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お伊勢参りのお土産に! 革のような質感の”擬革紙” (三重県度会郡玉城町)

日本全国の“地域の宝”を発掘する連載コーナー「地元にエール これ、いいね!」。地元の人々に長年愛されている食や、伝統的な技術を駆使して作られる美しい工芸品、現地に行かないと体験できないお祭など、心から「これ、いいね!」と思える魅力的なモノやコトを、それぞれの物語と共にご紹介します。(ひととき 2020年4月号より)

「夕立や 伊勢のいなぎの煙草入 ふるなる光る 強いかみなり」

 江戸時代に蜀山人(大田南畝)が詠んだとされる狂歌である。夕立に鳴る雷と、古くなるほど光る強い紙とを掛けてある。その紙こそが、擬革紙(ぎかくし)と呼ばれるものだ。

 伊勢で擬革紙が生まれたのは1684年(貞享元年)。三島屋の堀木忠次郎という人物がそれまで煙草入れに使われていた油紙を改良し、革に似た風合いをもたせてより丈夫にした。これが大当たり! お伊勢参りの土産物として爆発的な人気となり、神宮に向かう街道にはやがて100店もの煙草入れ屋が軒を連ねたそうだ。明治時代には豪華な柄をつけた金唐革紙(きんからかわし)に発展し、壁紙として欧米各国に輸出されたほどだが、昭和初期に技術が絶えてしまった。

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明治~大正期に輸出した壁紙。三島屋は1900年のパリ万博で金賞を取った

 これを復興させたのが玉城町に工房を構える「参宮ブランド『擬革紙』の会」。代表の堀木茂さんは、考案者の忠次郎から数えて8代目だ。

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堀木さんの自宅敷地にある「擬革紙資料館三忠」では江戸時代末期頃の煙草入れも多数展示 

「父の若い時までは作っていて道具はいくらか残っていました。でも製法は口伝。10年以上手探りで研究し、ようやく完成したのは7年前です」と堀木さん。

 作る過程を見せてもらった。素材になる厚手の伊勢和紙は真っ平で硬い。それを柿渋紙で作った型ではさんで筒状に強く巻き、さらに布でくるんでから、大きな木製の万力でぎゅうううー。

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茶色い物は柿渋紙にヘラで溝をつけた型紙。10年以上保つという。これもまた革のようだ

「しっかり圧をかけて絞ると型に沿った凹凸がつくんです」

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 巻いた紙を万力を使って人力で圧をかけて絞る

 その後、色染めしてからも紙の向きを変えて絞る作業を何度も繰り返すことで〝かのこ絞り〟や〝さざなみ絞り〟といった複雑な地紋ができ、同時に柔らかさや丈夫さも生まれるのだ。

 会のメンバーは16人ほど。製品は財布やバッグ、御朱印帳など数多い。新品の手触りはまだ紙っぽいが、堀木さんが使い込んだ品々を見て驚いた。つやつやと美しく、まさに良質な革のよう! 「ふるなる光る」の確かな実感だ。

秋川ゆか=文 佐々木実佳=写真

ご当地◉Information
●玉城町のプロフィール
玉城町の歴史は2000年近い。伊勢神宮内宮が創建された際、神領として開拓されたのが始まりだ。大和と熊野、伊勢神宮を結ぶ3つの街道が合流する宿場町として、江戸時代には多くの人々が往来した。町に残る古跡を巡るのも楽しい。伊勢平野有数の米どころであり、苺や柿の名産地としても知られる。

 ●玉城町へのアクセス
東海道新幹線名古屋駅から関西本線伊勢市駅を経由して参宮線田丸駅下車

●問い合わせ先
玉城町役場産業振興課 TEL 0596-58-8204
参宮ブランド「擬革紙」の会 info@gikakushi.jp

出典:ひととき2020年4月号
※この記事の内容は雑誌発売時のもので、現在とは異なる場合があります。詳細は、お出かけの際、現地にお確かめください。


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