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【びわ湖の淡水真珠】6年の歳月をかけて育む個性豊かな色形(滋賀県大津市)

日本全国の“地域の宝”を発掘する連載コーナー「地元にエール これ、いいね!」。地元の人々に長年愛されている食や、伝統的な技術を駆使して作られる美しい工芸品、現地に行かないと体験できないお祭など、心から「これ、いいね!」と思える魅力的なモノやコトを、それぞれの物語と共にご紹介します。(ひととき2019年11月号より)

 びわ湖真珠の特筆すべき魅力は、色、形、ツヤ、サイズなど、どれをとってもバラエティー豊かなこと。一つ一つ表情が異なり、すべてが美しい――。

 こうした個性が生まれる一番の理由は、海水の真珠に比べて養殖期間が長いから。母貝が育つまで3年、真珠ができるまでさらに3年。年月を重ねれば重ねるほど、環境の影響を受け、できあがりが大きく左右されるのだ。

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神保真珠商店のびわ湖真珠。セミオーダーにも対応しているので、好みの珠をじっくり選びたい

 養殖に40年以上携わってきた酒井京子さんは、「自然相手だから、それはもう大変です」と語る。だが、時間を要するからこそ、熟練の技や勘を生かせる場面も増えるという。そして、酒井さんの仕事ぶりからは、命あるものに対する敬意、真珠への愛情がひしひしと伝わってくる。

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酒井さんの養殖棚で母貝の池蝶貝(イケチョウガイ)を見せてもらう

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酒井さんは貝を割らずに珠を取り出す高度な技術を持つ

 しかしながら、びわ湖真珠の知名度はまだまだ低いような? そんな問いに、杉山知子さんが苦笑した。彼女は全国で数少ない、びわ湖真珠を専門に扱う「神保真珠商店」を5年前から営んでいる。

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杉山さん(左)は生産者と消費者をつなぐパイプ役。「杉山さんの店のおかげで、身に着ける人の顔が見えるようになり、張り合いが増しました」と酒井さん

「地元でも、びわ湖で真珠が採れるの!? なんて驚く人がいます。というのも、最盛期でさえ、国内ではほとんど流通しなかったんです。じつは、ペルシャ湾の天然真珠によく似ているそうで、先に海外で人気に火がついて……」

 びわ湖真珠の養殖は昭和初期に始まり、最盛期の昭和40年代には、年間生産量が6トンをゆうに超えた。しかし、湖の環境変化で母貝が育たなくなり、昭和の終焉より先に衰退。そんななか、環境に適した母貝の品種改良に取り組み続け、10年ほど前からようやく、状況が好転しはじめたのだ。

 杉山さん自身、びわ湖真珠に魅せられた一人。「もっと広めたい」という一心で店をオープンした。「うちは、30年以上前に採れたビンテージものから新しいものまで販売していますし、一般的には規格外として弾かれる珠も扱います」。新風が吹く真珠の世界、自由に心を泳がせ楽しみたい。

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指輪15,000円(税別)~をはじめ、商品はすべて一点もの。一期一会の出会いを求めて店舗まで

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落ち着いた雰囲気の店内。養殖業者から買い取った真珠とアクセサリーに仕立てた商品、両方を愛でることができる

文=神田綾子 写真=蛭子 真

ご当地◉INFORMATION
●大津市のプロフィール

滋賀県の県庁所在地で、びわ湖の南西端に位置する湖都。比叡山延暦寺、園城寺〈おんじょうじ〉(三井寺)、日吉大社、西教寺、石山寺〈いしやまでら〉など、歴史ある神社仏閣が点在する。これらはいずれも「琵琶湖とその水辺景観─祈りと暮らしの水遺産」として、平成27年(2015)、「日本遺産」に認定された。また、紅葉の名所としても知られ、シーズン中は特に大勢の人で賑わう。
●大津市へのアクセス
東海道新幹線京都駅から東海道本線に乗り換えて約9分、大津駅下車
●問い合わせ先
びわ湖大津観光協会 ☎077-528-2772
https://otsu.or.jp/
神保真珠商店 ☎077-523-1254 
http://jinbo-pearls.jp/

出典:ひととき2019年11月号
※この記事の内容は雑誌発売時のもので、現在とは異なる場合があります。詳細はお出かけの際、現地にお確かめください。



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