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読書日記〜怪異は色んな場所にいる〜

 私の友人が消息を絶ってしまいました。その情報を提供していただきたいのです。

 夜9時頃に何気なくベランダに目をやると、5階の角部屋、つまりAさんの部屋のベランダに赤系のコートのような服を着た女性が両手をあげて万歳するような格好で立っていたそうです。

 双眼鏡から目を離すと、YさんとMちゃんが心配そうに見つめていた。と、同時にH氏は気づいた。今までうるさいぐらいに聞こえていた虫の鳴き声が全く聞こえなくなっていたのだ。

 「みんなで飲み会をしたあの日から、彼はなにと浮気してたんでしょうか? 一体なにに謝ってたんでしょうか?」

 情報をお持ちの方はご連絡ください。

「近畿地方のある場所について」 著 背筋


 私は流行りに乗るタイプでは無い。
 それは本においても同じ…だが今回は乗りました! 流行り!
 本書「近畿地方のある場所について」は小説投稿サイト・カクヨムに掲載されたホラー小説で、発売後にSNSで考察が繰り広げられた事が記憶に新しい作品。

主人公のライターが失踪した友人を探すために出版した本。
 インタビューの文字起こしや休刊したオカルト雑誌の抜粋記事、ネットに流布する情報などを纏めた本から見えてくるのは、近畿地方のある場所に潜む怪異の姿だった。


 全体がドキュメンタリー風のノンフィクション=モキュメンタリーとなっていて、読者は主人公(つまり信用ならない語り手)が提示してくる情報を辿っていく事になる。
 モキュメンタリー自体は昔からある手法らしいのだけど、この作品が凄いなと思うのはその情報の提供の仕方!

 「某月刊誌」から転載した記事とか(某オカルト雑誌っぽい)とかネット掲示板のまとめの引用とか(ちゃんとIDが書いてある!)、カルト教団への潜入ルポとか80〜90年代のオカルトブーム世代にとってたまらない形が取られている。
 また「実在する媒体からの情報風」にする事で、思わず「近畿地方のある地域について」は近畿地方のある地域に実在する怪異についての本では無いのかと錯覚してしまうようになる。
 考察が捗るのはこれが由縁だろう。

 もう一つ私が良いなと感じたのは、現代が舞台ではあるけれど物語の核となる怪異に「土着の信仰」「民間伝承」が絡んでいる点。
 ネタバレを防ぎたいので詳しくは書かないけれど、日常の中に潜む怖いモノを描くのはとても日本的で、私が大好きな古き良きジャパニーズホラーだと思いました。
 それだけリアリティのある作品で、とても面白かった!
 夏にぴったりの作品です。

 ちなみに巻末に綴じ込みとして「取材資料」が付いているのですが、夜に見る事はおすすめしません。
 近畿地方のある地域に連れて行かれそうだから。

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