うさぎたちのゆくえ

※この話はたとえ話です。

アナカラウサギという、黒毛のうさぎがいたとする。

このうさぎは、地中で生まれ、幼少期を地中で過ごしたのち、穴から地上へ上がり成体となることからアナカラウサギと命名された。


寿命は20年ほどで、多くのうさぎは4歳ほどで穴から地上へと上がるが、中には3歳や2歳で地上に出るうさぎもいる。


地上に出るタイミングは、地中にいるうさぎに餌をあげ続けられる親うさぎの有無に大きく影響される。


地上に出るための穴は自分で作ることもできるが、既に地上へとつながる穴が多く存在しており、地中にいるうさぎたちは基本既存の穴を使って地上に出ることが多い。


餌が豊富な場所に出る穴や出た場所に他のうさぎが多くいる穴は人気で、その穴を目指すよう多くの親うさぎは推奨している。


 一方、うさぎたちが地中で密集すると環境的な問題やうさぎ間のトラブルが急増するため、地上近くの穴になればなるほどうさぎの通行規制や穴あたりのうさぎの数が厳密に決められている。


そのため、うさぎたちがある程度自由に行動しないよう制限する必要があった。


親うさぎが子うさぎを管理できればよいと考えられたが、親うさぎは地上での役割がある。


そこで、職業として地中のうさぎたちを管理し、サポートする大人うさぎを定め、みまもりうさぎと呼ぶことにした。


みまもりうさぎたちは子うさぎたちの年齢ごとに分担して見守り、子ウサギが地上に出てから健やかであれるよう日々指導をおこなうのだ。


この話は、3歳の子うさぎたちを担当するみまもりうさぎの会話が中心だ。


ある穴の子うさぎたち

 3歳の子うさぎたち。


2歳よりできることが増えて、4歳よりまだ成体に時間のある子うさぎたち。


この年頃のうさぎたちは4歳になったときによりよいとされる穴から地上に出るために、4歳までにいるべき場所を逆算して進路を決めることが求められる。


とはいえ、まだ子うさぎ。


好きなことに熱中したり、気になるうさぎを追いかけてみたり、今いる場所に悩んでみたりとやることがいっぱいだ。


急に来年上がる穴を選べと言われてもそもそも地上を見たことがないのだから、地上につながる穴なんてぴんと来ない。


しかし、いつかは地上に行くだろう。


行くならできれば悪くない地上がいいだろうと子うさぎたちは思い、親うさぎや先輩うさぎから話を聞いたりして、自分にとってよりよい穴はどこか考えるのだった。


今いる穴から移動するためにはその穴所属のみまもりうさぎの許可が必要であるため、各々の志望を近くのみまもりうさぎに打ち明けるのだった。


ある穴のみまもりうさぎたち


 5匹のみまもりうさぎたちは、子うさぎたちから見えないところで話し合いをしていた。


5匹の構成は一番経験のある長うさぎ、中堅オスうさぎ、中堅メスうさぎ、若手オスうさぎ、若手メスうさぎで、テーマは子うさぎたちのゆくえについて。


この穴の子うさぎたちのほとんどは4歳になったら次の穴に行くことを志望していて、すぐに地上に出ようとするうさぎは少数派だ。


来年も地上に出ず穴にいるためには親うさぎの支援が必須であるため、子うさぎによっては仕送りする餌が少ない穴へ進むことが条件だったり、餌を送りやすい近場を望まれていたりする。


もちろん、基本は子うさぎの夢の実現が最優先だが…。


そして、あるうさぎについてのはなしあいが始まった。

黒うさ子について

中堅オスうさぎ

「では次、黒うさ子について…。将来の夢は餌管理員で餌管理法も学べる餌管理学を学べる穴志望です。第1志望はミナミマンナカエリアの餌管理学穴、第2志望はオオテチカバエリアの餌管理学穴です。このこはまじめな子なので、これでいいんじゃないかと思っています。」


長うさぎ

「そうね。この穴でも伝統ある穴掘り競技をずっとやっていたしがんばれるうさぎでしょう。オオテチカバエリアを目指させてがんばってもらいましょう。」

黒うさうさについて

中堅オスうさぎ

「はいでは次、黒うさうさについて。このこは高齢うさぎをたすけるうさぎになれたらと思っているようで、チカバニネンエリアやニバンテチカバエリアのうさぎたすけ学の穴を志望していますね。」


長うさぎ

「でもこのうさぎ確か、母うさぎがこの子うさぎの様子を見ようと何度も地中に来たことで母うさぎは出禁になっていて、それでも無理やりこの子うさぎを地中に出させようとしたから、この子うさぎたっての希望でお世話うさぎの保護下で暮らしているうさぎでしょう。」


中堅オスうさぎ

「そうなんですよね…。母うさぎはチカバエリアにいるわけですから、チカバエリアは危険だと思っているですが…」


長うさぎ

「…うさぎたすけ学が学べたら、とのことだったけど、うさぎたすけ学をメインで学ばないと高齢うさぎをたすけるうさぎになれないってわけじゃないんだよね。」


中堅メスうさぎ「そうなんですか?」


長うさぎ

「うさぎたすけ学は他のところでも学べるから、例えば、ちいさなうさぎ教える学の穴に行ってうさぎたすけ学を学ぶこともできるの」


中堅オスうさぎ

「だったらミナミオシエルエリアを勧めてみましょうか。チカバエリアじゃない方がいいと思うので。」


長うさぎ「ですね」

黒うさたについて

中堅オスうさぎ

「次、黒うさたです。1歳のうさぎを教えるみまもりうさぎを目指していますが、このこはうさぎ力6.4ですからチカバブンカエリアのうさぎおしえ学だと厳しいんですよね。」


長うさぎ「そうですね…となると、」


若手メスうさぎ

「すみませんその前にうさぎ力ってどう点数つけるんでしたっけ」


中堅メスうさぎ

「うさぎ力はそのうさぎの1歳の終わりと2歳の終わりに5つの観点をそれぞれ10点満点で計算したものの平均だよ。」


長うさぎ

「意思を伝えたり説得したりする話す力、数を使って考える力、他の穴のうさぎとうまくやれる力、チャレンジする力、過去のうさぎから学ぶ力の5観点だね。」


中堅オスうさぎ

「この辺の穴だと、うさぎ力7.0以上だとおすすめうさぎとして4歳のみまもりうさぎたちに伝えられるけど、実際7.4は欲しいところだしね…って感じでうさぎ力は判断基準のひとつだよ。」


若手オスうさぎ「なるほど…」


長うさぎ

「では話を戻して、チカバブンカエリア志望とのことだったけど、あそこの穴は人気があるから行きたくても行けないかもしれないね。」


中堅オスうさぎ「となると、ハナサクエリア?」


長うさぎ「そうね…チカバブンカエリアを目指してハナサクエリアに落ち着くってとこかな」

黒うささについて

中堅オスうさぎ

「では次ですが…。黒うささです。病気になったうさぎを助けるうさぎの補助うさぎ志望ですがうさぎ力が足らず…本うさぎも自覚しているようです。穴が大きいことからミナトクンレンエリア志望です。」


長うさぎ

「そのエリアはいいところだね。確かに近くのクンレンエリアに比べて穴も大きいから。」


中堅オスうさぎ

「難しかった場合はチジョウムケクンレン穴に行くとのことなので妥当でしょう。」

黒うさおについて

中堅オスうさぎ

「次のうさぎは…、黒うさおです。このうさぎは将来の夢に強いこだわりがありまして、地上に出たらダイトカイのうさぎファッション店の店員になると言っています。」


若手メスうさぎ「珍しい夢ですね」


中堅オスうさぎ

「というのも2ヶ月前の3泊4日の地上研修でダイトカイに行ったじゃないですか。そこで会った店員さんに感銘をうけて、その場でどうやったら店員になれるかとか聞いたそうで。」


中堅メスうさぎ「おお、行動力あるうさぎですね」


中堅オスうさぎ

「話をきいて、ブンカファッションエリアの服受け渡し場所に行きたいって言ってるんですけど、私はここに明るくなくてですね。」


長うさぎ

「名門ですよ。そこの穴出身で地上に出てから活躍してるうさぎいっぱいいますから。私の友達もその穴に行きました。」


中堅メスうさぎ「へぇ、そんな穴があるんですか。」


長うさぎ

「ただ、穴から出るために課されることが多くて、こなせなくて違う穴から地上にでるうさぎも多いのよね。」


中堅オスうさぎ

「…なるほど。ちょっと調べてからもう一回相談させてもらいます。」


その後もみまもりうさぎ達の話し合いは続いた。 

休憩を挟みながらも、結局一通り終わったのは開始してから4時間後だった。


疲れたみまもりうさぎたち。


これで一応担当する穴の半分の子うさぎのゆくえについては話し合うことができた。


中堅オスうさぎ

「来週から子うさぎと個別に話して具体的に決めていくとして…。でも、この状況ですからね…いままで通りおすすめうさぎ制度が使えるか分かりませんよ。」


長うさぎ

「そもそも4歳の試練を4歳担当のみまもりうさぎたちがするかも怪しいですしね。」


中堅メスうさぎ

「子うさぎの中には延期して5歳で試練説を信じている子もいますからね。子うさぎたちも心の準備ができていないでしょう。」


みまもりうさぎたちの間には沈黙が落ちた。


実は今地上で、うさぎたちが次々にさらわれる事件が増加している。


目撃したうさぎの話では、惑星外生命体による犯行のようだ。


集まって活動しているうさぎたちのところへ惑星外生命体がやってきてさらっていくことを踏まえ、うさぎたちは目立たないように単独行動することで自衛している。


地下の子うさぎたちは無関係かと思われたが、地下にいたはずのみまもりうさぎがさらわれたことや、子うさぎが密集する穴を惑星外生命体が狙っているという説も囁かれたため子うさぎたちも行動制限することになった。


各穴に集まって一斉にみまもりうさぎの指導を受けるのはしばらくお休みとし、各子うさぎで1匹分が入れる穴を作り、その穴でできるだけじっと過ごすようみまもりうさぎたちは指示した。


平常時なら他のうさぎたちと遊んだり、みまもりうさぎたちから穴掘りを教わったりすることで夢の実現に近づく時間なのだ。


じっとしておくのは子うさぎたちにとって辛いことだろう、とみまもりうさぎたちは考えている。


みまもりうさぎの中には1匹分の穴でもできるうさぎ力向上の助けとして、先輩うさぎの残した手記を全子うさぎに配布したり、全子うさぎが聞こえる音を使って運動させたりしているが、全ての穴でできることではない。


みまもりうさぎ個人の力や、子うさぎが所属する穴の資源力や規模で子うさぎが受けられる支援は決まってくる。


年齢問わず子うさぎたち全体が苦しい状況だ。


だんだん動けなくなって苦しむ子うさぎがいる一方、子うさぎ同士をつなぐ穴を作り、その穴を通して話したり踊ったりする子うさぎもいる。


みまもりうさぎの一斉指導再開後のフォローは大変なものになるだろう。


みまもりうさぎたちは感じる責任の大きさに気が重くなった。


若手メスうさぎ

「でもま、また子うさぎに会えるようになるのはありがたいですね。」


若手オスうさぎ

「やっぱり子うさぎあってこその穴ですから。」
中堅メスうさぎ「今のうちにできる準備はやっとかないと」

みまもりうさぎたちはそれぞれの持ち場に戻り、作業を再開した。


また来る子うさぎのために、できることをやるだけだ。



うさぎたちのゆくえが、よいものでありますように。

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