見出し画像

【超短編】SL広場

  大人数のときには見込みありそうって踏んだのに、二人で会ってみると ここまでだ なんて感じることあるよね。ひとを傷つけないオーロラ折り紙の仮面が両頬にはりついて、スパゲッティを前に取りわけトングを奪い合う礼儀ただしさもよそよそしい。悪い人じゃないんだけど。昨日お好み焼きを食べに行ったからお昼はそんなにいらないなんて、気を遣って言わなかった。王道らしいハイヒールを脱いでしまいたくてたまらないことも。うん、わたしたちはここまで。
 「期待してるごっこ」が微笑ましくもじれったくて、話はんぶんにメロンソーダを吸う。実はこの人のことをよく知らない。四人兄弟の三番目だってこと、跳び箱にトラウマがあること、表計算検定を勉強中なこと。初対面に近いからなんだって二割増しに驚く。え、バスケ習ってたの、わたしも! びっくりまーくも連発したりして。本当に面白い話もあるけど、気疲れする。さも可笑しそうにくすくす笑うわたし。、の辺りから可愛らしいと思われることに顔から火が出るほど苛立たしくなる。甘く見るなよなんて。見くびるなよなんて。
「子供は好き?」
「好きだよ。保育園でボランティアしていたくらい」
「へえー!」
 この人にはもうきっと会わないのに。
 ああ自分を信じられないっていやだね。ちまたにささやかれる手練手管てれんてくだの数々を見ないふりしてそれでも後ろ髪ひかれて、無関心を装いながらほんとうは無防備に傷ついている。表面ばかり取り繕って中身をわかってほしいなんて、黙りがちな、我儘わがままだね。
「どうする?」
「わたし買い物して帰るから。」
「そっか。」
 雨降りなのに謎に明るい駅近くまで来て、さよなら。
 流れるような会話なんて下手。どもりどもり、口ごもり口ごもり、面白くもない話をみっともなく続けるわたし、どうも始末に困って、
「ごめんなさい。」
 とうつむいてしまった。肩へななめにビニール傘を担いで、
「あやまらんで。」
 と言ってくれた人。新橋駅の、汽車広場の前。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?