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「勝てる場所で勝負する」参入する市場の選び方

本気ファクトリー公式note編集部です。

新規事業開発では、「3C分析」を始めとする環境分析を活用し、競合や、自社の「強み」と「弱み」を正しく把握するのが重要です。そして、自社を取り巻く環境をしっかりと認識した上で、どの市場に進出するのが有効かを判断します。

今回は、新規事業を展開する市場を選ぶ手法について、大企業の新規事業開発にコンサルタントとして携わってきた弊社代表の畠山に聞きました。

ランチェスター戦略で考える勝つための戦略

ーー新規事業において、自社を取り巻くビジネス環境を把握するのが重要ですが、環境を把握した後、進出するマーケットはどのように選べばいいのでしょうか?

畠山:新規事業でよく使われる戦略の1つ、「ランチェスター戦略」を使って説明します。

ランチェスター戦略は、イギリスのフレデリック・W・ランチェスター氏の研究から生まれた戦略論です。もともと第一次世界大戦における航空戦の戦略として開発され、現代では実践的なマーケティング理論として活用されています。

ランチェスターの法則

ランチェスターの法則は「一騎打ちの法則」と呼ばれる一次法則と、「集団戦闘の法則」と呼ばれる二次法則に分けられます。

一次法則では、1人ずつ一騎打ちをする場合、戦闘力は兵力、つまり兵士の数に比例します。剣道の団体戦を想像していただければイメージをつかめると思います。

二次法則は、両軍入り乱れての戦いを想定しています。挟み撃ちをしても構いませんし、1人で複数の兵士を相手にする場合もあります。ほとんどの戦いが二次法則のパターンだと言えるでしょう。二次法則では、戦闘力は兵力の2乗に比例します。

ランチェスター戦略で重要なポイントは、少しでも戦闘力が劣っている場合、戦いを避けるべきだということです。

強いところだけで戦え

ーー少しでも戦力が劣っている場合は、戦い自体をしない方がいいということですね。

畠山:ランチェスター戦略をひとことで説明するならば、「強いところだけで戦え」です。

ランチェスター戦略は基本的には弱者の戦略です。弱者はさまざまな要素のうち、自社が可能な限り強い領域、つまり相手よりも勝っているところから戦いを挑むべきです。そして、相手より劣っている領域では戦わずに逃げる。これが鉄則です。

一方、市場でトップのプレイヤーである強者は、あらゆる要素のうち、他社に1つでも劣っている部分があると、そこから切り崩される可能性があります。そのため、「あらゆる要素でナンバー1で居続ける」という戦略を取る必要があります。

GoogleやAmazonがITの新興サービスをどんどん買収するのは、あらゆる領域においてトップで居続けるためです。1か所でも突破口を開かれると、牙城を崩される可能性があるからです。

孫子の言葉を借りるなら「勝兵は先ず勝ちて而る後に戦いを求むる」です。洋の東西を問わず、戦は確実に勝てるところで戦うのがセオリーと言われています。

織田信長が今川義元軍に勝利したことで知られる桶狭間の戦いを例に考えてみます。織田軍は総勢4000人ほどで、25000人もの兵を持つ今川軍と正面から戦えば、織田軍が勝てる見込みはありませんでした。そこで信長は戦い方を変えることで勝機を見出します。

まず、信長は敵を分散させる作戦に出ます。わざと相手に攻撃をさせ、本陣の守りを減らしたのです。そして、手薄になった本陣に、奇襲攻撃をしかけました。桶狭間は地形的に丘陵地に囲まれた狭い土地だったため、今川軍の陣営が縦長に分散せざるを得ず、そこを横から一気に攻めたのです。織田軍は桶狭間の地形を熟知していたため、地の利を活かした戦術を取りました。そして、当主の義元本人を討ち取ることを第一目標とし、それを実行することで今川軍の士気を低下させることに成功しました。

相手の人数が多いなら、人数が少なくなる場所をつくり攻めるのも、ランチェスター戦略の弱者の戦い方です。その結果、数で劣る織田軍が勝利をおさめることができたのです。

このように、強みを活かせる一点で戦えば、弱者でも強者を打ち倒す可能性があります。

ーー大企業が新規事業を始める際は、どのような戦略を取ればいいのでしょうか?

畠山:大企業でも新規事業の市場では弱者です。なぜなら、その市場には顧客課題解決のためのソリューションが既に存在しているからです。どんなに先進的なサービスであっても、課題解決の視点から見れば後発サービスです。

サービスが優れていたとしても、実績がない中で顧客に選んでもらうのは至難の業です。つまり、新規サービスは企業規模に関わらず不利な条件からのスタートとなります。

不利な条件下で勝ち残るためには、最も自社の強みが活かせ、弱みが目立たない市場で戦うべきでしょう。

勝つためには徹底的に勝負する

ーー新規事業においては、企業の規模に関わらず弱者としてスタートすることがわかりました。それゆえに、勝てる可能性がある市場を選ぶことが大切なんですね。

畠山:市場を細かく分析し、自社が勝てる領域で戦いを挑むのが有効です。領域を細かくすればするほど、中小企業でも勝てる可能性が高まります。

ランチェスター戦略で成功している企業のひとつがセブンイレブンです。
今では全国に2万店以上を構え、業界トップのセブンイレブンも、かつて関西地域では課題を抱えていました。関西ではローソンの知名度が高く、セブンイレブンは大きく出遅れていたからです。

そこで、セブンイレブンは一定のエリアに集中して出店する「ドミナント戦略」を採用します。「ドミナント」とは英語で「支配的な」を意味します。特定地域の顧客シェアを独占することで、競合の入り込む余地をなくすのが目的です。セブンイレブンは関西地域でドミナント戦略を展開し、徹底的に出店を行うことで、ライバルに勝つことができたのです。

セブンイレブンはその後も特定の地域を選んで徹底的に出店しました。そのため、ある地域ではセブンイレブンばかり目にするのに、別の地域ではほとんど見かけない状況も存在します。その結果、長らく国内シェアNo.1だったにも関わらず、国内47都道府県すべてにセブンイレブンが出店したのは、2019年とごく最近のことです。

セブンイレブンのように、勝てる場所で圧倒的に勝つのが王道の戦略です。事業戦略を考える上で、どこで戦い、どこで勝つのかを決め、それ以外は捨てる覚悟が必要と言えるでしょう。

”Go To Market”はランチェスター戦略で考える

畠山:ランチェスター戦略は、最初に進出する市場を選ぶ際にも活用できます。

最初に進出する市場のことを”Go To Market” と呼びます。どの市場を選ぶかで、事業開発の成果が大きく変わってきます。

”Go To Market”はランチェスター戦略で考える

”Go To Market” を選ぶ際は、自社サービスが競合に最も勝てる市場、つまり「より適切に顧客課題を解決できる」市場を選びます。
その際、市場が大きくなると競合が強くなる傾向があるので、まずは限定的なエントリー市場を選ぶことが重要です。

すべての市場において既に参入している競合がいます。ただし、競合もすべての領域で強いわけではありません。顧客が既存サービスに満足しておらず、課題感を持つ領域があるはずです。その領域に資源を集中投下し、市場の独占を狙うのです。

競合がいるからこそ、自社の強みが見えてくる

ランチェスター戦略における弱者の戦い方は、「最も勝つ可能性が高い局地戦で圧倒的に勝つ」です。

新規事業では、まずは1つの領域で圧倒的な支持を得ることを目指します。そのためには、幅広い顧客層にアプローチしてまずまずの満足感を与えるのではなく、少数でも特定のセグメント層に圧倒的な満足度を与えることが重要です。顧客とコミュニケーションを図り、信頼関係を築くことで、顧客から選ばれるようになります。

「強み」と自負する要素も、競合と比較して劣っていれば「弱み」になります。逆に、自社では「弱み」だと認識している要素も、競合と比較して優れていれば「強み」になるのです。そして、「どちらがより適切に顧客課題を解決できるか」が、競合と比較する際の基準になります。

1つの市場で勝つことができたら、次の市場を狙います。
同じ顧客層に共通した別の課題があれば、さらに横展開が可能です。「深く刺し、横展開」をくり返しながら、市場を拡大していくのが理想です。自社が勝てる可能性のある限定的な小さな市場を選び、ひとつひとつ市場を攻略しながらシェアを広げましょう。

畠山Facebook :https://www.facebook.com/kazuya.hatakeyama


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