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【柳屋の鯛焼】愛すべし、名店のあんこ(日本橋)

数多ある東京の甘味処と和菓子店。地域に根付く名店の〝看板あんこ菓子〟を味わうべく、フードジャーナリストの向笠(むかさ)千恵子さんが名店を訪ねました――。(ひととき2020年10月号特集「東京のあんこ」より)

ひととき10月号

甘酒横丁の名物はあんこたっぷり

 昔、甘酒屋があったことにちなむ甘酒横丁の東側。行列が絶えない店を見かけたら、それが鯛焼の「柳屋」だ。1916年(大正5年)創業。粒あんの品のいい甘さと、薄くて香ばしい皮は類がない。常連は型からはみ出した生地の「バリ」が多いほうを好むくらいだ。

2010_特集A_D06*鯛焼き

上品な甘みの粒あんをパリっとした薄皮で包んだ鯛焼。進物用の箱もあるので手土産にもいい。平日でも行列ができるほどの人気店だが、鯛焼は1個からでも予約可能

 鯛焼は、江戸時代に神田・今川橋でデビューした太鼓形の今川焼が、明治の末に鯛の形に変身したもの。たっぷりのあんこと、ぱりぱりっと焼けた皮との食感の対比が絶妙で、縁起のいい形も大受けした。

 もっとも、現代の焼き型は一枚の鉄板に何匹もの鯛を成型してあるのが普通。これなら一度にたくさん焼ける。だが、鯛焼の真骨頂は一匹焼きにある。長柄の焼き器の先にひとつだけ鯛型を付けて焼くのだ。鯛焼通はこれを「天然物」と呼ぶ。鰭や眼までくっきりと焼き上がるからだ。むろん、柳屋は天然物に徹していて、強火で焼かれてあんこに〝いのち〟が吹き込まれると同時に、鯛が躍動し始める。

2010_特集A_D09*鯛焼き型

1丁約2キロの鉄の焼き型で1匹ずつ焼く

 柳屋は中身の粒あんも秀逸。小豆の皮が舌をいらつかせないし、香りが生きている。3代目・竹内彰一さんが早朝から十勝産特選小豆を砂糖、隠し味の塩だけで煮上げ、つくったあんはその日のうちに使い切るからだ。頭から尻尾まであんこが詰まって1個160円とはお値打ちだ。

2010_特集A_D08*鯛焼き店主

毎朝あんこの味を確認し、自らも店頭に立つ3代目の竹内彰一さん

2010_特集A_D07*最中

通年販売しているアイス最中(小倉)にも自家製粒あんを使用。さっぱりとしていながら奥深い味わい

旅人・文=向笠千恵子 写真=荒井孝治

向笠千恵子(むかさ ちえこ):フードジャーナリスト、食文化研究家。東京・日本橋出身。グルマン世界料理本大賞の『食の街道を行く』(平凡社新書)はじめ著書多数。近著に弊誌の連載「おいしい風土記」をまとめた『ニッポンお宝食材』(小学館)や『おいしい俳句』(本阿弥書店)がある。
◉柳屋
☎03-3666-9901 中央区日本橋人形町2-11-3
[時]12時30分~18時
[休]日曜、祝日

出典:ひととき2020年10月号
※この記事の内容は雑誌発売時のもので、現在とは異なる場合があります。詳細はお出かけの際、現地にお確かめください。



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