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春には、極細糸で織られた“光透けるストール”を【福田織物】

今日も日本のあちこちで、職人が丹精込めた逸品が生まれている。そこに行けば、日本が誇るモノづくりの技と精神があふれている。これは、そんな世界がうらやむジャパンクオリティーと出会いたくててくてく出かける、こだわりの小旅行。さてさて、今回はどちらの町の、どんな工場に出かけよう!(ひととき2019年4月号 「メイドインニッポン漫遊録」より)

ふんわり軽い光透けるストール

 クヤシイけどイタリアのオヤジたちはストールがよく似合う。ファッション雑誌のスナップ写真などを見ると、本当にストールを上手に巻いておしゃれを楽しんでいる。

 イタリアのオヤジみたいに「寒くはないかい」とかなんとか言っちゃって、さり気なく首に巻いたストールを女性の肩にふんわりと掛けてあげられたら、どんなに格好いいか。

 筆者の故郷の静岡県で、まさに理想のストールを見つけました。掛川市にある「福田織物」が作っている「光透けるストール」だ。

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しっかりと空気を含んで温かなので、春先や冷房対策に。男性がきれいな色を巻いてもおしゃれ

 その名のとおり、光が透けて見えるほど薄いストールは、ふんわりと軽くて、一日中巻いていても肩がこらない。シルクのように光沢もあって、綿だから手洗いもできる。上質な極細糸で織られた柔らかな肌ざわりは、巻いているのを忘れてしまいそうである。

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春らしい新作のプリント柄シリーズの光透けるストールを巻いてモデルになってくれたデザイナーの岡島晴奈さん(右)と小林みのりさん。価格は25,000円(税別)。30色以上そろう無地のストールは18,000円(税別)

 そこで今回は掛川市の福田織物を訪ねて、久しぶりに故郷の静岡に里帰りして来ました。

転機はアンティークの手織りハンカチ

 砂浜に並ぶ風力発電の巨大な風車が、遠州名物のからっ風を受けてゆっくり回っている。天竜川が流れこむ掛川の遠州灘一帯は、古くから綿織物の産地として知られている。

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掛川城

 福田織物の創業は昭和39年(1964)。長年生地を織る「機屋(はたや)」だったが、平成14年(2002)、2代目社長の英断によって、糸の入手から企画、製造、販売までを一貫して手掛けるようになる。現在は有名アパレルから海外のラグジュアリーブランドまで多くの生地も手掛けている。

 「大英断でした。父親は遠州で優秀な織物の職人でしたが、すでに日本の綿織物は斜陽産業でしたから」

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福田さん(右)と筆者。工場内は糸の品質管理のため常に湿度60%にしているので蒸し暑い

 にこやかな顔で当時の話をしてくれる、社長の福田靖さん。でも若い頃は、掛川でヤンチャな青春時代をおくっていたようです。

 「学校をズル休みして、つま恋に吉田拓郎のオールナイト野外コンサートを見に行ったりしていましたね。夜遅くまで自転車操業している職人の両親に反発して、俺は父親みたいな生き方はしない! 成功してやる! と、ずいぶんイキがったことを言っていました」

 20歳で家業に入ると、片っ端からビジネス書を読んで儲かる仕組みを猛勉強。全国の織物産地を訪ねて何日も通い詰めて、職人から織物の技術も習得する。28歳で父親より稼ぐようになり、織物の技術は浜松で一番になる。しかしまだ若い福田さんに、下請けの製造業をやめる決断はできなかった。

 転機は30代の時。生地を出した展示会で、ある女性のデザイナーが1枚の綿のハンカチを福田さんに見せて「これと同じ生地を織ってほしい」と注文してきた。

 「150年前のアンティークの手織りのハンカチでした。織物の技術は浜松一という自信もあったので2つ返事で引き受けました。ところが了承を得てハンカチを裁(た)ってみると、国内で見たこともない細い糸なんです。調べたらスイス製の100番手とわかり、すぐにスイスから取り寄せて織ってみたのですが、細すぎて織機にも掛けられない。すぐ切れてしまう。とんでもない仕事を引き受けてしまったと思いました。よし、絶対に織ってやると、それからはもう試行錯誤の日々です」

 ヒントをくれたのは、若い頃にはさんざん反発していた織物職人の父親の実さんだ。複数の糸を撚(よ)って織るのが常識だった当時、「1本のまま弱く撚ったら切れないんじゃないか」という実さんのアドバイスで、1年掛けてついにハンカチと同じ生地が完成する。

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超極細糸をストレスがかからないようにゆっくりと時間をかけて1本のまま織り上げる

 その噂は、100番手の糸を販売するスイスの老舗ブランドのヘルマンビューラー社にまで伝わり「うちの糸を機械で織れるわけがない」と、なんと糸商が掛川まで見学にやって来た。生地を見るなり感嘆して、「福田織物の技術は世界一だ!」と大絶賛。

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今シーズンの新作の馬柄プリントの光透けるストールを広げて見せてくれた

 この出来事が極細糸を追求するきっかけとなり、35歳で父親の後を継いで社長に就任した福田さんは福田織物として会社を設立。ハンカチの糸よりもさらに細い番手の糸を開発して、国内外の有名ブランドの生地を手掛けるようになり、平成25年、自社ブランドで「光透けるストール」を発売する。

髪の毛より細い糸で遠州から世界一に

 工場を見学させてもらうと、何台も並んだ織機が忙(せわ)しなく音を立てて糸を織っている。

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希少な新疆綿〈しんきょうめん〉を使用した光透けるストールの120番手の糸用の糸巻。番手とは糸の太さの単位で、綿の糸は番手が大きくなればなるほど細い

 驚くのは糸の細さ。まるで素麺、いや、ぜんぜん細い。一般的な綿のシャツやストールの生地に使われる糸は40番手だが、髪の毛よりも細い120番手の糸を、1本のままで織っている。織り上がったストールの重さはわずか45グラム。なんと卵より軽い。まさに世界一の技術といっていい。

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糸が切れない絶妙な織機の力加減には職人の技がいる

 「若い社員たちと伝統の遠州の織物の技術で世界一を目指して、もう一度産地の力を取り戻すのが私の夢です」と語る福田社長。

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遠州伝統の織物技術を受け継いでもらおうと若い世代を率先して採用。最近はブランドの知名度も高くなり他県からの志願者も多い

 今回モデルにもなってくれた、福田織物でアパレル部門のデザインを担当している岡島晴奈さんと小林みのりさんに、おしゃれなストールの巻き方を教えてもらいました。

 まず2つに軽く折って巻いて、できた輪に片方だけ端を入れる。そして、2つに垂れている長い方に短い方を軽く結びます。ポイントは、ぎゅっと巻いてネジネジさせたりなどせず、ふんわりと軽~く。

 さっそくイタリアのオヤジよろしく光透けるストールを巻いてみた。寒くはないかい。え、よけいなお世話だって? トホホ。

いであつし=文 阿部吉泰=写真

いであつし(コラムニスト)
1961年、静岡県生まれ。コピーライター、「ポパイ」編集部を経て、コラムニストに。共著に『“ナウ”のトリセツ いであつし&綿谷画伯の勝手な流行事典 長い?短い?“イマどき”の賞味期限』(世界文化社)など。

●有限会社福田織物
<所在地>静岡県掛川市浜川新田771
☎0537-72-2517
<URL>http://fukudaorimono.jp

出典:ひととき2019年4月号
※この記事の内容は掲載時のもので、価格など現在とは異なる場合があります。詳細は現地にお確かめください。




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