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早咲きのコスモスを求め、吾妻山公園へ(神奈川県二宮町)
「四季をめぐる」はおもに関東地方にある花の名所を訪ね、季節の移ろいをお届けする連載コラムです。
東京駅から熱海行きの東海道線に揺られること1時間あまり、神奈川県西部にある二宮駅に到着。駅の北口を西に向かって5分ほど歩くと、吾妻山公園の入口にたどり着きました。
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吾妻山の標高は136メートル。20分も登れば山頂に到着します。まずは300段あるという階段がお出迎え。しかし、この日の予想最高気温は35度。登りきった頃には全身から汗が噴き出し、すっかり息も上がっていました。
*
呼吸を整えながらゆっくり歩いていると、大きなつつじ園が現れました。緑の葉を丸く茂らせたツツジに真夏の陽射しが垂直に照りつけ、濃い影を落としています。
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「ツツジが咲く頃にまた来よう」
頭の中にそう付箋を貼ってさらに登っていくと、すこし視界の開けたところで、地元の人と思しき高齢の男性がベンチに座っていました。
「暑いねぇ」
「暑いですねぇ……」
「ここは風がないけど、頂上はすこし吹いてるよ。がんばって」
すこし希望が湧いてきました。
*
つつじ園を抜けると現れたのは、浅間神社。祭神は木花咲耶媛で、縁結びの神様です。
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陽射しを避けようと細い林道を選んで進んでいると、綺麗な蝶がひらひらと近づいてきました。先導するように、左右に揺れながら飛んでいきます。
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この蝶の名はおそらくジャコウアゲハ。幼虫の時にアルカロイドを含む草を食べて体内に毒を蓄積しているため、捕食して中毒になった鳥は二度と狙わなくなるそうです。さらに興味深いのは、ジャコウアゲハに擬態したアゲハモドキという蛾がいて、そちらには毒がないけれど、よく似ていることからやはり鳥に狙われにくいとのこと。
絶景を独り占め
林道を抜けてゆるやかな傾斜をのぼると、一気に視界が開けました。ついに山頂です。鮮やかな緑の芝生が広がり、大きなエノキの木が立っています。その向こうに、相模湾と伊豆半島が望めます。
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展望台の上に立つと、さっきまでのうだるような暑さが嘘のように、涼やかな風が全身を通り抜けていきます。空と海と緑の樹々が、夏の陽射しを浴びてきらきらと輝いて見えました。
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例年はこの時期、展望台の足元の畑では早咲きのコスモスが咲き誇っているそうです。ところが、この日はほとんど咲いていませんでした。後日、二宮町の観光協会に尋ねると、「8月の中旬以降に咲く可能性はありますが、暑さのため正確な時期までは読めません」とのこと。観光協会からお借りした、例年のコスモスの写真がこちらです。
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ちなみにこの山頂の花畑。コスモスの時期が終わると菜の花に植え替えられ、例年1月頃から菜の花と富士山の共演が楽しめるそうです。
「次は、菜の花の時期に来よう」
心の中でそう誓うと、全長102メートルあるローラー滑り台を使って山頂を後にしました。
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古事記にまつわる伝承の地
Googleマップには載っていない「梅沢口」に向かって山を下っていると、その途中にも神社がありました。
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創建は景行天皇の時代(110年頃)
現在の社殿は1943年に完成
吾妻神社の祭神は、日本武尊の妃である弟橘媛命。境内にあった由来の説明によると、日本武尊が三浦半島の走水から上総の国に船で渡る途中で荒波に遭うと、弟橘媛命が身代わりとなって海に身を投げ、波を鎮めたと云います。のちに、妃の櫛がいまの梅沢海岸に流れ着くと、その櫛を埋めて御陵を造ったことから、この地が埋澤と呼ばれるようになったそうです。*
樹々に囲まれた、あまり目立たない場所にある神社ですが、その社殿を設計したのは、明治から昭和にかけて活躍した日本を代表する建築家の伊藤忠太です。
*『古事記に秘められた聖地・神社の謎』(三橋健 編、ウェッジ)によると、吾妻神社は千葉県の富津市や木更津市にもあり、こちらも弟橘媛命にまつわる伝承地となっているそうです。
カフェ「のうてんき」でひと休み
梅沢口を出て、跨線橋を渡り線路沿いを東に向かってすこし歩いたところに、小さなカフェを見つけました。
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https://www.noutennki.com
「夏野菜の冷やしグリーンカレーうどん」を注文。しばらくすると、野菜が綺麗に盛り付けられた涼しげなお皿が出てきました。
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料理を提供されているのは、このカフェの経営者のひとりであるビリヤニゆうこさん。2022年より、インド、パキスタン地方の本格的なビリヤニなどを提供されてきたそうです。
スパイシーなうどんに食欲を刺激されて、あっという間に完食。疲れきった身体に栄養が染み渡っていくのを感じました。
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無農薬の野菜や、平飼いの鶏卵なども買うことができる
菜の花とツツジが咲き誇る頃、またこの場所を訪れたいと思います。
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文・写真=飯尾佳央
撮影日=2024年7月25日
● 吾妻山公園
神奈川県中郡二宮町山西1084
公式サイトはこちら
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