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台北建築歴史探訪──日本が遺した建築遺産を歩く

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台湾在住作家である片倉佳史氏が、台北市内に残る日本統治時代の建築物を20年ほどかけて取材・撮影してきた渾身作『台北・歴史建築探訪』。このほど発刊される増補版では、コロナ禍でリノベ…
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#建築物

【大院子】ガジュマルの老樹が生い茂る歴史再生空間|『増補版 台北・歴史建築探訪』より(3)

 台北帝国大学の教職員住宅が集まっていた旧昭和町は、家屋や樹木の保存運動が盛んなエリアである。地域住民のみならず、この界隈で生まれ育った湾生(台湾からの引揚者)たちも日本で「昭和町会」を組織しており、多くの記録と証言を残している。  ここは台北帝大が設けたクラブであり、「単身官舎クラブ」とも呼ばれていたようである。ただし、詳細は長らく謎で、戦時期は海軍が所有する士官招待所にもなっていた。そして、終戦直後の時期は引揚を待つ在留邦人子弟のための日僑学校として使用されたこともあっ

【臺北賓館】重厚かつ優美な雰囲気をまとった総督の官邸|『増補版 台北・歴史建築探訪』より(1)

 この建物はかつて台湾総督の官邸だった。広大な敷地の中にあり、瀟洒な西洋建築がどっしりとした構えを見せている。3階建ての建物で、煉瓦と石材を混用して造られている。デザインはフランス風バロック様式と呼ばれるもので、荘重な印象が建物全体を包み込んでいる。左右が非対称で、曲線を多用して美しさを追求するスタイルだ。こういった様式は台湾では希有な例となっている。  初代の官邸は1901(明治34)年に落成していたが、白蟻の害に遭い、わずか10年あまりで改築されることとなった。増改築の