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母がいた-25

先日、友人からご飯のお供をもらった。名古屋コーチンの肉みそのようなもの。これがめちゃくちゃご飯に合う。炊き立てご飯にちょんと乗っけて食べるとたまらない。良いものをいただいたなあと思いながら最近は白米の消費量が増えている。もともとお米が好きというのもあるのだが。

食べることが好きだった母も、もちろんお米が大好きだった。朝昼晩の3食では何かおかずを作ったり酢の物を作ったりしていたが、夜食は決まって白米とご飯のお供だった。特にお気に入りだったのが、ちょっと高級な海苔の佃煮。小さめの高そうな瓶に入った、ツヤのある海のブラックダイアモンド。

湯気の立ちのぼるご飯に佃煮をのせ、はふはふとご飯をかきこむ。佃煮の塩気と海の香り、ご飯の甘みを堪能したら、夕飯の残りの味噌汁で流し込む。それを繰り返しつつ、きゅうりの漬物を口直しにポリポリ。書いててお腹すいてきたな。たべたい。

そんな母が、一時期夜食の白米を控えていたことがある。病院の審査結果が芳しくなかったらしく、炭水化物を減らしましょうと言われたのだ。その日から母は夜食をお豆腐に切り替えた。まあそもそも夜食やめなよという話ではあるのだが。

ある夜は冷奴、別の夜は豆腐ステーキ、湯豆腐の日もあった。おいしいと言いながら食べてはいたものの、やはり白米の魅力には勝てなかったようで母は少しずつ落ち込んでいった。気分が落ち込むだけならまだしも、なんと母は体調を崩したのだ。「お米が…..お米が食べたい」とうなる母を見て、これは先生にも相談しようということになった。

次の検診日、数値が改善されていますよ、と褒められた母はあまりうれしそうではなく、そんな母を見た先生が何があったのか尋ねる。実は白米を控えた結果心身ともにバランスを崩してしまった、と伝えると先生は笑いをこらえながら「そこまで!?」と言っていた。そこまでだったのだ。

相談の結果、白米オンリーではまた数値が悪化してしまうので、麦ごはんや雑穀米などで対処しましょう、ということになった。その日の夜、久しぶりに夜食にお米を食べられる母はワクワクと炊飯器の前で炊き上がるのを待ち、待望の麦ごはんが炊き上がった。

はやくはやくとせがむ母に、お茶碗に盛った麦ごはんを差し出す。ご飯のお供はもちろん海苔の佃煮だ。ありがたそうに麦ごはんを拝み、ひとくち。瞬間、目を見開く母。ああ、やはり純粋な白米でなければいけなかったか、と僕たち家族が気を落としそうになった時、「うんまい!!」と母が叫んだ。

どうやら久々のお米だけでなく麦ごはんが想像以上にお気に召したらしく、母は「こりゃいけるわ」と言いながらあっという間に平らげてしまった。心なしか母がつやつやしている。炊き立てご飯のような顔だ。僕たち家族はほっと胸をなでおろし、以降母のお夜食は麦ごはんや玄米、雑穀米と相成った。

それからというもの、母は道の駅やオーガニックショップでお米に混ぜる穀物を買ってきては「これがおいしい」「これもいける」とどんどんハマっていくのだが、結果食べる量が増えてしまい、数年後また先生に怒られることになるのだった。

友人からもらった名古屋コーチンご飯だれ、母が食べたらどんな感想が出ただろうか。まあ十中八九「うんまい」と言いながら数日で平らげてしまいそうだな、と思いながらこの記事を書いた。ご飯の話を書いていたらお腹がすいたので、海苔の佃煮と白米を食べてきます。量には気を付けよう。

白米と佃煮を愛し
雑穀米に無限の可能性を見出した
そんな、母がいた。

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