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『ちょっとよろしいですか?』

口頭で人に説明するのが苦手だ。
しかしこれが不思議なくらい人からよく道を尋ねられる。

知ってそうとかそういう話でもないと思う。
現に初めて訪れた旅行先や引っ越したてで土地勘が全く無い時にも聞かれてしまう。

周りの人に話すと『聞きやすそうだからじゃない?』とか『優しそうに見えるんじゃない?』というふうに言われる。良かれと思って言ってくれていると思うし、素直に喜んでもいいのかもしれないが、どうしても引っかかる。

というのも若い頃、

 ・一日に何度もアンケート調査や
  勧誘の人に呼び止められる
 ・電車の切符を買う時に横から
  知らない人に切符を取られそうになる
 ・呼び止められて素直に立ち止まって
  話を聞いていたらその実、変質者だった

などなど…
毎回ではないとは言え、街中に出るとこういうようなことに何度も出くわしてきた。

ちなみに電車の切符の案件は、思いもしない出来事にフリーズしてしまっていたら近くにいた人が助けてくれて事なきを得た。
たぶん、運賃表を見ている感じが土地勘の無さを表していたんだと思われる。

そんなわけで、

 話しかけやすい=隙がある

という感じがしてあまりポジティブには思えない。

その上で説明下手ときた。
気心知れた間柄ならのびのび話すことができるし、説明したりする場面でもお互いのことをわかっているから伝えやすい(下手には変わりないんだけど)。

でも初対面の人に突然話しかけられるというシチュエーションはやっぱりちょっとビックリするし、何から説明したらいいのかで言葉が詰まってしまう。
しかもそれが変なケースだとよりビックリするし、何から説明すればどころの話じゃない。

こんな感じだから私に道を聞かない方がお互いのためなんじゃない?なんて思っていたりしていて、特に絶対説明できない場所なんかでは進行方向に話しかけてきそうな人が見えたら眉間にシワを寄せ気味に口周りは無表情な感じで早歩き作戦を決行する。

我ながら冷たいというか不親切なこと書いてて小ちゃいなぁとも思うけど、だって実質聞いたところで…ですよ?
聞きやすそうかもしれないけど、ホントにそれだけで、肝心の道順は知れないか分かりにくい説明で結局また他の人に聞かなきゃなんですよ?

これぞまさに『聞いて損した!』なんですよ⁈

(…ってホントに自分で言うのもなんだな)

まぁそうは言っても他の人からしてみたらそんなのは知ったこっちゃない話。結局聞かれたら一生懸命答えている。

あたふたする場面にも相変わらずよく出くわす。近所を歩いている時、進行方向に一人のお爺さん。絶対に道を聞かれると思った。

私は普段着で、この時は完全にこの辺りの住人ですって雰囲気を自ら醸し出していたし、この辺のことなら聞かれても大丈夫と思っていた。案の定呼び止められる。

お爺さんは目の前にある山を指し示し『この山に登りたいんだけど、どこから登れるのかな』と聞いてきた。

山!


あー…それは……
登ったことない…。


今回こそは答えられると思ったのに!
妙な悔しさを感じたが、そんなことよりそのお爺さんの姿が気になった。

傘1本とそんな軽装で登るんですか⁈



お爺さんは小さな黒い傘をさして(夏だったので日除けだと思われる)、動きやすい格好とは言えない普通の街歩きの服装をしていた。
山の登り口を聞かれるとはホント想定外だった。

本格的な山登りをするような、ましてや何千メートルの山でもないし、私自身が登ったことないからもしかしたらそんなこと気にしなくてもいいような山なのかもしれない。

ただ、少し前に友人がその山を登っていて、1時間くらいで登れたけど思ったより傾斜がキツくて結構ハードだったっていう話をしていた。お爺さんに何から説明すればいいんだろう…

1ヶ所知ってる登り口があったので、そこまでの道順を伝えた。

後日、その山を登った友人にお爺さんの話をした。友人はお爺さんの軽装具合にやっぱり驚いていたが、登り口については『そこも登り口だけど、そこまで行かなくてももっと手前にもあるよ』とのこと。

ほらー!お爺さんよ!

私に聞くから!


どうか無事辿り着けていますように…。



そんな感じなのでイヤホンして音楽聴きながら出歩くことにしてみた。
効果てきめんかと思いきや、それでもまだ道を聞かれたりアンケート調査の人には呼び止められる。

そしてやっぱり出会う、あたふたシチュエーション!

イヤホンして音楽を聴きながら駅のホームで電車待ちしていた時のこと。後ろから『お姉さんすみません』との声。
ホームには割と人もいたけど、声の方向は自分に向いているようで反射的に振り返る(自らイヤホンの目的を見失う)。

振り返ると一人のふくよかな男性。
『次来る電車何時かわかる?』とのことだった。

私はもうすぐ来る時間だということはわかっていたけれど、何時かと聞かれると覚えていなかった。
だからと言って『わかりません』って違うよなー。もうすぐ来るのわかっててここに立ってるし。
ということでスマホで検索して伝えた。

『あと7分くらいやね。ありがとう』とその男性。会釈し、また音楽に聴き入っていると、またその男性が話しかけてきた。


『ごめん、あと一つ。これって〇〇駅(終点)行きますよね?』


 …
 …
 …

そしたらこっちのホームに渡ってきたんはなんでやーー!!
っていうかそもそも時間も行き先も改札くぐる前に駅員さんに聞かんかったんはなんでやーーー!!

ウォーー!!


…という気持ちを腹に納め、『はい』とだけ答えると、男性は離れて行った。

話しかけられた内容に色々思うことがあったが、なーんかずっと妙な違和感があった。

なんで私、さっきの人初対面なのに口の形までわかるんやろ…?


 …
 …
 …


マスク!!


もうこのご時世になって2年経つっていうのに、気づかなかった。
でもマスクが肌に合わないとかなんらかの事情があるのかもしれないし…と先程の男性が歩いて行った方をちらりと見る。

マスクしとるやないかーーい!!



いや、でもさっきは確かにしてなかった!もう色々ビックリ!

ここまでの話、終始『何言ってんだろう』って人もいるかもしれないが、ふと気になって同じような人がいないかネット検索してみた。

なんと “道聞かれ顔” って言葉でいろんな記事を発見!道聞かれ顔(笑)
いくつか読んでみたら、そのエピソードの数々があるあるで、読んでいて面白かった。

道聞かれ顔は “格下” とか “害が無さそう” とか、ちょっと言い方どうなのっていうのもあったけど、ほっこりエピソードや分析などを読んでいて『そうよなー、どうしても聞かれたくないんじゃなくて、ビックリしたり自分がちゃんと説明できる人じゃないのが嫌なんよなー』と思った。

道聞かれ顔のお陰でまさに一期一会のいい思い出もあるし。 “眉間皺寄せ無表情早歩き作戦” はしなくていいならしたくない。

イヤホンしていてもマスクつけて表情が見えにくくても呼び止められるのなら、道聞かれ顔を有効活用できるようになって、自分も相手も『良かった!』っていう時間を味わえるようになれたらなと思う。

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