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際立つプリントの美しさ 手捺染の横浜スカーフ(神奈川県横浜市)

日本全国の“地域の宝”を発掘する連載コーナー「地元にエール これ、いいね!」。地元の人々に長年愛されている食や、伝統的な技術を駆使して作られる美しい工芸品、現地に行かないと体験できないお祭など、心から「これ、いいね!」と思える魅力的なモノやコトを、それぞれの物語と共にご紹介します。(ひととき 2020年7月号より)

 ビーチパラソルの下でのんびり寝そべる水着のふたり。青い海にはさざ波が揺れている。心は現実を飛び越え、今すぐ楽園へとワープしてしまいそう。

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つやつやしたシルクに鮮やかなプリントが映える夏らしいデザインのスカーフ

 鮮やかな色とポップなデザインが楽しいそのシルクスカーフは、横浜で昭和初期から受け継がれてきた手捺染(てなっせん)という技法でプリントされている。

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船、ガス灯など横浜にちなんだモチーフや(上)、クルージングをテーマにしたデザイン(下)がご当地感たっぷり

 布に模様を染める方法はさまざまあるが、ハンドプリント、ハンドスクリーンとも呼ばれる手捺染は、型(スクリーン)を布にのせて、手作業で1色ずつ染め重ねていく技法。

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捺染工房。生地に型をのせ染料をスケージ(ヘラ)で伸ばしていく

 1859年(安政6年)の開港以来、貿易の一大拠点となった横浜には、全国から交易品の生糸が集められ、シルク製品を扱う産地問屋によってスカーフ製造の技術・情報が集中した。手捺染のスカーフを手がけて約70年の「丸加(まるか)」の遠藤洋平さんは「染料を吹きつけるプリントに比べ、手捺染は生地にしっかり染料を刷り込むので、複雑な柄もくっきり美しく表現できます」と教えてくれた。

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日本初の近代国際貿易港としての歴史をもつ横浜港。大型客船も来航する首都圏への玄関口

 均一にプリントするには熟練の技術が必要だ。粘り気のある染料を、スケージという大きなヘラを使い正確に型の上に伸ばし、刷っていかなければならない。ムラなく染められるようになるまでに数年はかかるという。

 帆船がデザインされた横浜らしい1枚に目が留まる。何色ものステンドグラスの華やかな彩りと微妙なグラデーションが見事だ。

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手捺染ならではの緻密な柄やグラデーションが美しく表現されている 

「凝った柄は色数が多く手間がかかりますが、単純な柄なら簡単というわけではなく、仕上がりにはっきり優劣が出ます。どちらも難易度が高いんですよ」(遠藤さん)

 イタリア、フランスと並び世界水準とも評される手捺染の横浜スカーフ。時代とともに技術もデザインも進化している。伝統的なモチーフだけでなく、スイーツ、楽器、動物、浮世絵……。どこまでも自由な世界が、1枚のシルクの上に広がっている。

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アクセサリー感覚で自由にアレンジできる菱形スカーフ

文=宮下由美 写真=阿部吉泰

ご当地◉INFORMATION
●横浜市のプロフィール
神奈川県東部に位置する、日本を代表する港湾都市。1859年の横浜港開港以来、貿易の拠点として、また海外との文化交流の玄関口として発展してきた。
横浜港の中心、みなとみらい21地区には大規模な文化・商業施設が集まり、横浜中華街とともに賑わっている。
●横浜市へのアクセス
東海道本線、横須賀線、京浜東北線、湘南新宿ライン横浜駅下車
●問い合わせ先
丸加 ☎045-716-2591
https://marca.co.jp/

出典:「ひととき」2020年7月号
※この記事の内容は雑誌発売時のもので、現在とは異なる場合があります。詳細はお出かけの際、現地にお確かめください。


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