見出し画像

五感で楽しむ豊かな竹林の恵み 竹の強さと美しさを生かしたアイテム(岡山県倉敷市真備町)

日本全国の“地域の宝”を発掘する連載コーナー「地元にエール これ、いいね!」。地元の人々に長年愛されている食や、伝統的な技術を駆使して作られる美しい工芸品、現地に行かないと体験できないお祭など、心から「これ、いいね!」と思える魅力的なモノやコトを、それぞれの物語と共にご紹介します。(ひととき2021年5月号より)

 春風が竹林を撫でる度に鳴る、サラサラと心地よい葉擦れの音。明るい日差しが林床(りんしょう)に届くのは定期的に間伐されているためだ。丁寧に手入れされた竹林の清澄な美しさは、見飽きることがない。

2105_これいいねD02*

真備町箭田地区の竹林。水分の多い粘土質の傾斜地で竹がよく育つ。竹は植林の必要がなく成長も速いので、低コストで持続的な製品の生産ができる

 岡山県倉敷市真備町(まびちょう)は、春の味覚の代表格・筍の産地。生産農家が草を刈り、古い竹を伐採しているからこそ、柔らかく香り高い筍が採れるのだという。

 竹の恵みは〝食べる〟こと以外にも。同町箭田(やた)地区にある真備町竹炭生産販売組合の「マービー窯」では、間伐材を使い年間約3トンもの竹炭を生産。化学物質不使用の安全な消臭・防湿剤として活用されている。

2105_これいいねD03*

真備町竹炭生産販売組合が作る竹炭。炭を焼くときに出る竹酢液〈ちくさくえき〉も販売している

「肉厚の孟宗竹(もうそうちく)は気孔が多い。だから除湿や消臭能力の高い、いい炭になるんです」と、組合長の川田征二さん。

2105クッション画像

上の竹炭を使った消臭剤「マビナチュラル」は倉敷市のMoso Natural Japanが販売。ウェブで購入可能

 さらに、アミノ酸が豊富な竹は栄養満点の竹稈(ちくかん)*を外敵から守るため、抗菌作用の高い油分も豊富に含む。そんな竹の可能性に賭け、さまざまな加工品開発に取り組むのが、1989年創業の家具メーカー「TEORI(テオリ)」だ。弾力性に富む竹を独自の方法で集成材に加工。木目の美しさを生かしたモダンな家具や花器などが国内外で高い評価を得ている。

*竹の茎の部分

2105_これいいねD01**

強くしなやかな竹集成材で作るTEORIの製品。鏡やボウルなど竹が生む曲線美を生かしたアイテムは海外でも人気

「竹は高温高圧の乾留釜(かんりゅうがま)で蒸して余分な栄養素を取り除き、腐りにくくします。その後、竹片を貼り合わせ幅20センチ長さ2メートルの板状に。これが家具の部材になるんです」と、工場を案内してくれたデザイナーの木下一平さん。

2105_これいいねD07*

町内で回収した竹を割り、乾留釜へ

 椅子に腰掛けると、座面が体の重さを受け止め柔らかくしなるのがわかる。肘掛けに踊るのは、無数の気孔が作り出す木目模様。その美しさもまた、竹林同様に見飽きることがない。竹の強さと美しさを余すところなく生かした造形の妙に、思わず唸った。

画像5

TEORI  [右]グッドデザイン賞を受賞したチェア「TENSION」。柔らかな座り心地が楽しめる [左]睡蓮の花をモチーフにしたライト。花びらは取り外しができ、好みの表情に

 古来、日本人の生活に欠かせなかった竹。真備町で改めて実感した、その温もりある質感を、暮らしの中で楽しみたい。

文=奥 紀栄 写真=阪口 克

ご当地◉INFORMATION
倉敷市真備町のプロフィール
岡山県倉敷市の北西部に位置。町名は古代、この地を治めた豪族・下道〈しもつみち〉氏を出自とする吉備真備〈きびのまきび〉に由来し、一帯には弥生時代後期以降に築かれた巨大古墳も点在している。孟宗竹は江戸時代に移入し、平野を囲む丘陵に広がる竹林は西日本有数の筍産地としても名高い。粘土質の土壌が育む筍はアクが少なく、生でも食べられる。
●問い合わせ先
TEORI〈テオリ〉
☎086-698-4526
真備町竹炭生産販売組合
☎086-698-3843

出典:ひととき2021年5月号
※この記事の内容は雑誌発売時のもので、現在とは異なる場合があります。詳細はお出かけの際、現地にお確かめください。




よろしければサポートをお願いします。今後のコンテンツ作りに使わせていただきます。