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中江兆民の『三酔人経綸問答』を読んで、我々がすべきことを考えた話

中江兆民の『三酔人経綸問答』を読了した話をします。

昨年12月のNHK【100分de名著】で取り上げられた本ですね。
と言いつつ、私は番組の第二回を見てません。睡魔に負け続けました。
なので番組の解釈とは、ずれます。誤読します。


登場人物たちの主張

この作品には、南海先生、紳士君(洋学紳士)、豪傑君(豪傑の客)の3人が登場します。
酒好きで現実主義者の南海先生。
西洋思想かぶれの理想主義者・紳士君(洋学紳士)。
対外強硬策を唱える豪傑君。

冒頭から読んでいると、紳士君(洋学紳士)が熱弁をふるいます。しかしそれが嫌に鼻につく。そんなわけないじゃん! とツッコミをいれたくなる理想論を主張して、専制主義→立憲君主制→民主主義への移行を唱えます。
書かれた当時は明治20年。まだ帝国憲法発布前ですね。
だから、民主主義の弱点もまだわかっていない。仕方ない。
我々がそれを言えるのは、130年後の人間だから。

一方の豪傑君の主張は、当時のいけいけドンドンな世相を思わせる。日清戦争前の世相ですね。清朝を倒せるんじゃないかという、己知らずな野望。
軍備拡張して、大国の土地を奪ってしまえ! いっそ首都も移転してしまえ!(おいおい……)
この道が1945年の破滅につながっていることを、豪傑君は知らない。危うい。危うすぎる。

豪傑君は、「日本人は、昔なつかし好きの元素と新し好きの元素に分かれている。年齢も30歳以上と以下とで分かれる」というふうに言います。30歳以上の懐古主義者と30歳未満の新感覚派。
明治20年の30歳って、10歳で明治維新をむかえたという世代ですね。つまりものごころついたときは、まだ徳川時代の価値観だった。
一方の30歳未満の新し好き派は、開国後の価値観で育ってきている世代。
このギャップは大きい……。

中江兆民は当時40歳くらいで、当然昔なつかし好きの世代。そもそも土佐藩の足軽の出で、藩の学校に通ったり藩命で長崎に留学したりしている。
そして武士ですから、明治維新後の旧武士たちがどういう状況にあるかも、多分見えていた。西南戦争は、これより前の時代。

つまり清朝を攻めろと言っていた世代は、徳川時代の価値観で動く人たちで、旧武士が国内にいても不穏だから、海を渡って屯田させればいい。
戦いに負けて死んでも武士だし、主君(天皇)のために死ぬは武士の本懐だし、物騒な旧武士がいなくなれば国内は平穏になるし……というようなことを、豪傑君は言っているわけです。え? ちょっと自暴自棄すぎない?

彼らに対し、南海先生は現実路線で答えます。紳士君(洋学紳士)の意見にも豪傑君の意見にも、どちらも穴がある。だからまず立憲制度をおき、両議会をおき、外交は平和友好を原則とし、言論や出版の規制はゆるやかにしていくこと、と。
え? それだけ? と、まあ兆民自身も逃げた感を抱きつつ、書いていたようですが。(枠外に兆民のツッコミが入っているので)

ただ、南海先生が紳士君(洋学紳士)に諭しているんですけど、民主政治は一朝一夕に到達できないから、まずはその思想を口にし、書籍に書いて、人々が民主政治について考えるようにしなければならない。多くの人々の中にその考えが熟成されていかないと、民主政治には到達できない、と。
ここが、我々が今日読んで学ぶべき部分ではないかと思います。

そして、紳士君(洋学紳士)の理論も豪傑君の理論も片手落ちだとわかっているから、「こんなの読んでも役に立たないね」と切り捨てるのではなく、これが書かれた60年後に日本は破滅した、その事実と向き合い、どうすれば二度目の破滅を防げるか、考えるのが我々の宿題だよなあ、そのためには明治日本を知らないとなあ……と、思ったのでした。

原文版もぜひ読んで欲しい

『三酔人経綸問答』は100頁くらいの作品なので、文庫本の後半に原文版(と言っても漢文の書き下し文、読み仮名送り仮名つき)が添付されています。
こちらもぜひ一緒に読んでいただきたいです。

漢文と言っても読み下し文、読み仮名送り仮名つきなので、白文読むことを思えば、全然読みやすいです。
それに音読したら、リズムの良さも味わえます。なんかわかったふうな気分も味わえます。わからなかったら、現代語訳を振り返ればいいし。

それに、ルイ16世が「路易第十六」と表記されているなんて、初めて見ました。何世って明治の頃にはなかったということ?
ロシアも「露」ではなく「魯」だったり、漢字の当て字がされている権力者もいれば、ビスマルクはカタカナだったり、表記自体が新鮮で面白い。
この面白さを味わわなかったら、もったいないです。

注も面白い

で、原文版だけでなく、注もおもしろいので読んで欲しいです。
注は、訳者の先生方のツッコミだと思ってくだされ。
読んでて、「私が訳者だったら絶対悲鳴あげてるな」と思うほど、中江兆民は誤字脱字が多い。とにかく多い。訳者の先生、大変!
読み仮名も訳者の先生による親切心なので、怪しい送り仮名に振り回されて困惑しただろう箇所がある。兆民、自由すぎ。

反面、この文章は中国の古典のどこそこからの引用……という下りも多々あり、教養バトルが飛び交っているように見受けられました。やばい、引用元の文章、全然わからんわ。悔しい。

おわりに

『三酔人経綸問答』って、最初はなんかだるい本だな~とちょっと思っていたんですが、読み終わってみるといろいろな楽しみ方ができる本でした。
私は岩波文庫版を読んだので、光文社古典新訳文庫版はまた違うでしょうが、人様(100分de名著)が取り上げた本には、それなりの理由があるということですね。

以上、『三酔人経綸問答』の誤読感想でした。
ありがとうございました。


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