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#2 小説家・長崎尚志「広島を愛したストーリーテラー」(2019.8.23&30)

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カミガキ談(この言葉にスタッフ一同影響されるBOYS)


ブンクリ2人目のゲストは長崎尚志さんです。

小説家……ではあるんだけど、個人的にはやはりマンガ原作者として浦沢直樹さんと組んでモノにした名作の数々、そして『ビッグコミック・スピリッツ』の編集長まで務められた編集者としての視点、そこに非常に敬意を抱いております。だって『MASTERキートン』ですよ? 『MONSTER』ですよ? 『20世紀少年/21世紀少年』ですよ?

改めて、長崎さんが手がけた作品をざっと挙げてみましょう。

・浦沢さんとの共作で『MASTERキートン』『MONSTER』『20世紀少年/21世紀少年』『PLUTO』『BILLY BAT』……綺羅星です

・リチャード・ウー名義で『ディアスポリス 異邦警察』『クロコーチ』。他にも東周斎雅楽、江戸川啓視などさまざまなペンネームでマンガ原作執筆

・小説家としては『アルタンタハー 東方見聞録奇譚』『パイルドライバー』など。あ、映画版『20世紀少年』の脚本もやられてるんだ……ということで、そのまんまですが景気づけに1曲聴いておきましょう。アーオッ!

今回ナゼに長崎さんが「ブンクリ」に出てくださることになったのか? その発端は都市伝説のようなひとつのタレコミからでした。

『どうも、アノ長崎尚志が広島に住んでいるらしい……』

ウソだろ? んなわけないじゃん? なんで? だって『プロフェッショナル』にも出てた人だよ? ウィキペディア見ても広島出身とか書いてないよ?……でもそのウワサ、本当だったんです。

「8年くらい前から広島にマンションを借りて、仕事場みたいな形をとっててるんです。それ以来、月に一度くらいは必ず広島来てますね。どうして広島だったか?……もともと小学校の1~4年生の間、広島に住んでたんです。牛田中ってとこ。広島を離れた後も各地を転々として、どこにも故郷がない人生を送ってて。で、会社を辞めてフリーになって、自分が好きなところに住んでいいとなったとき、ふっと思い浮かんだのが広島だったんです。きれいな街だし、東京より四季ははっきりしてるし。8年通っても飽きないですね。僕にとっては子供時代の思い出が一番強かったんでしょう」

なんと8年前から一部広島住まい。本通や平和公園を歩きながらストーリーを考えたりしてたとか。そんな「長崎→広島」ルートをさらに明確につないだのが、今回長崎さんが上梓された最新小説『風はずっと吹いている』(小学館)。これが「広島発世界行き 熱く重厚なミステリー」という惹句の通り、舞台は広島、しかも原爆投下直後の広島と現代の広島を行き来するという内容。長崎尚志、原爆を描く――それは一体ナゼなのか?

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「広島の小学校に通っていた頃、母を通じて先生やご近所さんたちの被爆体験を聞かされてたんです。ただ、それは子供心にも重くて、転校と同時に忘れようとして……。自分はそこから逃げたという意識があったんです。だけどこうして再び広島に住むようになると、自分にとってやり残した宿題があるということを思い出されて。それで書いてみることにしたんです」

再び向き合った「広島」の記憶――それを長崎さんは、ご自身がずっとその身を置いてきたエンターテイメントの世界で表現しようとした。広島郊外の山中で見つかった白骨死体。その正体は誰なのか?……犯人と動機を追う中で、私たち読者は被爆直後の荒野の光景や、現代のなまなましい核武装の論議に遭遇していきます。

「原爆という大きなテーマを扱うことに関しては相当悩みました。この問題を語り継いでいくのは広島の人でなきゃダメなのか? でもこれって日本の問題じゃないのか? と思ったら書いていいと思ったし。それにエンターテイメントと思って読み進めた作品でも、これをきっかけに戦争というものに興味を持って、ドキュメンタリーを読む人が出てくるかもしれない。そういう入口になれる可能性もあるかも……と覚悟を決めて書きはじめたんです」

ある意味、本作は「命懸けで書いた」という長崎さん。これまでの純エンターテイメント作品から、エンターテイメントの枠内にメッセージを落とし込む手法に挑んだことは、小説家として新たな挑戦になったようです。

ここで話は逸れますが、本作には広島のグルメネタがめちゃくちゃ出てきて。「陽気」「ロペス」「寿楽亭」などが出てくる(どこに出てくるかは各自探してください)んですけど、これってちょっと広島をリサーチしたくらいじゃ書けないレベルのディープさ。さすが「ほぼ在住」っていうか、で、長崎さんに広島メシ事情訊いたら、小説よりアツい口調で語るんです!

「僕、東京から友人が来るといつもいろいろ連れて行って、広島のラーメンやお好み焼がどれだけ美味いかってことを教えようとするんです。広島の人ももっと自信持てばいいのに。ほら、『広島風お好み焼』とか……なんで『広島風』って言うかなぁ! こっちの方が『お好み焼』ですよ! ラーメンも博多ラーメンとかあるけど、広島ラーメンは美味いですよ。なんであんなに美味いのに有名じゃないのかなぁ……」

ありがとう、長崎さん(涙)。ありがたいほどの広島愛。オレ、今度、長崎さんが気になるって言われてたラーメン屋、行ってみますよ。銀山町の「〇〇きー」ってお店……

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そして今回、長崎さんにもっとも訊きたかった質問。編集者として、マンガ原作者として、小説家として……「面白い物語ってどうやったら作れるんですか?」。教えてくださいー!(切実)

「いろんな物語って分類していくとパターンが似てるんです。そのパターンが読める人はストーリーが作れます。僕がよく言うのは『キリングフィールド』っていう戦争映画のラストと、タロ、ジロの犬ぞりが出てくる『南極物語』のラストが同じだってわかる人がストーリーを作れる人。その2本のラストは両方泣けるんですけど、かたや戦争映画、かたやかわいいワンちゃんが出てくる映画、あの2つのラストが同じものだと分類できる人がストーリーを作れるんです。世界中にあるストーリーのいろんなパターンが読める人が、ストーリーを作れる人だと思います」

金言、いただきました~。これ、たぶん物語をストラクチャー(構造)として見れるかどうかってこと。そのパターンをどれだけ知ってるか? 長崎さんは物語を「名曲のコード進行パターン」みたいに捉えてるんですね。

「だからストーリーを作ろうとする人は多くのストーリーに接するしかないんじゃないかな? 結局ずっとテレビとか本とか映画とかに触れてる人が、ストーリーってものを作れるんですよ」

なるほど。そして、さらに追加のアドバイス。訓練法って感じかな?

「小説でも映画でも、物語が途中まで来たらその先の展開を自分で作ってみるんです。それで続きを読んで、自分が考えた通りの展開だったら『おれはこの作家と同格だ』と思えますよね。一方違う展開を想像して、自分の方が面白かったら『これで一本作れるな』って思えばいい。つまらない作品を読んで、『ここをこうしたら面白くなるのに』って考えつける人はストーリーが作れる人ですよ」

もうひとつ、どうしても訊きたかった質問。僕は個人的に小説というジャンルの先行きに非常に不安を感じてるんですけど、長崎さんは小説の未来、どう思います?

「グルメでたとえると、昔はグルメサイトなんてないから、みんな自分の足で店を探して、失敗もたくさん経験して、美味しい店を見つけてたんです。それは小説も同じで、みんなその小説が面白いかつまらないかわからない状態で買って、読んでたんです。今は美味しいお店も面白いと言われる小説も先に評価が出てしまうから、みんなそれを見て買ってしまう。だから売れる本は前より売れるようになったし、売れない本は前より売れなくなってしまった。ただ、最近はグルメサイトで星が低くても美味しい店が出てくるようになったし、それぞれが自分の感覚でいいものを探す方向に回帰していく可能性もあると思うんです。僕は本を読む人口自体はあまり変わってないと思いますよ」

ちなみに会議中、頭が真っ白になったのは、長崎さんが拙著『愛と勇気を、分けてくれないか』(小学館)を読んで「ちょっと泣いた」って言ってくださった瞬間。あまりの嬉しさに深追いすることができず、そのまま流してしまったけど内心はめちゃくちゃ感動してました。

『あの長崎尚志がオレの小説を読んで泣いたらしいぞーーーーーー!』

でも長崎さん、どこで泣いたんだろ? オレ著者だけど、あの小説、泣くところなんてあったっけ……??

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2019.8.9@HFM

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