 2」とかは秋葉原が荒廃してオタクもみんないなくなっちゃってという歌で。これは自分のコンプレックスをあらわにした曲でもあるんですよ。最近アニメも全然見てないし、Twitterでもアニメの話しなくなっちゃって。

ただ、一方で今はアニメを見ないで違うことを一生懸命やってるって思ってて、明るく終わらせていますね。あと、ストーリー性と言えば「OSHIMAI BABY PLAY」はおれらの界隈のすごい有名なツイートを曲にしたっていう。

おれらが「赤ちゃんプレイっていいよね」っていう話をTwitterでしてたら、友達の小梅びうすが「おれも赤ちゃんプレイしてえな」みたいな話をしてきて。それが急にスカトロの話になって、「お前ふざけんなよ」みたいになって。そのツイートのスクショを貼りまくって。おれらの会話をツイートするスタチンBOTってのがあるんですけど、それにも載せて「永遠にネットに残るからな」って。それも曲になってしまったという。


―あれはヤボシくんの語りの後にフックが入る構成がいいですね。フックも真似したくなるし。

あの語りは全部小梅びうすくんのことを言ってるんです。「悲しい男」っていうのは、「自撮りとかツイートしまくってるけど、お前もうオワコンなんだよ」って。「でも、あの頃面白かったのは本当だよね」っていう、おれらと小梅びすうくんの歩んできた道が反映されてます。

―「ROUDOLION」はある少女の旅立ちの話というていだけど、ああいう別世界の話はどうやって書いているんですか?

でも、これは仕事のつらさとかが反映されてますね。別世界ものだけど「心より重い比率の手錠をかけて生まれてきた」とか。今不自由してるというのが出てます。

―設定はヤボシくんのことではないけど、その時々の感情を書いている?

それはありますね。

―「立ち上がらなきゃ」という言葉も、自分を鼓舞するためみたいな?

そうですね。そう言ってないと落ちてく感じがするんで。

―「TOUMEIPOLICE」は曲ごとの完成度が高いのと、音がポップになってますね。

「ENERGY WAVE」から落差がありますよね。ドクマンジュの「SENCE OF DAIJOBU」とか、サビに歌が入って、ロキノン寄りというか、くるりを連想させるような感じで。彼はバンドを組もうとしてできなかった過去があって、それがコンプレックスになってるんですよ。曲作れないまま卒業しちゃって。だから会って最初の頃はthe pillowsの話とかしてたし。

―でも、普段の会話からはあんまりロックの話出てこないですね。

今はあんまりしてないと思います。でも、Tinpot Maniaxの最後にドクマンジュの好きな曲を流して物を叩くセッションがあるじゃないですか。あれはけっこうJPOPとかも流してますよね。音楽が好きってことなんだと思います。

―では、今までの話を踏まえた上で次のアルバム「REVLIGHT」はどうなる予定ですか。


今までのアルバムって作ることが目的で、特にこうしたいってのないまま曲作りまくってたんですけど、今回はわりと言いたいことがあるんで。一貫した感じのアルバムになる可能性があると思ってます。

―今出来ている「MANNAKA」「REVLIGHT」だけ見ると社会人1年生感強いですね。

単純に仕事でむかついたことがすごい増えてきて、じゃあそれを曲にしようかなと思って書いてます。社会人1年生、超つらいんで。逆にこんなにつらいのは今だけであってほしいし。

でも、楽しいだけが自分じゃないんで。つらさって消せないじゃないですか。おれは自分のつらさや怒りを消せるやつを絶対信用しないっていうか。だから、書いておきたいなって。

―立場の変化によってラップのテーマが変わっていくと。

あと、おれ子供の頃から死ぬのが超怖くて、絶対に死にたくねえと思ってたので、その死生観を語ったり……。そんな全体が暗いわけではないと思いますけど、シリアスな内容になると思います。でも、つらい中でも友達に会うと楽しいし、イベント開くとみんな来てくれるし、そういう人たちへの感謝をこめたアルバムとして出したいなって。

アニメキャラの分まで「人間やるぞ」って

歌詞にもそういうところをちょいちょい入れて「友達のために来た」「漏れがいる場所はどこ」とか。あと「わかりあえないことすらわかりあい でも漏れたちは変わってけるから その価値観さえあれば 漏れは 漏れはここにお前らと居続けられるから」は、日頃思ってることです。

Twitterで仲のいい人と口論になったりするじゃないですか。そのうち三分の一くらいは気づけて反省できることもあるんで。相手も変わったりするし。おれ、なるべくブロックしないようにしてるんですよ。排他的になりたくなくて。

「MANNAKA」ってタイトルはTHE BLUE HEARTSの「世界のまん中」からとってます。おれはネットの片隅にいるごろつきですけど、だったら自分を中心にしよう。誰でもその人の中では真ん中だしって思いで書きました。

おれは自分がすごく好きで、利己的な考え方をするんですけど、それは他人に優しくすることと矛盾しないじゃないですか。でも、優しいけれど自分のこと嫌いな人っていて。そういう人がもっとその人の世界の真ん中にたってくれたらいいなという身勝手な祈りなんですけど。

ただ、大前提としておれがいる場所は家族や仲間がいてくれるところというのもあって。「ヒップホップはすぐ家族や仲間に感謝する」とか言われるじゃないですか。でも、そりゃそうだよ。じゃあ、お前はそういうこと思わないのかよって。

―ヤボシくんはTwitterでも曲でも自分の感情的な部分をさらけ出すことをいとわないですよね。そこが表現の幅が広がっていく一因だし、人に好かれるところなのでは。

自分の感情を出すことには固執してますね。仕事に適応すると、ある程度身の回りのことや感情を犠牲にしないといけないじゃないですか。そういう真面目さ、おれは尊敬しているし、お金を稼いで自分の仕事に責任を持ってのは当然あるんですけど、一方でおれは絶対に感情を捨てないぞって。

ほんとうに労働ってクソだと思ってて、すごく働きたくないんですけど、仕事をやることで他のことを切り捨てるんじゃなくて、絵も描くし、ラップもやるし。全然うまくいってないけど、その決意だけはある感じですね。

―ちょっと話がそれますが、私ヤボシくんの歌詞ツイートすごい好きなんですよ。あれを読むとその曲聴きたくなるんですよ。ああいうの恥ずかしがる人が多いのに、すごいさらけ出してる感じがあるなって。

歌詞ツイートすごく好きなんですよ。でも、恥ずかしいとはちょっと思いますね。すごい歌詞に依存してる人ですよね。ああいうことするの。

今THA BLUE HERBにハマってて。BOSS THE MCはすごくストイックで人間の可能性を信じてるんです。そして、絶対前を見ることを忘れてなくて。だから、すごい泣いちゃいますね。おれ、けっこう歌詞ツイートしながら泣いてたりしますね。アニメとかマンガでもすぐ泣きます。

ホーリーランドってマンガに主人公とその友達とのすごい泣けるエピソードがあるんですけど、「あー、今日泣こっかな」って時に読み返したりします。ホーリーランドはいじめられっ子だった主人公がケンカを始めて強くなっていく話なんですけど、そうするうちに人間関係が出来てきて、最後に身体の力だけじゃなくて、覚悟が決まって強くなる。心の力でパワーアップするっていう。

そういうの笑うヤツいますけど、おれたち普段からケンカしてるわけじゃないから、じゃあおれたちにとっての強さって何かって言うと心の強さじゃないですか。ホーリーランドには格闘を通じて人間的に成長するという普遍的な話が描かれていて、それはすごい大事なことだと思うんですよ。そういう意味で、おれはアニメとかで培ってきた価値観を信じてますね。

―人間的ですね。

そうあろうとしてるっていうか。

―それは元から?それとも意識的に?

きっかけは……。そうだ、「ステラ女学院高等科C3部」ってアニメがあるんですけど、それ、話が超暗くて。ゆらちゃんって主人公がサバゲーを始めるんですけど、サークルでなじめなくてすごいケンカ別れをするっていう。ゆらちゃんは、すごく人間的で、全然勇気がなくて、やることなすこと中途半端で人に迷惑掛けて周りが離れていっちゃう。オタク的なんです。

本人にも非があるし、周りに集まってるのも嫌な人たちで距離感出来ちゃうみたいな。見てるとストレスたまるんで、オタクに叩かれて、「ゆら公、ゆら公」って言われて。それがすごいつらくて。

ゆらちゃんはお前らよりよっぽど人間性があるのに、なんで叩くんだ。ゆらちゃんがもし実在の人間だったらそれはいじめだろって。アニメキャラだからそんな風に言えるんじゃんって。

でも、その時に思ったんですよ。どんなにリアリティがあってもアニメキャラは人間じゃないんだって。だから、人間扱いされない。それはすげえ悲しかったですね。その後はどんなアニメ見ても「こいつ人間じゃないんだ」って感覚があって。でも、アニメのキャラが生きている場所は交わらないけど、おれの中にそのキャラが入ってきてるというのはあって。

それでも、限られた物語の分しか存在しないわけじゃないですか、アニメのキャラは。だから、おれはゆら公の分まで人間やるぞ。「フタコイ オルタナティブ」の双葉恋太郎の分、彼はアニメ13話と外伝小説……。そこまでしか彼の人生っていうかキャラ生はないんですけど、アニメキャラから受け取ったものを大事にしながら、もっとその先までいくぞって思ってるし。だから人間性にすごくこだわってるのかもしれませんね。

―背負ってますね……。でも、たしかに作品を受け取るってそういうことですね。では、今後の目標は?

真面目にラップやりたいなって。

―今までも真面目だったのでは?

いや、友達がやってるからやってるだけみたいな感じだったんで。「REVLIGHT」もそのくらいの気軽さで作るんですけど、これからもっとラップ楽しめたらいいなって。

「REVLIGHT」はおれの人間性を担保にして作った作品で、友達に聴いてもらいたいと思ってるんです。でも、次はもっとどうでもいい作品になるかもしれない。でも、それでも「これ、何かいいじゃん」って思ってもらえるものにしたいなって思ってます。(2018/3/14)




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