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生きていたくないと、物語に

私は自分の精神状態を一定に保つことのプロフェッショナルであると感じる。28年も生きているので当たり前かもしれないが、側から見て起伏の少ない人間だと思う。

心を一定に保つコツは現実世界に深く関わらないことだ。深く考えるのはフィクションの中だけにして、現実はフィクションの真実を通して垣間見する、それくらいにする。

そうでもしないと正気なんてすぐに失われる。物語の中に真実を隔離して、真実の奥深くには立ち入らないようにして、それでやっと正気を保ったまま現実世界を少し垣間見れる。

現実世界はあまりにも残酷すぎて、厳しすぎて、私は直視できない。悲しい出来事も怒りに打ち震える出来事も多すぎる。70億人の人生が、過酷な状況下に置かれた人々の人生が、あると想像すると、私がベッドで何もせず惰眠を貪って、ピザを食べて、なんとなく起きてダラダラと仕事をしながら上司の愚痴を言う、そういったこととの対比が苦しくなる。

そんな壮大なことを想像しなくても、簡単に苦しくなれる。まず、自分の50年後を想像するだけで絶望的な気持ちがする。他にも、身近な人の想定外の不幸、最後は一人になるのだと思い知らされる事件、決別、自分の足で立ち続ける過酷さ、過去の自分の過ち、Twitterだけで近況を知る友人のツイートが日に日に暗くなること、人に会いたいと感じること。苦しいことが多すぎる。


自分の心を破壊し尽くさないように、現実は垣間見する。物語の中でしか語られない真実を通して。

「生きていたくない」ことを思い出さないように、いや、そもそも自分が生きていることを思い出さないように、物語の中へ、時の流れから切り離された物語のなかで驚き、笑い、皮肉をいい、悲しむ。

自分の苦しみも物語のように語ることで、それはやがて現実ではなくなる。現実をこえた真実になる。私から切り離されて自由になる。そして、誰かの心の中に住み着くだろう。現実から少しだけその人を守る物語として。

最後まで読んでくれてありがとう。