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『ネアンデルタール人は私たちと交配した』を読みました。

スヴァンテ・ペーボ教授の『ネアンデルタール人は私たちと交配した』を読みました。
ネアンデルタール人のDNAゲノムを解読した、あのペーボ教授の本です。
2015年刊行(原書は2014年)なので、今さら~感はありますけど。
あの頃は、うちの子どもたちも多感な年ごろだったので(今も多感だけど)、そんな読書三昧なんてできなかったんだよう……って、そればっかりやな、全く。


このところ、人類史にハマっておりました。
なので、先日読んだ『絶滅の人類史』と同様のノリで、この本も手に取りました。
ページを開くまでは、ネアンデルタール人の解説本か何かかと思っていたんですよ、恥ずかしながら。
実際は、ペーボ教授の研究回想録でした。当然か。世界の第一線で研究されている方が、素人向けの本なんか書くわけないじゃん。

この本は、ペーボ教授が、人類史の研究にいかに入っていったか、挫折したり悩んだりしながら、いかに研究をつづけていったか、そしていかにネアンデルタール人のDNAを解読していったか、そういった自伝的な内容となっています。
世界的な研究者であっても、悩んだり、感情的になったり、焦ったり、本当に普通の人間なんだなあと思わせてくれる本です。めっちゃ親近感がわきますし、気づいたら読みながら応援してます。
私は文系だったので、理系の研究の世界はよくわからないんですが、どの研究もチームを組んでされているんですね。
ペーボ教授が、共に研究する仲間をいかに大切に思われているか、適材適所を考え、個人の能力をいかに引き出そうとされているか、そういうのも伝わってきて、見習わなくちゃってなっちゃいますね。

私は50代なので、90年代の映画『ジュラシックパーク』に興奮したことも、実際に琥珀から恐竜のDNAがとれた! なんてニュースが出たことも記憶しています。
うわ~、すごいじゃん! ってなりましたよね、当時。
でも、そのあと続報が全然なくて、気がついたらそんなの忘れてた……。
あれらが全くの勇み足による産物だったって、素人的にはショックなんですが。
みんなでわ~わ~大騒ぎしてた陰で、ペーボ教授がどんな気持ちでいらしたか。
でも、愚直なまでに、確実な研究を続けてこられたからこそ、手抜きしたりなぞなさらなかったからこそ、ネアンデルタール人のDNAを取り出せたんですもんね。
プロの仕事って、最後はこういう真面目さが勝つんですよねえ。どの分野でも、きっと。

そういえば、この本の冒頭にPCR検査という言葉がやたらと出ています。
あらためて「ああ、PCR検査って、別にコロナウィルスを知らべるためだけの検査じゃなくて、細胞を増やす装置なんだよなあ」と思い知りました。
今回のコロナ禍で、PCR検査のできる技師さんが増えたら、科学の発展にも役立ちそうですね。

そして、ペーボ教授は昨年、デニソワ人の研究のために、沖縄科学技術大学院大学さんと契約されたようです。
https://www.oist.jp/ja/news-center/news/2020/6/24/35247

日本人って、わかりやすく経済に結びつく研究じゃないと、お金を渋るところがあるじゃないですか。
研究投資が、いつごろ回収できるかにばかり、目が向いたり。
ネアンデルタール人のDNAって、ロマンではあっても、その研究にお金を出せるの? って、せちがらい時代に生きる庶民は、心配してしまうんですがね。いや、感覚貧乏だわ。
すぐに直接ビジネスにならなくても、人類共通の財産となる研究って、やっぱり軽んじたくないですね。

この本を読んでて、ホントに研究がチーム仕事なので、すごい研究者であっても、個人でできることは限られているし、研究者でも何でもない一般人ならなおさら、個人では何にもできないと思い知らされます。
だからこそ、他者を尊重して、感謝して、協力し合って、みんなで生きていかなきゃいけないんだよなあ、と。

ペーボ教授は、ネアンデルタール人のDNAを解読されたとき、ヨーロッパ人とアジア人がネアンデルタール人由来のDNAを持っていることで、「持っていない」アフリカ人が差別されるのではないかと、危惧されてました。
つまり、そういう気配りが、我々はちゃんとできるのか? と問われる世の中に来てるってことではないでしょうか。
ないものはない、あるものはある、それが事実じゃん、なんて子どもみたいに開き直るのではなく。
これまでの人類史において、差別はあった。その過去はどうにもならないけれど、未来にお前はどう関わるのか? と。

外国人の回想記を読むのって、そういう自分とは違う考え方を知るチャンスとしても、意味があることだと思います。
共感できる部分があれば、それは人類普遍なところかもしれないし。
自分とは違う発想に出会ったら、一度その発想をなぞってみてもいいんではないかと。

最後に、自分のやりたい研究が就職活動に役立ちそうにないから、企業受けしそうな学問をしようか、迷っている学生さんへ。
ペーボ教授も同じことで迷って、でもやっぱり好きな研究の道を選択されました。そしてその先に、ネアンデルタール人のDNA解読があったんですね。
夢だけでは食べていけないかもしれないけれど、夢も希望もなかったら心が壊れてしまうのよ。
ただ生きていくためだけに、やりたくもないことをやって、やりたくもないことをやるために生きていくって、辛すぎる。
周囲や社会に誘導されて、都合の良い人として生きるのもいいけれど、もう少しわがままになってもいいと思います。
いずれ終わりが来る、自分の人生だから。
人類だって、いつかは絶滅しちゃうんだから。
自分に残された時間は、大事に使って下さい。

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