見出し画像

相談女1

「相談女」という言葉を知っている人は、どのくらいいるのだろうか。私がこの言葉を知ったのはたぶん数年前のことだ。

「相談女とは」で検索すれば山ほど出てくるので知らない方はぜひ。

相談女は基本的に他人の夫や恋人を横取りするために「相談したいことがあるんですぅ」と二人で会う口実を捏造する。しかし対女性でも同じようにすることがあるように思う。

さて、今朝、私の唯一自由な時間帯に、子供がやってきた。「今日ねぇ宿題をねぇ出さないとまずいからさぁ、塾の宿題を学校に提出してもいい?」とのこと。「そんなこと、前から言っているよね、学校には直筆の宿題を提出して、塾にはコピーを提出用のノートに貼って出せば?」と答えた。

でもねぇ、学校に出しても戻ってくるから大丈夫だと思うんだよ」

「戻ってこなかったらまずいよね、だからコピーをと……」何度も言ってきたことの繰り返しを話した。

だってねぇ、必ずその場で戻ってくるんだよ」

私は、結婚する前につきあいのあった女友達を思い出した。彼女は筋金入りの生粋の「でもでもだってちゃん」だった。私の中では、「相談女」と「でもでもだってちゃん」は、ほぼ同じだ。

これから書く話は「恋人」を横取りされたのではなく、「時間」を横取りされた話だ。

彼女は、すんなりと細身で手足が長く、顔は童顔で可愛らしく清楚な雰囲気、笑顔はとある人気女優によく似ていたから男性にもモテるタイプだった。これ、と思った男性に近づくのもうまいし、男性をその気にさせるのも得意だったから、いつも彼女のそばにはエリートで家柄の良い男性がいた。

そのうちの一人と結婚をしようと付き合いはじめてから、彼女からの電話が頻繁になっていた。私は当時付き合っている人がいなくてヒマだと思われていたのだろう。会社から帰ると留守電で「電話してほしい」、と録音がある。何か急ぎかと思って電話をすると、「私は××したんだけど、彼は○○というんだけど、どうしたらいいだろう」と始まる。

これを言われたら、なんとなく「△△してみたらどう?」とまあ、彼氏がいない私が言うのもおこがましいけど提案することになる。大事な友人だと思っているので、なんとか幸せに結婚してほしいから、私もがんばって答えるのだが、彼女はかならず「だってね・・・・・・・・」または「でもね・・・・・・」を繰り返すので、電話は長時間に及び、私はだんだんと彼女からの電話を負担に感じるようになっていた。

電話がかかっても、二回のうち一回はかけなおさないようになり、そのうち、私は彼女からの電話に出るのが苦痛で、会社から直接家に帰るのがイヤになり、スポーツクラブに通いはじめた。当然携帯はロッカーに入れっぱなしだ。

ある日、彼女から留守電に長いメッセージが入っていた。私が留守ばかりで電話に出ないことをなじっていた。さすがに冷たくし過ぎたかと思って電話したら、「もう、性格もキモイし、見た目もイヤすぎるから別れたいんだけど、誕生日にレストランを予約してプレゼントも買っているらしい、どうしよう」という内容だった。彼のいやな部分を次々に言い募るのを、うんうん、と聞いていたが、そんなにイヤならレストランは断って別れたほうがいいかもね、と言って夜中まで続いた電話を切った。次の日もそのまた次の日も、同じような内容の電話がかかってきた。今までで一番条件が良い相手だというのを知っていたから、私も真剣に相談に乗っていた。最終的に、彼女はレストランには行くけど、プレゼントは断り、別れると言った。

彼女の誕生日になった。その日も私はスポーツクラブで時間をつぶし、夜遅く自宅に戻った。留守電が大量にあったがすべて彼女だった。イヤな予感がした。留守電はメッセージなしがいくつも続いたあと、最後に「プロポーズされたから結婚することにした」とのことだった。

私の時間、返して~と言いたかったけど、おめでたいことだからぐっとこらえた。彼女が幸せになってよかった、同時に、これからは私への電話が減るよね、と嬉しく思った。

さて、その後半年くらいして彼女は結婚した。綺麗な花嫁だった。新婚の彼女からは電話もかかってこず、きっと楽しく幸せにしているのだと思っていた。そんなある日、新居に遊びに来てほしいと電話がかかってきた。その日彼女の夫はいないのだそうだ。 

続く