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日本人の忘れもの

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「令和」の“名付け親”と目されている万葉集研究の第一人者、中西進さんの珠玉のエッセイです。
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#電子書籍

“すまい” 住居に聖空間を回復しよう|中西進『日本人の忘れもの』

万葉集研究の第一人者である中西進さんが執筆し、2001年の刊行以来いまも売れつづけているロングセラー『日本人の忘れもの』がついに電子書籍化されました。ここでは、特別にその内容を抜粋してお届けいたします。 床の間がなくなった 十年ほど前、国立の研究所を作る委員会に参加した。ある日のテーマは建物の設計についてだった。席上、私はこう依頼した。 「研究の場ですから、のっぺらぼうの建物にしないで下さい。日本語で『すみ』(隅)とか『くま』(隈)とかいう、そういう場所をもった曲りくねっ

“まける” 相手に生かされる道をさぐる|中西進『日本人の忘れもの』

万葉集研究の第一人者である中西進さんが執筆し、2001年の刊行以来いまも売れつづけているロングセラー『日本人の忘れもの』がついに電子書籍化されました。ここでは、特別にその内容を抜粋してお届けいたします。 日本の悪口を言うのがインテリの証? 今まで日本はおかしかった。とにかく日本の悪口を言っていればインテリなのである。反対に日本に味方するとすぐ国粋主義者のレッテルをはられ、極端になると特別な組織の人間にさえみなされてしまった。  だから私など、むかしから日本の良さや美しさを

“にわ” 人間を主役とする日本庭園|中西進『日本人の忘れもの』

万葉集研究の第一人者である中西進さんが執筆し、2001年の刊行以来いまも売れつづけているロングセラー『日本人の忘れもの』がついに電子書籍化されました。ここでは、特別にその内容を抜粋してお届けいたします。 石と対話してみてはどうか いま、たくさんの人がマンションに住んでいる。そんな中で庭の話をしても仕方ないというかもしれないけれども、人間の生活は庭をとても大事にしてきた。  今でもホテルの中の料亭はビルの中とも思えないような庭を造っている。とくに日本料理の店は、庭があると急