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286 朝顔の季節

朝顔まつり

 比較的にいま住んでいる場所から近い、歩いて行ける場所で大規模な朝顔市がある。「朝顔まつり」と呼ばれていて、鬼子母神の境内とその前の広い道路(言問通り)で繰り広げられる。今年は明日7月6日から8日まで。夜通し開催されている。夕方は歩行者天国(懐かしい響きだなあ)となって、屋台が並ぶ中、大勢の人たちで賑わう。
 とはいえ、私は植物は苦手だ。とにかくうまく育った記憶がない。小学校で朝顔の観察日記をやったのに、なぜか大して咲きもせず、枯れていく。大人になって観葉植物をカッコつけてやってみても、自分のだけ、なんだかうまくいかない。「これは、手入れもいらないし簡単だから」とサボテンを貰ったのだが、それも腐らせてしまった。カビみたいなのが出てきたので捨ててしまった。豆苗さえも、ろくに育たないのである。
 犬は長生きしてくれたけど。
 おまけに私は杉、檜、ブタクサといった花粉アレルギーでもある。
 北杜夫に傾倒していた頃、北は植物学者・牧野富太郎(朝ドラにもなった、見ていない)についてよくエッセーで書いていたから少し興味を持ったものの、本を入手するところまでは至らなかった。
 植物や草花の名を覚えられない。
 山歩きをしていた頃、小さな植物図鑑を持ち歩いたのに、「これは、これかな、いや違うか。こっちかな、どうなんだろう」と、要するに見分けがつかない。とうとう、まったく役に立たなかった。荷物になるだけだ。
 だからというわけではないけれど、朝顔まつりへ引っ越した頃に何度か行ったものの、その後は足が向かない。むしろ合羽橋商店街で同時期に開催される下町七夕祭りへ行くことが多くなった。こっちは、手作り感のある祭りで、平塚や仙台のような大規模な祭りではないけれど、親しみが持てる。
 朝顔まつりの会場と合羽橋商店街は歩いて10分ぐらいの距離感で、同じぐらい歩くと上野駅に出られる。もっとも、これだけの酷暑が続くと、10分も歩くとけっこうシンドイけれど。

鉢植えを買い求める人たち

 これだけ、植物オンチの私にとっては、朝顔まつりで、大量の鉢植えが並べる端から売れていき、大急ぎで補充している姿を見て、そんなにみんな朝顔が好きなんだと、感心してしまった。
 江戸時代、侍たちの副業としてはじまった朝顔の品種改良が今日まで続いているといった話をいま、こうして書いていながら、それを記述していた本を探すのもちょっと億劫なので、だいたいそんな話だった気がする、ということでとどめておきたい。
 さらにスゴイなと思うのは、ヤマト運輸と佐川急便は完全に祭りの一員となっていて、朝顔購入客の発送を引き受けている。つまり、大型トラックからおろされた朝顔は道端にずらっと並べられ、客はそれを見てどれを買うか決めて(私からするとどれも同じに見える)、それを今度は宅配便のトラックに積み込んで発送していくのである。ドナドナな感じ。朝顔も大変だ。
 こうすれば自宅はもちろん、誰かに贈る人もとても便利だ。
 通販にすればもっと簡単だろう。いやいや、見て選びたいのであろう。私には同じ見える鉢植えも、きっと植物好きの人からすれば千変万化。ふたつと同じものはないに違いなく、毎年、その出会いを楽しみにしているに違いない。「今年はいい朝顔だ」とか「去年はちょっと残念だった」とか、きっとあるに違いない。
 子どもたちは朝顔よりもずらっと並ぶ屋台に興味があり、祭りらしくさまざまな食べ物や飲み物、ゲームを楽しんでいる。この屋台も、だいたい場所が決まっているのか、たまに行くと前と同じ屋台が同じあたりに店を出していたりする。ベビーカステラをよく買って帰った。家で食べると、それほどおいしくはない。やっぱり祭りの場で食べてこそなのではないか。
 もっとも屋台の食べ物も、いまはそれほど魅力に感じないので、その賑やかさや香りを楽しむだけといってもいい。暑いのに大変な商売である。
 かつて、たこ焼き屋台をやっていた老婆から話を聞いたことがある。「朝顔市もここだけじゃないし、ほおずき市もあるし。浅草寺の屋台は厳しいのでなかなか出せないから、埼玉や群馬まで行くこともある」と言っていた。「そりゃ大変ですね」と言えば「道具も材料も全部、トラックで運んでくれて屋台も作ってくれるので、こっちは身ひとつで行って商売するだけだけどね」と笑っていた。分業なんだ。
 あ、もう朝顔と関係なくなっちゃった。

ちょっと描いて。ふー。



 




 
 

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