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「競合はいない」はありえない、事業環境分析の重要性

本気ファクトリー公式note編集部です。

新規事業開発では、自社を取り巻く環境を知ることが不可欠です。
事業環境を正しく把握、分析することで、適切な事業戦略の立案が可能となります。

今回は、事業環境分析の重要性について、大企業の新規事業開発にコンサルタントとして携わってきた弊社代表の畠山に聞きました。

「競合はいない」はありえない

ーー新規事業開発では自社を取り巻く環境を把握することが重要だと聞きました。その際に注意することはありますか?

畠山:投資を希望するスタートアップのプレゼンを聞くと、「我々のサービスは唯一無二なので競合はいません」と話す経営者を時々見かけます。残念ながら、「競合はいません」と言った時点で、投資を受けられる可能性はほぼゼロになります。。その経営者が「競合」という概念について正しく理解していないか、調査不足だと思われてしまうからです

ーーどんな市場にも、必ず競合が存在するのでしょうか?

畠山:顧客課題が存在する市場において、何も解決策が提供されていない状況はほぼありません。つまり、競合は存在します。
以前お話しした「ジョブ理論」をもとに説明しましょう。

「ジョブ理論」は、アメリカの実業家・経済学者のクレイトン・クリステンセン氏が提唱した顧客ニーズに関する理論です。従来のマーケティング理論では、年齢や収入など一定の属性を持つ個人がニーズを持っていて、そのニーズに対応するソリューションを提供するのが基本的な考え方でした。一方、「ジョブ理論」は、解決すべき「ジョブ」が発生したときに、その「ジョブ」を片付けるためのソリューションを「雇用」すると考えます。

顧客が解決したい課題がある以上、たとえ既存のソリューションが不十分であったとしても、顧客は既に何らかのソリューションを採用しています。それゆえに、自社のソリューションが選ばれるためには、既に採用されているソリューション、すなわち「競合」を越える必要があるのです。

ジョブが変われば、競合も変わる

ーーどの市場にも競合が存在しているとのことですが、もし競合が見つからない場合、設定した顧客課題そのものを見直す必要があるのでしょうか。

畠山:仮に競合が思いつかない場合、競合を狭い視野で捉えている可能性があります。自社の商品やサービスに対する競合が思いつかない場合、単一の業種やマーケットだけを見ているのではないでしょうか。

例えば、「マクドナルドの競合は誰か」という問いに対し、大抵の人は「ロッテリア」や「モスバーガー」だと答えると思います。理由は、マクドナルドをハンバーガー店だと認識しているからです。もちろん、正しい回答ではありますが、視野を広げて考えると、マクドナルドの競合になり得る企業はハンバーガー店以外にもあるはずです。

例えば、お昼に牛丼屋、ラーメン屋、マクドナルドのどこに入ろうか迷ったとします。この場合に解決したい「ジョブ」は、おそらく短時間で昼ごはんをとること、あるいはリーズナブルに済ませることでしょう。そして、その「ジョブ」を解決するソリューションを多くの選択肢の中から選びます。そのため、マクドナルドの競合は、ハンバーガー店だけにとどまりません。

一方、同僚とランチに行く場合の「ジョブ」は、おしゃべりをしたり、仕事の息抜きをすることかもしれません。その場合は、ゆっくりできるカフェやレストランも競合になります。ストレス解消であれば、カラオケ店なども競合になるかもしれません。

また、受験生の「ジョブ」が、長時間滞在して勉強することであれば、ファミリーレストランやマンガ喫茶も競合になるでしょう。
仕事場所が欲しい、wifiを使いたい、といった「ジョブ」では、コワーキングスペースなども競合として検討されます。

このように、顧客が解決したい「ジョブ」、すなわち「顧客課題」が変われば、競合も変わります。そのため、同じ業種や業界だけではなく、顧客が課題解決のために比較検討する企業はすべて競合だと認識しなければなりません。

マクドナルドの例に戻ると、仮にマクドナルドが日本にある唯一のハンバーガー店だとしても、競合は存在します。顧客課題の数だけ競合がいるからです。

ジョブが変われば競合も変わる

3C分析から見る市場と競合

ーー広い視野で見ると、今まで競合だと考えていなかった企業も競合になり得ることがわかりました。競合について分析する場合、有効な手法はありますか?

畠山:環境分析にはさまざまな手法があります。
今回は、代表的なマーケティングフレームワークである「3C分析」についてお話します。

3C分析は、1980年代にマッキンゼー・アンド・カンパニーの大前研一氏が提唱し、環境分析では最もよく知られるフレームワークの1つです。

「3C分析」の3Cとは、Customer(顧客)、Competitor(競合)、Company(自社)、3つの頭文字を取ったものです。3つの要素について情報を集め分析することで、自社を取り巻く事業環境を把握します。

3C+Market(市場)の図

この図は一般的な3C分析の図に、Market(市場)を加えたものです。

それでは順を追って見ていきましょう。
3Cの要素で最初に見るのは、「自社」と「顧客」を結ぶ線です。
顧客課題を解決する商品・サービスを提供することで顧客を獲得し、「自社」と「顧客」がつながります。まずは、どのような課題を持つ、どのような顧客に対して、どのような商品・サービスを提供するか考えましょう。

次に競合について分析します。
重要なポイントは、顧客の課題を解決できる商品・サービスは、全て競合になり得ることです。

競合は、直接競合と間接競合に分けて考えることができます。
直接競合とは、顧客の課題を同じ種類の製品やサービスで解決している競合を指します。マクドナルドの場合、直接競合にあたるのは同業種のロッテリアやモスバーガーなどです。

一方、顧客課題を自社と異なる製品やサービスで解決している競合を間接競合と呼びます。マクドナルドにとって、牛丼屋、ラーメン屋、ファミレス、カフェなどはすべて間接競合にあたります。

さらに、マクドナルドの間接競合は飲食店にとどまりません。ある会社員の課題がランチ休憩中に「ストレスを解消したい」だとすると、スマホゲームやカラオケ施設も競合になり得ます。

ーー顧客課題の視点から見ると、競合は業種を越え、無数に存在しますね。

畠山:マーケティング用語の「タイムシェア」「ウォレットシェア」は、競合を考える際によく使われる言葉です。「タイムシェア」は、顧客の時間の中で自社の製品やサービスが使われている「時間」の割合、「ウォレットシェア」は顧客が持つ「お金」の中で自社の製品やサービスに使われている割合を意味します。

私たちが持っている時間とお金は有限です。新しいサービスを利用しようとすると、今まで時間やお金を使っていたもの、つまり競合のサービスをやめて、新しいサービスに時間とお金をあてることになります。
企業は顧客の「時間」と「お金」のシェアを奪うため、しのぎを削っています。

それゆえに、競合は業種やジャンルを越えて存在するのです。

競合がいるからこそ、自社の強みが見えてくる

畠山:3C分析で最後に考えるのが、自社の「強み」と「弱み」です。
前提として、「強み」や「弱み」は比較対象と比較基準があってこそ、成り立つ概念です。自社と顧客だけを見て、漠然と推測するのではなく、競合との比較から客観的に判断する必要があります。

「強み」と自負する要素も、競合と比較して劣っていれば「弱み」になります。逆に、自社では「弱み」だと認識している要素も、競合と比較して優れていれば「強み」になるのです。
そして、「どちらがより適切に顧客課題を解決できるか」が、競合と比較する際の基準になります。

新規事業開発では、自社を取り巻く事業環境を分析し、顧客、競合との関係性、そして自社の「強み」や「弱み」の把握をすることが不可欠です。

今回は、3C分析を紹介しましたが、環境分析には他にもさまざまな手法があります。まずは自分に合う手法を1つ選び、使いこなせるまで取り組むことが重要です。多少の向き不向きはありますが、どのフレームワークでも、使い方次第で分析は可能です。そして分析結果を事業戦略における意思決定に役立てていただければと思います。

畠山Facebook :https://www.facebook.com/kazuya.hatakeyama


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