時空の歪んだ場所

時を止めて、これ以上歳をとらないようにしたい。
見たくなかったものに蓋をして、存在を消してしまいたい。
家を広く見せるために四次元ポケットが欲しい。
そんな風に考える人がいる（かもしれない）。

その夢をかなえる場所は割と身近にあるものです。
実は皆さんの家の中に、しかも３つもあります。
それがどこかというと、――冷蔵庫・押入れ・ベランダ。

家事代行という仕事をしていると、「家の中ってこんなに時空が歪んでたっけ？」と不思議に思うことがあるのです。本日はそれについて。

■冷蔵庫：賞味期限を無視して食品を永遠に腐敗から守ってくれる場所

まず最初は冷蔵庫。
人はなぜか、ここに食材を入れると賞味期限がストップするという幻想を抱いています。これが「冷凍庫」になるとさらに安心度は上がり、もはや「確信」の域に。
この分厚いドアの中に食材を入れるだけ。そうするだけで、食材は無限の命を約束され、取り出せばいつでも新鮮で美味しい状態を保ってくれる。そう、たとえそれが「賞味期限：1997年〇月」であったとしても。

…当たり前だけどそんなことはない。賞味期限はともかく、消費期限はなるべく守ってくださいな。

■押入れ：「見えない」は「正義」

着なくなった洋服も、親から押し付けられたアルバムも、職場でいただいたお土産も、とにかく押入れに入れてさえおけば安心です。だってまだ使えるのだもの。私はモノを大事にする人間。捨てるだなんて、エコに反する行為、恥ずべき行為、唾棄すべき価値観。
いずれ引っ越すときには中身を確認すればいい。いまはただ、そっとこの扉を閉じよう。

「見えなくなる」「視界に入れない」というのは、正義だ。
「手放すという決断」から我が身を守り、罪悪感を感じずに済む。
この押入れの中でいくらカビが生えようが、衣類に虫食いができようが、扉の向こうにいる私からは判断ができない。

私が悪いのではない、ここはそういう場所なのだ。

■ベランダ：室内を広くとるための四次元ポケット

朝、起きてすぐにコーヒー片手にカーテンを開ける。窓の向こうに見える街の雑踏を上から眺め、ひとつ伸びをして。朝日を浴びてリフレッシュ。さぁ、今日も一日が始まるぞ。
すぐに私はカーテンを引いた。――そうしないと、ベランダに置きっぱなしの粗大ゴミが目についてしまうからだ。

洗濯物は浴室乾燥機で良く乾くからベランダは使用しない。女性ものの下着をベランダで干すのは防犯上悪いと聞いたから。
だから、ベランダはもっぱら「ベランダ菜園」として利用していた。けれど、うまく育たなくてすぐにやめた。オシャレなテラコッタの重たい植木鉢を奮発して買ったものだから、土を入れたら更に重くて移動させられなくなった。片付けたいのだけど「土ってどうやって捨てればいいの？」、それがわからずそのまま放置して３年。こないだの台風の時、ベランダで割れてしまった。正直に言って、割れてくれてよかった、とさえ思った。捨てる口実ができる。でも相変わらず土はどうしていいか分からないので、そのまま放置。土が微妙に流れ出て排水溝を詰まらせてしまっているが、どうしようもない。ここを出ていくときに業者さんにお任せするつもり。

他にも、ダイエット用にと買った腹筋トレーナーが、雨ざらしになっておいてある。狭いリビングに設置したら意外と場所を取って、それならもうベランダに置いちゃおう！と移動させたのだ。最初の頃はちゃんとビニール袋を掛けていたのに、数週間後に見たら風で飛んで行ってしまってて、雨ざらしのせいで錆びまくっていた。こんなの、直接手で触ったら怪我しちゃいそうで怖い。おまけに器具のスポンジ部分は雨を含んでじゅぐじゅぐ。晴天続きの時に粗大ごみに出そうと思い続けて、こちらも２年が経過。その横には、割れてしまった３段ボックス。木製品だしちょっとの間くらいベランダに置いてていいよねと思ったら雨が降って以下略。ここ、ベランダの癖にひさしが短くて、雨が降り込みやすいのがいけないんだと思う。欠陥住宅かしら。次に住む家はもっとベランダが広々したところにしたいな。

不要なものを置くにはちょうどいいこのベランダのスペース。なにより、ベランダに置いてしまえばゴミの存在を忘れてしまえる。カーテンさえ閉め切っておけばいいだけ。
しかも、室内にある押し入れや冷蔵庫と違って、多少ホコリのあるモノや、土などの有機物を置いても大丈夫。気づいたときには全部だめになっているけど、引っ越しの日まで忘れたままにしておけばいい。

…なんて言うストーリーが容易に想像できるベランダ。ここも要注意ですね。
ベランダって意外と、道路を歩く人々から見られてますから…

■時空は歪ませないように

今回は特にオチもありません。そういうお宅が多いよね、という小話でした。
こういうお宅を拝見するたびに「慢性的な便秘状態」と一緒だなぁと思ってしまいます。例え方が汚くて申し訳ない。でも実際に詰め込みまくったお家は汚いので。あえてストレートに汚い表現の方が伝わると思う。
家の中が便秘状態だな、と感じたら、日々の行動を見直すタイミングかも。ぜひ皆様も、家の時空を歪ませないように、「手放す」を意識してみてくださいませ。