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台北建築歴史探訪──日本が遺した建築遺産を歩く

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台湾在住作家である片倉佳史氏が、台北市内に残る日本統治時代の建築物を20年ほどかけて取材・撮影してきた渾身作『台北・歴史建築探訪』。このほど発刊される増補版では、コロナ禍でリノベ…
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#わたしの旅行記

【AKA café】洋館の雰囲気の中で楽しむくつろぎの時間|『増補版 台北・歴史建築探訪』より(9)

 ここ数年、大稲埕地区では老家屋を再生させたカフェやショップが次々と誕生している。「AKA café」は予約制のカフェで、民樂街から路地を入った先にある。喧騒とは無縁の場所で、ここが台湾であることを忘れてしまう。  家屋は和洋中の折衷様式と言うべきもの。赤煉瓦の壁や老タイルが敷き詰められた床を差し込んだ日差しが優しく照らす。中庭には緑が生い茂り、小鳥のさえずりが聞こえてくる。  ここに暮らしていたのは郭烏隆。地元の名士で、海産物や雑穀、小麦粉、砂糖などを扱う卸問屋「郭怡美

【行政院 旧台北市役所】竣工から5年足らずで敗戦を迎えた市役所の新庁舎|『増補版 台北・歴史建築探訪』より(7)

 ここは日本統治時代の台北市役所である。竣工は1940(昭和15)年で、翌年から使用されている。つまり、竣工からわずか5年足らずで終戦を迎え、中華民国・国民党政府に接収された官庁建築である。  日本人が台湾を去った後、ここは中華民国台湾省行政長官公署となり、その後は行政院が使用するようになった。行政庁舎としての機能に変化はないが、現在、この建物がかつて台北市役所だったことを知る人は多くない。  建物は装飾を排したデザインである。建坪数は1122坪で、広い前庭を擁している。

【國立臺灣文學館臺灣文學基地】和洋折衷の木造家屋が並ぶ歴史景観エリア|『増補版 台北・歴史建築探訪』より(5) 

 幸町と呼ばれた界隈には、閑静な住宅街が広がっていた。高級官吏用の住宅をはじめ、区画整理された土地の上に公務員用の住宅や企業家の邸宅などが並び、台北でも指折りの住環境を誇っていた。同時に教育機関も多く、文教エリアでもあった。  こういった家屋は戦後に中華民国に接収され、政府関係者に当てがわれたが、環境の良さは保たれていった。民主化が進められる中、こういったものを公共財産として扱い、有効に活用していく試みが2000年頃から盛んになった。ここも日本式の木造家屋が続々と再整備され