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使ってこそ輝く天満切子のグラス(大阪府大阪市)

日本全国の“地域の宝”を発掘する連載コーナー「地元にエール これ、いいね!」。地元の人々に長年愛されている食や、伝統的な技術を駆使して作られる美しい工芸品、現地に行かないと体験できないお祭など、心から「これ、いいね!」と思える魅力的なモノやコトを、それぞれの物語と共にご紹介します。(ひととき 2020年6月号より)

「鑑賞だけでない、『用の美』が大事やと思ってます。使ってもろうてなんぼ、ですよ」

 切子工房RAU(ラウ)の3代目、宇良孝次さんがいう。独自のブランド「天満切子(てんまきりこ)」を生み出した老舗の工房だ。

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「天満切子」のぐい呑み。かまぼこ彫りの丸みが手にしっくり馴染む

 切子とはガラスをカットして模様をつけること。江戸や薩摩の切子が有名だが、ここ大阪でもその優れた技術が受け継がれている。

 天満切子はU字型のかまぼこ彫りが特徴だ。丸く彫られた面が凹レンズとなって、水を注ぐと内側に万華鏡のような模様が次々に浮かび上がる。

 大阪とガラスの関わりは古く、江戸時代には製造が始まっている。明治に入ると近代ガラス産業の中心となり、「ガラスといえば大阪」という時代が長く続いた。

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天満切子のロックグラス「三十二縞」

 特に北区の天満界隈に、ガラス工場が軒を連ねた。高温の炉が熱気を放ち、大勢の職人たちが行き交ったが、その面影は今はない。

「大阪で培われてきた技術を残したいんです。そして、産業としての切子を伝えていきたい」

 そう話すのは切子職人、安田公子さんだ。

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工房で作業する安田さん。大阪工芸界で注目される若手のひとりだ

 代表作は「一天」。朝と夕の空の色を表現した切子グラスが、手磨き仕上げならではの温かさをまとって宝石のように輝く。

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安田さんの代表作「一天」。色ガラスを3層に重ねた特別な生地に、繊細で複雑なカットをほどこす

 脈々と伝統が繋がれているのは、加工業だけではない。

 1895年(明治28年)の創業以来、一貫してガラスびんを製造してきた日本精工硝子は一昨年、「CuteGlass Shop and Gallery」をオープンした。陳列された同社のびんは透明度が極めて高く、中に入れたものの色彩を美しく引き出す。

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日本精工硝子の製品、ウイスキーのミニチュアボトル・シリーズ。琥珀色が冴える

「ガラスびんの新しい使い方をさらに提案し、未来形を描きたい」
 と意気込む社長の小西慈郎さんの言葉には、高い技術に裏打ちされたプライドがにじんでいた。

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「CuteGlass Shop and Gallery」が入る大正時代の町家も一見の価値あり

 大阪のガラス産業の火は消えてはいない。火のなかでガラスは自在に形を変え、生まれ変わっていく。その硬質なきらめきに、大阪のしなやかさがひそんでいる。

文=瀬戸内みなみ 写真=蛭子 真

ご当地INFORMATION
●大阪市のプロフィール
江戸時代には金融・商業の中心地「天下の台所」として繁栄し、財を成した町人たちによる豊かな文化が花開いた。明治維新後は造幣局などの官営工場が置かれたのをはじめ、工業都市としても発展。食い倒れと称される美食文化、落語や漫才といった芸能など、庶民的な明るさとバイタリティーで、今も人々を魅了し続ける大都会だ。

●大阪市へのアクセス
東海道新幹線新大阪駅下車

●問い合わせ先
切子工房RAU ☎06-6357-9362 
https://www.temmakiriko.com/
安田ガラス工房 ☎090-5049-5541 
CuteGlass Shop and Gallery ☎06-6226-8360 
https://www.cg-shopandgallery.jp/

出典:ひととき2020年6月号
※この記事の内容は雑誌発売時のもので、現在とは異なる場合があります。詳細はお出かけの際、現地にお確かめください。


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