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背中

「こんなに愛されていてあなたは幸せ者よ。」彼女がほほ笑む。彼女とはバイト先で知り合った。

つきあいだすと彼女は嫉妬深い一面を見せ始めた。

「ねぇ、さっきのひと誰?」

誰のことだ?

「・・・綺麗なひとね。もしかして前の彼女?」

ちがうよ。ただ、道をきかれただけだ。

「私がさっきのひとならなら、あなたのことほおっておかないな」

何でそうなるんだ...バイト先でもこんな調子だ。

「あたしはあなたのもの。あなたはあたしのもの。」

愛おしさは既に無くなっていた。

よく聞く話だ。あれから何か月経っただろう。

きちんと話し合い、お互い納得のうえ別れた。でも、彼女の中ではそうではなかったらしい。理由をつけては何かと連絡してくる。バイトも辞めざるを得なかった。常に視線を感じる。気のせいかもしれないが..。

疲れた俺は電話番号を変え、引っ越した。

引っ越し先はまだ誰にも教えていない。どこで彼女が聞きつけるかわからないからだ。怖かった。いや、いまだに怖い。

しばらく出歩くことを控えてインターネットにたよる日々が続いた。 


ある日 ログインするためにパスワードをいれた。

あれ?...おかしい。画面が固まっている。とうとう壊れてしまったか。それともウイルスにでも感染してしまったか。画面は固まったまま動かない。

ようやく動いたその画面には「おかえりなさい」の文字。

何だこれは?

咄嗟にクリックしてしまった次の瞬間、パソコンに向かう自分自身の後ろ姿が画面に映った。

どういうことだ? 何がおきているんだ? 心臓の鼓動が速くなる。

そして、見覚えのある色に彩られた指先が今にも俺の背中に少しづつ近づいている。聞き覚えのある言葉と一緒に。

「こんなに愛されているあなたは幸せ者なのよ...」

振り向いたその瞬間 その手は銀色に光る何かを振り下ろそうとしていた。


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