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「注目記事」に選ばれた記事

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「ほんのひととき」が投稿した記事の中で、noteの「注目記事」に選ばれた記事をこちらにまとめています。
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記事一覧

そうだ、と始めたら 30年がたっていた。(コピーライター 太田恵美)|『「そうだ 京都、行こう。」の30年』より

京都に必要なのは、情報ではなく、感情だった。1993年スタート時、京都はチョー有名な観光地だったけれど、多くの人にとっては修学旅行で「連れて行かれた」、やや面倒臭い場所でもあった。歴史はご立派らしいが、面白いのかどうかわからない。自分と関係があるとは思えない。今を生きている町とは言い難かった。とりわけ、京都生まれながら、辛気臭いと飛び出した私にはそうだった。 じゃあ、何を見せるか、語るか。京都の歴史的建造物や季節の写真はすでに膨大に出回り、皆が知ったつもりになっていた。それ

リスボンで故郷を想う 川添 愛(言語学者、作家)

 遠藤周作が長崎を訪れたときにキリシタン禁教時代の踏み絵を見て、そこから小説『沈黙』の着想を得たのは有名な話だ。私は長崎の出身だが、地元で踏み絵を見たことはない。私が生まれて初めて見た踏み絵は、ポルトガルのリスボンにある美術館に展示されていたものだった。  リスボンに行ったのは、もう二十年近く前のことだ。空港からタクシーで市街地に入ると、壁がボロボロの建物が並び、なんだかとんでもないところに来てしまった気がした。街を歩いていてもけっこうゴミが目につき、病院の前を通りかかった

崎陽軒のポケットシウマイと横濱月餅(神奈川県横浜市)|柳家喬太郎の旅メシ道中記

旅のお供のポケットシウマイ  あんまり大きな声じゃあ言えませんけどね、今回は横浜を陰で支配する闇の組織の話です。その組織が営む店は、横浜駅と周辺のそこかしこにある。東海道線下りホーム、京急横浜駅中央改札、相鉄線横浜駅改札外、間口は狭いけどみなとみらい線横浜駅の改札内にも……。恐ろしいことに、多くの横浜市民が、その組織の食べ物に身も心も奪われているんです……そう、崎陽軒に“シウマイ漬け”にされているんですよ‼︎ ってのは冗談で、横浜の落語会でよく話すネタ。何を隠そう僕自身横

【青熊書店】青森と熊本の魅力がぎゅっと詰まった4坪の空間(自由が丘)|本の棲むところ(8)

「青熊書店」は、熊本県出身の岡村フサ子さんが夫で青森県出身の岡村豊彦さんと営む、たった4坪の独立書店。その名が示す通り、「青森」と「熊本」にちなんだ本や雑貨が充実している。 場所は自由が丘駅から歩いて5分、3つの店舗が入居するチャレンジショップ「創の実」内にある。創の実とは若者や女性向けに起業を支援する東京都中小企業振興公社が提供するプログラムで、支援には最長1年間という期限が設けられている。 「熊本がずっと大好きで、じつは上京したのも、熊本の魅力をもっと全国に広めたいと

愛する五反田を離れるにあたって|岡田悠(ライター兼会社員)

引っ越しが好きだ。かなり好き。世のなか面白い街がたくさんあって、東京だけでも数えきれない。ふと降りた駅前が魅力的だったら、「よし、住もう」と思う。そして数ヶ月後に引っ越してしまう。そんな生活を続けてきた。すべての街に住むためには、人生はあまりに短い。 「住む街を変えれば、人生が変わる」みたいなことをたまに聞くが、その理論でいけば、僕の人生は波瀾万丈だ。 ただ引っ越し好きの僕でも、五反田という街だけは別だった。なんと8年間も住んでしまった。厳密には五反田エリア内で何度か引っ

「よちよち歩き」で樹を上るエゾモモンガの赤ちゃん|愛しい北海道ANIMALS

写真を始めた頃は会えると思っていなかった、憧れの動物だったエゾモモンガ。あの可愛い姿を撮影するのはとても大変。やっとの思いで巣穴を見つけても夜行性の動物、警戒すると真っ暗になるまで出てきてくれません。撮影できるまでには本当に多くの時間を要しました。冬は深い雪の中、カメラが使えなくなるほどの寒さに耐えなければならなかったり、赤ちゃん誕生の時期には虫に刺されていてもじっと我慢するしかなかったり……。それだけに、うまく撮影できた時の喜びは本当に大きなものでした。 夜行性のエゾモモ

日本の花火のはじまりの地、愛知県三河地方・岡崎へ

にっぽんの夏。夏の花火。灼熱の太陽がようやく沈み、ほっと息をつく夜が来るころ、漆黒の空に花火が打ち上がる。ひとつ、ふたつ。そして無数に、次々と。鮮やかな光が花開き、破裂音がどんと身体を震わせる。日本に暮らす私たちにとって、花火とは懐かしい、夏の記憶そのものだ。  江戸時代から続く奉納花火 菅生神社おおらかに流れる乙川のほとりを散歩やジョギングを楽しむひとたちとすれ違いながら歩いていく。愛知県岡崎市は徳川家康の出生地だ。家康の生まれた岡崎城の城下町、そして東海道の宿場町として

大迫力! 頭上を滑空するアフリカハゲコウ(山口県美祢市)|ホンタビ! 文=川内有緒

 2011年、山口県のある動物園から1羽のアフリカハゲコウが行方不明になった。翼を広げると体長2・5メートルにもなる大型の鳥で、名前はキン。動物園関係者は必死に捜索を続けていた。  9日後、キンは約600キロも離れた和歌山県内で保護された。飼育を担当していた大下梓さんは、キンと再会したとき涙をこぼした。 「もう奇跡でした」  通常、動物園がロストした鳥を見つけるのはとても困難だからである。  そもそも、なぜキンは遠くまで飛んでいってしまったのか──。  脱走? いや

なぜ今年の大河ドラマは家康なのか?

文=城島明彦(作家) 「不断桜」に重なる徳川家康の生き様「戦国の三英傑」を桜に喩えると、織田信長は「しだれ桜」、豊臣秀吉は「八重桜」、徳川家康は「不断桜」ではないかと考えます。不断桜というのは、三重県鈴鹿市の子安観音寺の境内にある「白子不断桜」のことで、四季を問わず花をつける不思議な桜の呼称です。 観音寺から家康最大の危機を救った白子港までは、そう遠くはありません。家康は信長と軍事同盟を結んでいたために、「本能寺の変」で明智光秀に命を狙われ、滞在先の堺から決死の「伊賀越え

ふわふわと妖精のようなシマエナガの子育て|愛しい北海道ANIMALS

今年も残りわずかですね。 今回は、人気者のシマエナガの子育てです。 それは春先のことでした。愛犬の散歩中に偶然見つけたシマエナガの営巣。最初は、いるな~くらいで見ていましたが、いつも2羽で来ていたので少し観察してみることに。巣作りをしているとわかってから50日以上の観察になりました。 場所は屋外スポーツ施設の一画。本来は人の出入りの多い所ですが、コロナ渦で人もまばら。人が少ないから選んだのか、燕のように人の手助けを得ようと選んだのか? そこは小さなシマエナガにとって天敵の

あなたに会えてよかった。可愛くて愉快なエゾシマリス|愛しい北海道ANIMALS

可愛いイラストやキャラクターでもおなじみのシマリスですが、北海道にも「エゾ」のつく可愛い子がいるんです。 じつは、私にカメラを持つきっかけを与えてくれたのがこの子なんです。当時はまだアナログのカメラで、現像するまでどんなふうに撮れているのかわかりませんでした。二度と出会えるかわからない貴重な瞬間をフィルムに収め、毎回ドキドキしながら現像されてくるのを待っていたのを覚えています。 平地の自然豊かな場所や高山に生息するエゾシマリスですが、最近は写真を撮りたい風景の場所ではなか

小泉八雲とセツが描いた日本の民話(島根・松江)

第1章 小泉セツの生き方に触れる武家屋敷が軒を連ねる松江の塩見縄手には、セツと八雲が暮らした家、2人の貴重な展示品が並ぶ館があります。セツとはどんな人だったのでしょうか。  鬱蒼とした森の中、薄紙で作った舟に硬貨を一枚載せ、鏡のように澄み切った池の水面に、静かに浮かべる。若き小泉セツと2人の女友達は、その舟の様子をじっと見守っていた。池に浮かべた舟が早く沈めば早く縁に恵まれる。近くで沈めば近くにいる人と結ばれる──これは、松江の南部に位置する八重垣神社に古くから伝わる縁占い

夏におすすめ!今治のタオル生地Tシャツ【みやざきタオル】

 ポケット付きのTシャツ(ポケT)が好きで夏はそればかり着てしまう。ポケットが付いているだけで、Tシャツ1枚でもサマになる。お手本は米国の著名な写真家のブルース・ウェーバーが撮った俳優のサム・シェパードのポートレートだ。ジーンズにポケTを着た写真が実にカッコいい。ただ自分は汗っかきなので、すぐベタついてしまうのが難点であった。  たまたまインスタグラムで、いい感じのポケTを見つけた。「みやざきタオル」というメーカーが愛媛県の今治で作っている、タオル生地のポケTだ。  今治

【元町映画館】観客・映画監督たちと距離が近い 商店街の手作りミニシアター(兵庫県神戸市)|ホンタビ! 文=川内有緒

 神戸市長田区にある神戸映画資料館。貴重な映画フィルムをアーカイブするその場所に、1枚のモノクロ写真が飾られている。帽子をかぶった男性が大きな箱を覗いている写真だ。その箱とはキネトスコープ。エジソンが発明した映画鑑賞装置である。  1896(明治29)年、キネトスコープは神戸港に初上陸。「活動写真」なるものが披露され、人々を仰天させた。1932(昭和7)年には喜劇王・チャップリンも神戸を訪れ、10万人に熱烈な歓迎を受けた。いつしか神戸は「日本映画発祥の地」「映画の街」と呼ば