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After.

翡翠色の記憶ー

明るい日差しに囲まれて緑の葉が一斉にさざ波をたてた。とあるガーデンハウスの一室。外はこれも、どこまでつづくか分からない植物のハウス、ハウス、ハウス・・・・・・・・。
こそりと音を立てて除くものがある。振り向けば人形と見紛う容貌の、長い黒髪をしたアンドロイドの少女。最近どこからかワープしてきた旧来型のロボットである。
ニガヨモギ色、黒い斑のアロエを凝視している。

その植物は毒があるよ。

説明せずとも彼女はスカートをなびかせてタタタと逃げていった。彼女は、seaは思念を読み取れるのだった。
天窓を開けた空から眩いばかりの青色が重なった。ゆくえのしれない風がときおりこうやっておとずれてくる。
吹き荒れる砂もない、やさしくなでていった。
ここにはなにもない。なにも残っていない・・・・・。
そうだ、僕は涙もろくなった。

だからといって未来に住んでいた確かな時間を埋めてはくれない。

夕陽に染まり始めた光が頬をつたう。もう一度、呼びに行こう。念は飛ばさずに、散歩がてら。

ことの始めはロボットの話をするのがいいだろう。感情には反応しない。不安定なとき、そばにいてスキンシップをとる、くらいはする。話す機能をもたない人型アンドロイド。やがて争いに身を投じることもしらずに、人間は一種のヒーリングと生活のために彼らを利用した。そう、利用したというのがいい。
命令は絶対服従であった。
一人一人にあてがわれたロボットはやがて別の惑星で、いわゆる”弱者”を除いた一人一人の思念による争いに発展してしまった。送り込まれたロボットは火星という惑星にて、人間にとって都合のいい、恐るべき機能を発揮させることとなる。
そもそもなぜ、人間が人間を攻撃しないのか。
すでに知識量も機能性でもAIの方が勝ってしまっていたからだ。そのときから人間とロボットとの共生がはじまったといっていい。
ともあれ、とある世紀に、とある惑星でロボット同士の大きな争いがあった。

交代制であるとはいえやがて脳への負荷が極限に達するころ、ロボットは一人、また一人と倒れていき、幾星霜、大きな光がみえた。国同士の話し合いのすえ、ハッキングによってすべてのロボットは全滅させられたのである。否、そのはずだった。
あの日、僕は”彼女”にエネルギー補完の命令を下したばかりだった。ところまでは覚えている。
気絶したんだろう。そこからは記憶がない。
気が付けば緑豊かなこの土地に、僕を含めた幾人かが立っていた。
パラレルワールドと、そう呼んでいるものもいる。そうでなければ、考えられない。納得できない。
未開のごとく開けた海と大地で、なすすべもなく立ちすくんでいた。ロボットが現れるまでは。

馬鹿な、幻想じゃないのか。しかし彼らはそこにいた。それも、かつてのパートナーとして。
刹那の出来事だった。

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気が付けば目の前にいる。
・・・・・。

手の平の盆には小さな赤魚と、コーンサラダが2皿ずつ乗っている。
大きな翡翠の瞳が僕をみつめていた。そうか、散歩しようと思っていたのに、できたからもってきたんだ。
思った瞬間走り出す。
ああ、だから念というのは少しめんどうくさい。

ここで食べよう。戻っておいで。

命令には絶対服従。やはり戻ってくる。その瞳の色が純粋すぎて、忘れてしまいそうになる。

日常がまた一日を絶つ。

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