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【イベントレポ】純愛?ヒモ?化石に残る色恋事情 #『恋する化石』 を語る第1夜(中編)

 2021年12月、『恋する化石 ―「男」と「女」の古生物学―』の刊行を記念して行われたオンラインイベントに、著者の土屋健さんとイラストレーターのツク之助さんが登壇された。
 トークが盛り上がる中、話題は「ロミオとジュリエット」の印象的なシーンを模した表紙や、裏表紙に描かれたちょっと不思議な姿のアンモナイトへと及び、そこから古生物たちの意外な恋愛事情のお話に。
 #『恋する化石』を語る 第1夜(前編)に引き続き、トークイベントの内容を一部編集してお届けします。

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※イベント告知時の画像です※


化石界のロミオとジュリエット

――表紙の素敵な絵は、本書の中でまさに「ロミオとジュリエット」として紹介されているカーン(Khaan)(*)という恐竜がモデルになっているそうですが、このイメージは最初から決まっていたのでしょうか。
(*2個体のカーンが同じ場所から寄り添うように眠った姿で発見されたことから、「ロミオとジュリエット」と呼ばれている)

ツク之助:いえ、結構色々な案がありました。「男」と「女」というテーマからアダムとイブにしようとか、あるいは「性」というイメージから春画っぽいものとか。それでラフを10点くらい描いたのですが、どれもなんか違う。で、土屋さんと編集さんとの打ち合わせ中に、この「ロミオとジュリエット」のカーンの話になって、その場でラフをバーっと描いて、決まったって感じですね。

――土屋さんはその時のことを覚えていますか?

土屋:覚えていますよ。そもそも表紙って、編集さんとイラストレーターさんの間で決まることが多くて、著者はあまりタッチしないのですが、今回は3者でzoomで打ち合わせをしながら、あーでもない、こーでもないとアイデアを出し合って、そしたらツク之助さんが画面共有でバババババって描いてくれて。

――すごい!イマドキですね。


手がかりは殻に

――あと、裏表紙にもイラストがありますが、このアンモナイトを最初に見たときに、まず「これはどういう状況?」って思ったんです。大きなアンモナイトの体に、小さなアンモナイトがピタッとくっついているんですけど、これは親子……?ではないんですよね? 

土屋:確かに親子に見えますね。でもこの小さいのは赤ちゃんではなく、オスです。実際にこのような化石が見つかっているわけではないのですが、状況からオスがメスに付着してヒモ生活をしていたのではないかと言われています。

――オスちっちゃい…! ここまで大きさが違うと、もはや別の種に見えます。

土屋:なので最初はそう思われて、別の名前が付けられていました。でも、常に同じところから見つかっていたり、あとアンモナイトは成長するにつれて殻が外側にどんどん大きくなる特徴があるので、逆にいうと、殻の中心部分は若い頃の殻なんですよね。そこが似ているので、幼少期は同じ姿をしていたはずだと。要は、オスは途中で成長が止まって、メスはその後も大きくなり続けた。恐竜などと違って幼少期のことが殻に残るので、そこからアンモナイトには大きさの異なるよく似た2種がいる、それは「2種」ではなく同種の「性的二型」なのではないかという議論は、1950年代くらいからずっとありましたね。

――化石としてどこまで残るのかっていうのは、古生物の研究においてすごく大事なところなんだなと、改めて思いました。

土屋:そうです。どこまで残るか、そして残っているものからどう手がかりを見いだすかっていうのが、研究の主題になってきますね。

――このヒモ雄アンモのイラストを描かれたツク之助さんにもお話をうかがいたいのですが、なんだかとても、リアルでありながらかわいらしいというか、楽しく描かれたんだなぁという印象を持ちました。

ツク之助:そうですね。アンモナイトを軟体部も含めてしっかり復元するということと同時に、小さなオスが大きなメスにくっついてヒモ生活をするというとアンコウが思い浮かぶのですが、そのちょっとおもしろい感じ、かわいらしい感じを意識して描いてみました。この絵を監修の前田晴良先生が褒めてくださったと編集さんから聞いて、それが本当に嬉しくて(笑)。アンモナイトは割と序盤の方に描いたのですが、以降のイラストを描く際のモチベーションにしてましたね。

――描くのに苦労したり、つらい時の心の支えに?

ツク之助:はい! 私は前田先生に褒められた人間だってずっと言っていこうと思ってます。


ペニスと体位の起源

――そして本は、アンモナイトから絶滅魚類の章へと続いていくわけですが、ここの起源を探ることは、ある意味私たちの起源を探ることでもあるのかなと思うのですが。

土屋:その通りですね。

――この章のポイントはどこですか?

土屋:全部だな……でもやっぱり「ペニス」、サカナでは「クラスパー」ですね。あと「体位」。我々にとっての祖先グループにあたるサカナがペニス(クラスパー)を持っていて、ただ哺乳類とは形状もつき方も違う、そのペニスで一体どんなふうに交尾をしていたのか?っていうところに注目してほしいです。

――ツク之助さんはこの章で苦労されたところはありますか?

ツク之助:全部大変でした。今回、自分の目標として「イキイキと生きているように描く」というのがあったのですが、サカナはクラスパーを描いたり、雌雄の違いを描き分けようとするとどうしても横向きのイラストになってしまうんです。でもそうするとイキイキ見せるのが難しい。それで、ひたすら現生のサメを見に行きました。あと、監修をしてくださった冨田武照先生がすごく絵が上手で……。

土屋:うまかったね。

ツク之助:修正指示が絵で描かれて戻ってくるんですが、その完成度が高くて、「え、これ私いらないんじゃない?」って(笑)。

――そんなことは(笑)。でもこの章は、復元画もですが、クラスパーの化石のスケッチもいくつか描かれていますよね。他の本ではなかなか見ることができないと思いますので、そこも見どころの一つかなと思います。

ツク之助:サカナのクラスパーだけでなく、哺乳類の陰茎骨とかも含めると、1冊を通してこの部位はたくさん描きましたね。たぶん、研究者以外で最も古生物のペニスを描いた人間としてギネス登録できると思います!


*本記事は、2021年12月18日に開催されたオンラインイベント「『恋する化石』刊行イベント 〜聖夜に話したくなる、性なる化石話〜」の内容をもとに作成しています。

(聞き手:星詩織 / 編集:藤本淳子)

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#『恋する化石』を語る第1夜(後編)へ続く


profile
土屋健
サイエンスライター。オフィス ジオパレオント代表。日本地質学会員。日本古生物学会員。日本文藝家協会員。埼玉県出身。金沢大学大学院自然科学研究科で修士(理学)を取得(専門は、地質学、古生物学)。その後、科学雑誌 『Newton』の編集記者、部長代理を経て、現職。愛犬たちと散歩・昼寝を日課とする。2019年にサイエンスライターとして史上初となる日本古生物学会貢献賞を受賞。近著に『地球生命 水際の興亡史』(技術評論社)など。

ツク之助
いきものイラストレーター。爬虫類や古生物を中心に生物全般の復元画や商品デザインを描く。著書に絵本『とかげくんのしっぽ』、『フトアゴちゃんのパーティー』(共にイースト・プレス)。イラストを担当した書籍に、『イモリとヤモリ どこがちがうか、わかる?』(新樹社)、『マンボウのひみつ』(岩波ジュニア新書)、『小学館 はじめての国語辞典』(小学館)、『恐竜・古生物ビフォーアフター』(イースト・プレス)など。爬虫類のカプセルトイシリーズ(バンダイ)も展開。




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