【超短編】今宵
湯冷めしたお惣菜の焼売をレンジで温め直すとき、一ダースのなかに格差が生まれた。髪がまだ乾ききらない、冷たい雫が首筋を伝って顕わな肩の体温を奪う。真ん中の列は舌が火傷するほど熱いのに、端の一画はまだ冷たかった。すぐに服を着ないからだ、ドライヤーを面倒がるからだ。整然とならべられた焼売たちは、残念ながら、レンジへ逆戻りだ。
あたまかず揃えるためだけの会合に、招ばれて三時間も座っていた。神経より前に軟骨がすり減った。唇がかわいて縦にひびわれた。表出しない感情は、昏い水面下をうごめきつつ、世の中にはどうしようもないことばかり。喉の小骨を、ごはんを呑んで除く荒療治で、水銀を煮るとろ火はいつも沸騰の前にもみ消された。口に出せないこと、聞かないふりをすること。曇天にまぎれて思いの丈の言霊に吐いても鬼火は消えず。おとなしく成仏する気配もない。
湿ったバスタオルの雫は不規則に床を濡らし、あなたの夜は着実に暮れてゆく。冷え切った髪には師走の霜がはりついて、ガラスチックな危うさだった。一晩をおもてで過ごしたら、僕にも氷柱が垂るだろうか。このまま静かに霜を集めて樹氷になってしまおうか。
追撃の二十秒が済んで、妙にあかるい電子音。できあいの焼売は灼熱のせいで一様に型崩れしていた。これも一興。それなら僕も、遅ればせながら熱風に頭を吹かせ、小ぎれいに櫛をあてたら、苔臭い夜の向こう、なに不自由ない顔の社会人に戻って明日を踏み出す。
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