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【福万来ホタル乃国】ゲンジとヒメの光の競演(鳥取県日野郡日南町)

日本全国の“地域の宝”を発掘する連載コーナー「地元にエール これ、いいね!」。地元の人々に長年愛されている食や、伝統的な技術を駆使して作られる美しい工芸品、現地に行かないと体験できないお祭など、心から「これ、いいね!」と思える魅力的なモノやコトを、それぞれの物語と共にご紹介します。(ひととき 2019年6月号より)

 夏の風物詩、ホタル。全国各地のホタル観賞スポットには、日本の情緒を求めて大勢の人がつめかける。なかでもユニークな観賞スポットとして話題になっているのが、鳥取県日南町(にちなんちょう)の「福万来(ふくまき)ホタル乃国」だ。

 鳥取県南西部、島根、岡山、広島各県と境を接する日南町。杉木立の山間には川が流れ、水田が広がる。昔ながらの里山の風景だ。長年ホタルの保護活動に携わってきた「山上まちづくりの会」の近藤仁志さんに生息地を案内してもらった。

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山上まちづくりの会〝蛍守(ほたるのかみ)〟の近藤仁志さん。ネーミングは遊び心から。「何事も楽しみながらやらないと」

「ここでは、ゲンジボタルとヒメボタル、二種類のホタルを同時に観賞することができるんです。ゲンジボタルは川の岸辺で、ヒメボタルは山林で、それぞれ競い合うように光ります」と近藤さん。  

 毎年6月末から7月上旬のホタルの求愛行動時期、町では「おもてなし期間」を設けて、期間限定でホタル観賞に訪れる人びとに対応している。

 期間中、ホタル生息地の川沿いの道路は夜間通行止めになる。星明かりを頼りにアスファルトの道を歩いていく。懐中電灯はもちろん、携帯電話の光も一切禁止だ。

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うっそうとした木立の間を流れる川沿いに数万匹のホタルが舞う

 午後8時をまわると、水辺に一つ、二つと明滅する光が現れる。一番ホタルだ。歩を進めるうちに、飛び交うゲンジボタルの数は増えていく。さらに、今度は山林の茂みにイルミネーションのような光の点滅が……。ゲンジボタルに後れて、ヒメボタルが光り始めたのだ。ゲンジボタルは約2秒に1回、ヒメボタルは約0.5秒に1回と、その光り方も異なる。暗闇で繰り広げられる光の競演。川沿いの道は、いつしか光の回廊となっていく。

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斜面一面に点滅するヒメボタルの光。山が光っているかのようだ

「地元の人間がヒメボタルの存在を知ったのは、15年ほど前のこと。それまでは、身近にありながら、誰も気がつかなかった」と近藤さんは言う。以来、まちづくりの会が中心となって、遮光ネットの設置や山林の整備など、ヒメボタルの保護に努めてきた。「私たちは、ホタルの保護を第一に考えています。彼らが懸命に光るのは、子孫を残すためであって、決して人間のためではない。観賞したいのであれば、ホタルを最優先しなければね」。ホタル乃国の〝蛍守〟は微笑んだ。

文=秋月 康 写真=荒井孝治

ご当地◉INFORMATION
●日南町のプロフィール
中国山地の豊かな森林と水、土に恵まれ、霊峰船通山〈せんつうざん〉をはじめ神話の舞台が点在し、日本古来の製鉄法「たたら製鉄」により良質な印賀鋼〈いんがはがね〉を産出した地域。町内の神福〈かみふく〉には、作家・井上靖記念館「野分の館」がある。国指定特別天然記念物のオオサンショウウオの生息地でもある。
●日南町へのアクセス
山陽新幹線岡山駅から伯備線で生山〈しょうやま〉駅下車
●問い合わせ先
日南町観光協会 ☎0859-82-1715(ホタル観賞)
http://www.nichinan-trip.jp/

出典:ひととき2019年6月号
※この記事の内容は雑誌発売時のもので、現在とは異なる場合があります。詳細はお出かけの際、現地にお確かめください。


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