47 カレーとカレー風味
カレーファンを敵に回す気はないけど
先日、久しぶりに神田・神保町へ行ったのだが、土曜日ということもあったのだろうけど、神保町を代表する店はどこも行列だった。キッチン南海、ボンディといった店は、実は私がよく行っていた80年代や90年代も、時間帯によっては行列になっていたので、しょうがないのだろうとは思うけど、その列が予想以上に長い気もした。
カレーはいまブームなのか。いや、オールタイムのベストであって、いつでもブームなのだろう。
私も無印良品のレトルトカレーを買い続けたときもあった。いまはむしろオーソドックスなレトルトカレーを常備するようになっている。また、肉のハナマサのレトルトカレーも気に入っている。
要するに「何でもいい」ようでいて「そうでもない」のである。おそらく、多くの人がカレーについては多少のこだわりを持つと推測できる。
カレーは昭和に生まれて記憶が蓄積されるようになった頃には、すでに家庭の味だった。テレビではワンタッチカレーとかオリエンタルカレーとかバーモントカレーとか、さらにボンカレーと、とにかくCMも多い時代に育った。記憶の留めはジャワカレーで、それ以降はあまり意識しなくなった。
町中華も最近の流行だが、そこにも中華のカレーライスが存在する。駅そば、富士そばにもカレーがある。よもだそばはカレーが有名だ。御徒町のガード下にあるよもだそばは時間帯によっては列が出来ている(狭い、券売機で戸惑うといった事情もあるとはいえ)。
それでも恐らく、私の好きなカレーは、みなさんがいま連想しているカレーとはたぶん、ちょっと違う。この「ちょっと」は大きな差だったりもする。
カレーブームのおかげでカレーの範囲が果てしなく広がってしまい、人によっていわゆる「カレーの口になったからカレー食べたい」ときのカレーのイメージが大きく違ってきているだろう。
そして私にとってのカレーは、いまブームのカレーではない。ごく普通のカレーあるいは、それに少し今風の工夫がされた程度のカレーで十分だ。スパイスカレー、南インドのカレー、タイカレーも試したけど、「試した」以上のことは私の意識の中では起きていない。
「カレーはカレーだな」としか思えず、本当に食べたいヤツとは違うな、と感じた。
カレー風味はどこまでカレーか
「ね、肉じゃが作ったんだけど」
「あ、いいね。うれしい」(和食の肉じゃがを連想。じゃがいも、たまねぎ、脂の多めの豚肉、ほのかな甘さなどのイメージ)
「今日はちょっとひと工夫してカレー風味にしてみました」
「えっ」
それはもうカレーである。
カレー風味の食べ物はいろいろあるが、記憶の中で最初のカレー風味は、小学生の頃の学校給食で出されたカレースープである。スープカレーではない。カレー風味のスープだ。
私の時代は学校給食にご飯はなく、パンが主だったのでカレーライスが出たことはない。しかしカレースープは出た。これが、子どもながらに、「だったらカレーでいいじゃん」としか言えないようなもので、限りなく薄いカレーにすぎない。香りはカレーなのにカレーじゃないのだ。こんなマズイものはないだろう。
たとえば、子どもの頃に吐くほど食べた、「カール」のカレー味。これはいまの基準ならカレー風味の範疇だろうし、いま食べたいとは思わない。
カレー風味のせんべいもあった。いまもあるね。
どれもカレーじゃないけれど、「だったらカレーでいいじゃん」なのである。
カレー風味の肉じゃがを作るんだったら、カレーを作ればいい。だって材料はほぼ同じだし、作る工程もほぼ同じじゃないか。
とにかく、私はカレー風味に懐疑的なのである。
すり込まれた強力なコンテンツ
子どもにはカレーを食わしておけばいい、と言わんばかりの時代もあった。なぜか、はじめてのキャンプでは、みんなでカレーを作った。カレーなら食べられるだろう、という安直さ。そして大しておいしくはない。飯盒のご飯はギリギリの味だし、みんなで適当に刻んで作ったから、カレーの具材には固いところとトロトロのところがあって、どうにもならない上に、ときどき溶けきっていないルーをそのまま口に入れてしまう。
ちゃんと作ったカレーとおいしく炊けた白米あっての、カレーライスなのだとつくづく思い知る。
そんな記憶はともかくとして、カレーの香りが漂うと「おまえんち、今日カレーだな、いいな」といった会話があったりもしたし。「カレーはいいもの」と完全にすり込まれて育ってしまった以上、カレーに抗えない体質になってしまっている。
「三日目のカレーが美味しい」説などもあるように、カレーはなぜか翌日か翌々日まで持ち越してもよく、夕食、朝食、昼食と連続してもいいとされている。
海上自衛隊は、金曜日はカレーが出ると聞いた。曜日感覚が麻痺しないように海軍時代からの伝統だという。うっかりそう耳にしてしまい、じゃあ、いまの海上自衛隊は旧帝国海軍を引き継いでるの?それでいいの?といった目くじらにもめげず、堂々の海軍カレーが存在している。
それぐらい、カレーというコンテンツは強力であるから、そこにあやかりたい気持ちはわかる。カレー南蛮、カレーそば、カレーラーメン、カレーパン、カレーまん……。これらは、私の中では「カレー」である。カレー風味ではない。こうしたバリエーションにはちゃんとしたカレーを必要とする。
というように、それほどマニアックでもない私でさえ、カレーについてはあっという間に2000字を超えるぐらい書けるのだから、カレーは大したものだ。
そしてきっとこの文章のせいでカレーの口になった人もいるだろう。
とはいえ、この文章こそがカレー風味にすぎないのは誠に申し訳ないことではある。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?