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出版業界の驚くべき実態

昨年から2冊(正確には3冊)の本を出版したが、出版業界の酷さに驚いている。

本とお金のルートは、

■本
印刷会社→出版社→取次→本屋、Amazonなど通販業者→消費者

■お金
消費者→本屋、Amazonなど通販業者→取次→出版社→印刷会社

となっている。

Wikipediaによれば、取次には大きい方から日販、トーハン、楽天ブックスなど19社がある。
日販とトーハンでシェアの70%以上を占める。
(2019年9月時点)

総合取次(あらゆる分野の出版物を扱う取次)

・日本出版販売(日販)(業界最大手。日本出版配給が母体)
・トーハン(旧:東京出版販売)(業界第2位。日本出版配給が母体)
・協和出版販売
・楽天ブックスネットワーク(業界第3位。旧社名は大阪屋栗田)
・中央社(トーハンと物流業務の協業)専門取次(特定分野の出版物を扱う取次)

・日教販(教科書・学習参考書)
・共栄図書(教科書・学習参考書)
・中央本社(教科書・学習参考書)
・鍬谷書店(医書・看護書を中心に自然科学書)
・西村書店(自然科学書)
・JRC(人文書・社会科学書)
・八木書店(文学・歴史・人文書)
・ツバメ出版流通(文学・思想・芸術書)
・大学図書(法律書)
・全国官報販売協同組合(政府刊行物)
・東京官書普及(政府刊行物)
・文苑堂(コミック・ゲーム攻略本等)
・地方・小出版流通センター(総合取次不扱の地方出版社・小出版社の刊行書)
・松沢書店(楽譜・音楽書)
・大阪村上楽器(楽譜・音楽書)
・子どもの文化普及協会(児童書等)

Wikipediaより

ところが取次からお金が出版社に中々入らないらしい。

色々と調べてみると、以下が出版業界の実態のようだ。

【取次から版元(≒出版社)への支払いに関して】
書店からの注文の分は、半年後に仕入れ分の7割が通常支払いされますが、実際にその通りに支払いがされているのは2社程度でしょう。
すでに倒産した取次大手では10年も支払いのなかった社もありました。
ある取次は、未払い金(売掛金)の額は出してきてくれますが、支払いは依頼してもなかなか対応してくれません。 
別の取次は数年間支払いなしで、売掛金も把握してないのか、通知すらありません。双方で数年に一回突合せをして、一部支払いをしてきます。
頻繁に本を刊行している出版社では、新刊を出すたびに新しい売掛金が仮に上乗せしますから、一部は支払いされますが、本は買い取りではなく、返品が出てくるので、すぐに過去の委託分が支払いされるわけではありません。
新刊を頻繁に出すことで、ようやく自転車操業的に成り立っているような状態のようです。

確かに、あまり売れていない本であれば金額が小さいので振込手数料を節約するために何か月かまとめて払うのは合理的だが、1年経っても払われないのは異常だし、小さな出版社にとってはいじめのようなものだ。

出版社は印刷した本の納品から2か月以内(月末締め、翌々月払い)に印刷会社に代金を支払う必要がある。
さらに、大きな出版社であれば社内のデザイナーや編集者に給料を、小さな出版社であれば外注のデザイナーや編集者などに業務委託費を払わなければならないので、取次からお金が入らないのでは資金繰りが厳しいのは当たり前だ。売上の小さい、資金力のない出版社なら、倒産しない方が不思議なくらいだ。

私のような著者にも印税を支払わなければいけないが、取次からの入金がなければ払いようがない。

出版時の著者の負担がなければまだいいが、著者も負担している場合は著者も被害を被ることになる。

取次は本の販売価格の20%程度も中抜きしておきながら、これだけの期間お金を入れてこないのは酷い話だと思わざるを得ない。

もう1つ、出版社に取次からお金が入ってきても、どの本が何冊売れたのか内訳を教えてくれないそうだ!

どうやって著者に配分しろと言うのだろう?

無茶苦茶な話だ。

これに関する実態は以下のようなことらしい。

書籍ごとの販売数は正確には把握されていません。版元ー取次ー書店というルートで本が店頭に並び、返品も生じるのですが、数年間も本が店頭に並んだ状態で売却も返却もされない状態があるので、取次も実態は把握できないようです。費用を払えば、追跡調査は可能です。大抵、版元や取次が返品率を計算して推定数値を出しています。特定の大型書店を指定して実数を追うことは可能ですが、そのためには会費を払う必要があります。20年前は無料でやってくれましたが、今は有料です。

書店で本が売れた際にコンピューターに入力するはずだからどの本が何冊売れたかの完璧なデータがあると思うのだが。
元カメラ開発者の私から見たら、信じられないほど杜撰な業界だ。「言い訳はいいから本の売上数の実態把握をさっさとできるようにしろ!」と思ってしまう。

問題の原因は?

取次から出版社に中々お金が入ってこない一因に、再販制度があるようだ。

これは、取次も書店も買取ではなく、委託販売のような形態になっており、売れた分だけお金を払い、売れ残ったら返品できる仕組みだ。
そのために必然的に取次や出版社にお金が入る時期が遅くなる。買い取りであれば、納品した月の月末締めの2か月後には振り込まれるはずだ。

再版制度は書籍ごとの販売数の把握が難しい原因にもなっているようだ。

再版制度の元では、取次から書店に配本したある書籍の全数の行き先が確定(売却または返品)が確定しないと数字を出せないようになっています。
たとえば2冊配本の店舗で、1冊は売れたが1冊は店頭に残っている場合は売却率は50%です。店頭分はまだ未定です。同様に1冊配本の場合で店頭に置いている場合も売却率も返品率も0%ですので、取次は数字を出せないのです。
なので置いていた方が良いと判断された本は、数年間置かれますし版元から返品してくださいとは言えません。

再販制度の問題点に関する記事を探したところ、以下のものがあった。
公正取引委員会が問題にして議論を行なっていたのだ。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jshuppan/32/0/32_161/_pdf
(PDFにはハイパーリンクが付かないようだ)

しかし、この中で支払いの問題については全く触れられていなかった。
なぜだろう?

出版業界の歴史

Wikipediaによれば出版業界の歴史は以下のようになっている。

明治の初めは出版社や書店が取次を兼業していたが、雑誌販売の増加にともなって専業取次が現われる。

大正時代には雑誌・書籍を取り扱う大取次、書籍を地方まで運ぶ中取次、市内の書店を小刻みに取り次ぐ小取次や、せどりやなどへと分化しており、その数も全国で300社余りもあった。

1941年、太平洋戦争(第二次世界大戦)に伴う戦時統制の一環として全国の取次が強制的に解散させられ、日本出版配給(日配)に統合された。この時点で、それまでの取次はほとんど消滅した。戦後の1949年に日配は解体され、現在も続く取次会社の多くがこの頃に創業している。

取引形態は当初は買い切り、値引き販売が基本だった。

1909年 - 実業之日本社が雑誌の返品制(委託販売制)を初めて採用して成功を収め、以後他社も追随して雑誌の返品制が確立する。
1919年 - 東京書籍商組合が定価販売制を導入。
1926年 - 円本時代始まる。書籍の大量流通が始まって雑誌流通と一体化、書籍の返品制が始まる。
1953年 - 再販制度制定。

という流れを経て、書籍・雑誌流通の一体化、返品制、定価販売(再販売価格維持制度)という現在の方式に移行している。この方式は大量生産、大量流通を可能にした。これ以後、日本の経済発展に合わせて出版も規模を拡大、取次も成長していく。

ところが定価販売制の元では価格競争が起こらず、流通システムの効率化がなかなか進まなかった。その結果が書店の過剰出店や返品の増加となって現われ、近年の出版不況とあいまって、書店や出版社だけでなく取次をも苦しめている。

Wikipediaより

まとめ

お金を出版社に入れない取次だけが悪いのではなく、取次にも書店からお金が入ってこないのがそもそもの問題なのだろう。

諸悪の根源である再販制度を見直さないと、紙の本は日本から消えてしまうかもしない。

大量生産の時代は終わっているので、取次も書店も、大量生産の時代に作られた、無責任な再版制度はやめて、買い取り制にすべきではないだろうか?
詳細の分析を行なった訳では無いので正解は分からないが、再販制度に答えがないことだけは間違いないだろう。少なくとも著者である私はそう思っている。現状のままでは本を出し続けることは難しい。

以下の記事は私の意見と近いようで、私の考えはピント外れではなさそうだ。

一方、出版社の話では、再版制度を廃止すると以下のようになりそうだとのことだ。

取次に言わせれば、返品率の高い本を送ってくるなという主張があり、買い取り制度に移行すると、現在の価格は無理で、部数がさらに少なくなり、2倍の値段(欧米並み)ー平均1500円が3000円にはなるといわれています。
大手の幻冬舎、講談社、角川などは、新刊あたり500~1000万円を著者や企業スポンサーに要求して(最低限の広報、営業費込み、書店キャンペーン別)、協力出版でも平均的経費200~300万円の半分を著者に買い取りしてもらうケースが多いです。もちろん1万部近く販売が見込めるものは、著者負担なしの印税契約で版元がすべて負担しますが、現在は初版2000~4000部が主流なので、なかなか版元単独刊行は厳しいです。

日本において唯一検閲から自由な言論空間として、出版業界が一刻も早く、まともな姿になることを願う。

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