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【姨捨 田毎の月】棚田に月光が降り注ぐ日本の原風景(長野県千曲市)

「名勝」とは、日本における文化財の種類の一つ。本連載では国指定名勝の庭園、峡谷、海浜、瀑布などを、臨場感あふれる撮りおろし写真で紹介します。旅に出たような気分で、日本の美しい景勝地の数々をお楽しみください。(ひととき2018年5月号「名勝アルバム」より)

 盛大な蛙の合唱の切れ間に、姨捨(おばすて)駅を通過する列車の音が聞こえた。刈ったばかりの草の匂いが漂い、あと数日で満月という月の光が滑らかな曲線を描く畦道(あぜみち)を照らす。どの田んぼにも満々と水が張られていた。

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 なだらかな斜面に千五百枚もの田が並ぶ、姨捨の棚田。一帯は古くから観月の名所として知られていたが、近世以降に棚田の開墾が進むと、月影が小さな水鏡を移ろうさまが「田毎(たごと)の月」としてさらなる人気を呼んだ。

 この美しい田園風景も、水田を手放す農家が増えて一時荒廃した。だが、平成八年に千曲市と地元有志が連携して、農作業体験型オーナー制度「棚田貸します制度」を開始。遠方地のオーナーに代わって常日頃、有志が棚田を管理する。「楽な仕事ではないけれど、この景観はここの宝だから」と有志団体の一つ、姨捨棚田名月会会長の森正文さん。約八十組のオーナーたちが集まる週末の田植えに向けて、畦の草刈りに汗を流す。

荒井孝治=写真 平成29年5月7日撮影

◉名勝指定 平成11年(1999)5月10日
長野県千曲市八幡字姨捨 問信州千曲観光局 電話:026-261-0300 
*「棚田貸します制度」については、千曲市農林課 電話:026-273-1111

山麓斜面に棚田が築かれ、眼下に千曲川や善光寺平(長野盆地)を望む。松尾芭蕉や小林一茶が訪れて句に詠んだほか、歌川広重が「六十余州名所図会」に「信濃 更科田毎月 鏡台山」を描いた。「重要文化的景観」「日本の棚田百選」にも選定されている。山麓斜面に棚田が築かれ、眼下に千曲川や善光寺平(長野盆地)を望む。松尾芭蕉や小林一茶が訪れて句に詠んだほか、歌川広重が「六十余州名所図会」に「信濃 更科田毎月 鏡台山」を描いた。「重要文化的景観」「日本の棚田百選」にも選定されている。

出典:「ひととき」2018年5月号
※この記事の内容は雑誌発売時のもので、現在とは異なる場合があります。詳細はお出かけの際、現地にお確かめください。


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