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135 一番好きな酒の種類

ウィスキーばかり飲んでいた

 もう何十年も前のことだ。独身で、それなりの稼ぎがあった頃に、友人に誘われてバーに通っていた。初老の渋いバーテンダーがいわば師匠であり、友人と私は弟子であった。
「頼むから、バーテンと呼ばないでくださいね。バーテンダーですからね」と師匠は私たちを諭す。いま思えば、それはドラマ「相棒」に登場する右京さんのような人であった。あるいは「スターウォーズ」のヨーダのような人でもあった。
 その店には、たとえば「ワイルドターキー」だけでも十数種類あった。最初の頃、私はバーボン派で、友人はスコッチ派だった。彼は、スペイサイドに拘りがあり、マッカラン、グレンリベット、グレンフィディックを好んだ。彼に、そして師匠に教わって、私もマッカランを大好きになった。
 一方、ワイルドターキーをそこにあるすべての種類(ライまで)試していた私に、師匠は「アイラモルトはどうです」と勧めてくれた。
 バーボンは、師匠はエバンウィリアムスを推奨し、いわゆるブラックエバン、黒いラベルのものを飲ませてくれた。
 さらに、友人も気に入ったのが、オールドグランダッドとメイカーズマーク、そしてブラントンであった。メイカーズマークは蝋で封印されていて、ブラントンは栓の上に馬の飾りがついている、どちらも遠くから見てもそれとわかる瓶である。
 そんな私たちは、師匠の勧めるままに、アイラモルトへと傾倒していった。

アイラモルトの虜

 アイラモルトで、当時、よく飲んでいたのは、ラガヴーリン、ラフロイグ、ボウモアであった。
 バーボンは熟成させる樽の内側を焦がす。そして独特の風味をつける。アイラモルトは、ピート(泥炭)の香りがついていて、これも特徴がある。
 最初に飲んだときは、比較的ピート感の少ないラガヴーリンだったろうか。そこから、私も友人もアイラに夢中になっていった。
 まさか、その当時、自分がアイラ島へ行けるとは思いもよらなかったのだが、数年後に私が転職し友人と飲む機会も減った頃になって、取材でスコットランド、アイラ島を巡る企画があり、同行することができたのだ。
 ロンドンから頼りないプロペラ機に乗ってアイラへ到着したのは、ウィンブルドンテニスの時期で、テレビをつけるとずっとテニスをやっていた。宿はゴルフクラブに隣接したバンガローのようなところで、水道をひねるとピートの香りのする水が出た。
 そんなこんなで、ウィスキーはもっとも好きな酒なのである。

麦焼酎の日々

 とこが、いまはほとんどウィスキーを飲まない。
 理由は簡単で、飲み過ぎるからである。
 ウィスキーは、基本、ストレートかロックで飲む。いいウィスキー、とくにシングルモルトの場合は水割りやハイボールにしない。お店であればバーテンダーによって正確にシングルかダブルか計量されて出される。それが家ではいくらでも注ぎ放題なのである。
 あっという間に1本が消えて行く。正直、経済的にも厳しい。ウィスキーは原酒の高騰が続いて、いまも人気の銘柄はびっくりするような価格だ。それをいとも簡単に飲んでしまうので、家には置いておけない。
 しかも、太る。
 酒はアルコール度数の分だけそのままカロリーなので、度数の高いウィスキーほど太るのである。アル中のイメージはガリガリに痩せている人だろう。しかし、大して料理やつまみを食べなくても、ウィスキーだけで太るのである。恐らくその先に、肝臓をやられて痩せていくに違いない(違っていたらごめんなさい)。
 いずれにせよ、適量で楽しめば問題はないはずだが、家ではそうはいかないのだ。
 そこである時期から、家ではウィスキーを飲まないことにした。
 さらに、その後、夜は外出しないことにした。体調のこともあるけど、早く寝てしまうので、外出できないのだ。だから外飲みもしない。
 こうしていまは、紙パックの麦焼酎をお湯で割って飲んでいる。ほかにワイン、発泡酒、ビールなども適時飲むけれど。どれも量は一定。発泡酒かビールは350mlを1本。ワインは一杯。麦焼酎はウィスキーでいえばダブル。それにお湯を足すので最後にはただのお湯である。
 それでも、私が一番好きなお酒はウィスキーだと言い張ることができる。好きだけど飲まないのである。

試しに鉛筆で。


 
 
 
 


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