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【ココロコラム】悩みが永久に続くことはない

精神科医は、日々人の悩みに接する職業です。その中でつくづく思うのは、自分の現状をなんとか認めていくことの大切さです。

過去や今の自分を「まあこれでよかったか」となんとなく肯定していくことは、人生の一つの大きな課題ですし、どんな境遇であれ、やる必要があることです。幸福な人生を送っている人でも、不満足なところや人より劣っているところを挙げていったら、きりがありません。

権力があっても家庭が順調でないかもしれません。容姿が良くても健康に恵まれないかもしれません。いいところも悪いところも含めての、自分です。それは肯定しないと損ですし、日々を送る中で少しずつでも自分を許し、満足していく必要があります。

「まだここがダメだ」という前進思考は、仕事などには好影響でしょうが、幸福につながるかどうかは疑問です。悩むなというわけではありませんが、欠点や悲運ばかりあげつらっているのも、頭の中でどんどん悲劇が拡大されてしまい、あまりいいこととは思えません。

自分は電卓より暗算が遅いと悩む人はいません。しかし、自分を許せない人の中には、これと同じようなことをしている人がけっこういます。わざわざ自分の不得意分野と、他人の得意分野を比べて落ち込んでしまう。それよりは、自分のできるところや得意な面、過去のいい思い出などを中心に自分の核を作っていったほうが、はるかに精神が楽になります。

もちろん、悩んでいる人ほど「自分にはいいところがひとつもない」との考えに陥ります。私もかつて、半引きこもりのような生活をしていた時代があり、よくこのような考えをしては、鬱々となっていました。自分のような何もできない人間は、今後もろくなことが起こらないだろう。現に今も不幸だ。どうすればいいのか・・。というような心理です。

こういうときは、未来の見通しを少しでも明るく持つことが大切です。昭和時代に比べれば、携帯もスマホもありますし、パソコンもあります。自分が仮に全く進歩しないとしても(そんなことはありえませんが)、世の中はどんどん便利になることは間違いありません。十年ぐらい経てば、世の中は一段階進化しているものです。

それと同じで、自分も徐々によくなってくる。少なくとも、許せるようになってくるという見通しを持つことは、人生の質にかなり影響します。このとき、努力はひとまず棚上げにしましょう。落ち込んでいるときは、努力するエネルギーがありませんから、そこを責めるのは無駄なことです。何もしなくても、漠然と未来を明るく考えることが大事なのです。「どうせこの先もいいことなんかない」と思い続けるのと、「そのうちなんとかなるだろう」と思っているのでは、現実の運にかなり影響があると思いますし、運は人生を相当左右します。現在は暗くても、せめて未来には一筋の希望を持ちたいものです。

人生は一回だけです。一回しかないものを、どうせろくなことはあるまいと斜に構えているのはあまり賢明とは思えません。なにかいいことがあるはずだと思い込んでいたほうが、幸運の女神を引き寄せる確率が高いと思います。

精神科医になって思うことは、同じ悩みを十年悩んでいる人はまれだということです。今のあなたの悩みも、十年後にはなくなっている可能性がかなり高い。同じ苦しみは十年続かない。これは、ぜひ覚えておいてほしいと思います。二十代ぐらいだと、十年というのはすごく長い時間のように感じます。しかし、過ぎてしまうとけっこう早いものです。少し長いスパンで自分の周りを見渡し、なんとなく肯定し、楽観視することは、人生を楽しく生きる上でかなり大事な技術ではないかと思います。

(精神科医・西村鋭介)

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