【壽堂の黄金芋】愛すべし、名店のあんこ(日本橋)
数多ある東京の甘味処と和菓子店。地域に根付く名店の〝看板あんこ菓子〟を味わうべく、フードジャーナリストの向笠(むかさ)千恵子さんが名店を訪ねました――。(ひととき2020年10月号特集「東京のあんこ」より)
黄身あんぎっしり、ニッキの香り
具象派菓子の極めつきは黄金芋(こがねいも)。人形町通りに1884年(明治17年)から暖簾を掲げる「壽堂(ことぶきどう)」の名物菓子。白いんげんの白あんに卵黄を混ぜた黄身あんでさつま芋をかたどり、小麦粉の薄皮で包んでからニッキ粉をまぶし、オーブンのような釜で丸焼きする。
まさしく金色に輝く黄金芋を割ると、ほっこりした黄色いあんがあらわれ、ニッキがほわんと香る。このあんこは上等だから、上品でいながらうま味が濃く、ニッキの香りが風味を盛り上げる。
明治30年代からの看板商品・黄金芋。手間のかかる黄身あんや高価なニッキを用いていながら、素朴な芋に仕立てるところが江戸っ子の洒落心か
壽堂の初代は京都で修業後に上京し、現在地で開業して東宮御用達にまでなった。そんな歴史を歯切れよく語り人形町の粋を伝えるのは5代目・杉山青子さん。民芸調の包装ともども店の看板になっている。また、漆塗りの菓子見本箱や、大正時代に外国製のガラスを用いて特別に誂えた菓子ケースが並ぶ店内の和洋折衷インテリアも見逃せない。
昭和初期築の木造モルタル塗り3階建の店舗
5代目でおかみの杉山青子さん
旅人・文=向笠千恵子 写真=荒井孝治
向笠千恵子(むかさ ちえこ):フードジャーナリスト、食文化研究家。東京・日本橋出身。グルマン世界料理本大賞の『食の街道を行く』(平凡社新書)はじめ著書多数。近著に弊誌の連載「おいしい風土記」をまとめた『ニッポンお宝食材』(小学館)や『おいしい俳句』(本阿弥書店)がある。
◉壽堂
☎0120-480-400
東京都中央区日本橋人形町2丁目1-4
[時]9時~18時30分(日曜、祝日は17時まで)
[休]無休
出典:ひととき2020年10月号
※この記事の内容は雑誌発売時のもので、現在とは異なる場合があります。詳細はお出かけの際、現地にお確かめください。
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