TENET テネット 脚本 翻訳①【〜暗転タイトルまで】

※スクリプトP2〜P8

オーケストラはチューニング中、観客は静かに席に着こうとしている。
ガラス張りのボックス席にいる高官達は酒を酌み交わす。扉は閉まっていく。

バン!
オーケストラの後ろから、マシンガンを持ったテロリスト達が押し破ってくる。観客が叫ぶ。
テロリスト達は一般市民を包囲する。
高官達はボックス席に閉じ込められる。


◎日中 ウクライナ、キエフ区の広場と車の中では

警察が広場に駆けつける最中、運転手は助手席の方を向く。

運転手(ウクライナ語で)「そのアメリカ人を起こせ」

助手席の男は、座って待つ黒武装の若い4人の男達がいる後部座席の方を向く。そのうち1人はほぼほぼ眠っている。

助手席の男「おい」

目を閉じたまま、その若い男は武器の撃鉄を引いて、薬室に入っていた弾丸を、遊底から出し、掴み、目を開ける。
ー彼こそが"主人公"である。ー

助手席の男は"OK"と頷く。運転手は様々な種類の制服のワッペンの方を見る。

サイレンが鳴る。4人の若いアメリカ人達は武器を背負い、急いでヘルメットを被る。

ウクライナのSWATの車が、劇場の外に急ブレーキ音を立て停まる。

助手席の男はそのウクライナのSWATのシンボルマークを見極める。
それと同じワッペンをアメリカ人達に渡し、アメリカ人達は肩にワッペンを貼り付ける。

ウクライナのSWATが車から続々と出てくる。

アメリカ人達は車の後ろから飛び降り、ロビーに押し寄せるSWATの流れに沿って、気づかれないように紛れ込む。

◎コンサートホールのロビーでは

SWATの集団は各入り口に。
"主人公"は、ガスボンベがエアコンの中に入れられるのを見ている。SWATはガスマスクを直ちに装着する…

◎コンサートホールのボックス席では

官吏の隣に座る身なりの良い男は、劇場の一階席を見下ろす。観客達は急に倒れ、意識を失くす。まるで波のように。

身なりの良い男は、官吏の方を向く。官吏はゆっくりと腰の銃を抜く。

◎コンサートホールの劇場内では

あるテロリストは水飲み器で布を濡らして口と鼻を覆って結んだ。他のテロリストは作業員の防毒マスクやフェイスマスクを持っており、撃鉄を引いて、用意している。

◎コンサートホールのロビーでは

劇場内に流れ込んだSWATの制止は、テロリスト達の銃撃音へと変わった。

◎カーブしている廊下では

速く、それでいて静かに走っていく。

4人のアメリカ人が続く。分岐にぶつかり、合図によって二手に分かれる。

その2組に続く。(1組は上の階へと離れる)
最後に続いていた"主人公"が、箱をいくつも確認する。


◎コンサートホールのボックス席では

"主人公"が急に扉を開け押し入り、身なりの良い男の横にいた官吏を殺す。

主人公「黄昏に生きる」

身なりの良い男はショックを隠せない様子で見つめる。

主人公(続けて)「黄昏に生きる」

身なりの良い男(フォーカスする)「宵に友なし」

主人公「お前はバレてる。これはお前を消すための偽装襲撃だ」

身なりの良い男「しかし、私は、親密な関係を築いてきたはずだ」

主人公「連れていくか、殺すかだぞ。2分ある。決めろ。」

身なりの良い男は頷き、やっと立ち上がる。


主人公(続けて)「ブツはどこだ?」

身なりの良い男「クロークだ」

男は"主人公"に番号札を手渡す。


◎コンサートホールの廊下では

SWATとテロリストの戦いが激化している。SWATは階下へ移動し、箱を一つ一つ調べていく。

◎コンサートホールのボックス席では

"主人公"はガラスを粉砕し、一階席に降りられるか確認して、黒いロープを引き出し、柱に結びつける。

2人が下に降りる最中も、テロリストの銃撃音は鳴り響く。2人は一階に着き、意識不明の観客の中に隠れる。身なりの良い男は座席に着き、寝たふりをする。"主人公"は座席の下に身を隠す。

バーン!舞台袖のテロリストが発砲する。銃声が鳴り響く。身なりの良い男の近くで眠っている観客2名に弾丸が当たり、男はビクッとする。"主人公"は男の足首を掴み、動かないよう促す。

バーン!眠っている観客が3名撃たれる。"主人公"は跳ね起き、身なりの良い男をテロリストの発砲から守る。

"主人公"は、テロリストから自分を守ってくれている2人の本物のウクライナのSWATの方へ疾走する。そのSWAT2名のうち1名が殺られる。

"主人公"は、本物のウクライナのSWATの横に避難する。そのSWATは座席の下に爆弾を仕掛けている。そして、'死んだSWATのバッグを'と身振りをする。
"主人公"は爆弾を出す為にバッグのジッパーを開けると、他の爆弾と同期してカウントダウンを始める。

ウクライナSWAT(ウクライナ語で、せっかちに)「何してんだ!?」

ウクライナSWATは、マジックテープで付いた"主人公"の肩のワッペンに銃を突き立てる。ワッペンは剥がれ落ちてしまう。

ウクライナSWAT(続けてウクライナ語で)「何者だ!」

"主人公"が困っていると…
バン!
ウクライナSWATは他の'SWAT'に殺される。

'SWAT'「宵に友なし、だろ?」

主人公「君も仲間か!」

"主人公"は爆弾を掴み、身なりの良い男を指差す。

主人公('SWAT'に)「あの男を集合場所へ頼む!」

その'SWAT'は、身なりの良い男を銃撃戦の外へ連れて行く。


◎コンサートホールのロビーでは

"主人公"は、銃撃音が鳴り響くロビーを横切って疾走する。カウンターを飛び越え、クロークエリアに入って行く。

意識不明のクロークスタッフの女性の隣に着地する。"主人公"は他の爆弾に注目する。「4:23、4:22…」"主人公"はクロークの札に書かれている番号を調べ、番号の棚を手早く探し、とあるスポーツバッグを見つける。

"主人公"は、ジッパーを開けてソフトボールサイズの黒い金属物体を見つける。

自分のバッグにそれを詰め込み、カウンターを縦横無尽に抜けて行く。

◎従業員専用通路では

"主人公"は、ドアの番号を調べながら走る。そしてとあるドアで立ち止まり、素早く開け、身を屈めて飛び入る。

◎ユーティリティルームでは

3人の'SWAT'は銃の準備をし、身なりの良い男もいる。"主人公"はSWAT2に爆弾を投げ渡してから、身なりの良い男に金属物体を見せる。

"主人公"「こんなに厳重に隠された謎の物体は初めて見た」

身なりの良い男「どれくらい隠されていた物か私達も分からないが、確かにそのブツだ」

"主人公"「出口は分かるか?」

身なりの良い男「下水溝のトンネルだ」

"主人公"「着替えろ」

'SWAT'と身なりの良い男は着替え始める。"主人公"はSWAT3に金属物体を手渡して、

主人公「このブツとこの男を、出口まで頼む。もう行かなければ。」
(SWAT2に向けて)「この爆弾を処理できるか?」

SWAT2(首を振って)「爆弾全部が同期されてしまっている。他にもあるのか?」

"主人公"は頷き、バッグの中に爆弾を詰め込んで、

主人公「証拠を隠せ」

SWAT2「観客を助け出すのか?」

主人公「なに、1階席だけだ」

SWAT3「俺たちのミッションじゃないぞ」

主人公「今から、俺の、ミッションだ」


着替えた'標的'は近づいて、

標的「私も一緒に行く。ウクライナ人は、客人だと思ってる。」

◎コンサートホールの劇場内では

"主人公"と'標的'は爆弾を回収する為に眠っている観客の間を駆け抜ける。タイマーは「1:58」「1:57」と刻々と迫る。

とある爆弾の側にしゃがむと、"主人公"は座席の側に弾痕があることに気付く。そこから僅かに煙が溜まっていく匂いがする。

カチッ。銃が彼の頭に向けられる。"主人公"はそのSWATの方を振り返り見る。「0:34」「0:33」…。
'標的'は離れた所から、そのSWATに銃を向ける。周りには、意識不明の一般市民。

主人公「行ってくれ。観客を殺す必要はないだろ。」

"主人公"は爆弾の方に向き直る。「0:32」「0:31」
弾痕に濃煙が立ちのぼる。"主人公"は困惑しつつも、その弾痕に手を伸ばす。SWATは武器の撃鉄を引く。

バン!
爆発力と共に、その弾痕は消える。
"主人公"の制服に傷が現れ、困惑する。
そのSWATは胸を撃ち抜かれ、倒れ込む。
と同時に、ガスマスクとタクティカルベストに身を包んだとある人物が見える。

その人物は後ろを向く。"主人公"は、その人物のリュックに、小さなお守りがあるのを見つける。オレンジと黄色の紐でジッパーに結ばれた穴開き硬貨だ。
"主人公"は向き直って爆弾を掴む。

標的「あいつは仲間じゃないよな?」

主人公「助けてもらった」

"主人公"は最後の爆弾を掴む。「0:03」…
"主人公"は、本物のSWATが高官達を避難させたボックス席の方を見上げる。そのボックス席に爆弾を投げ入れる。

◎キエフ区の広場では

"主人公"と'標的'が出てくる。上手側で爆発が起こる。

◎コンサートホールの劇場内では

罪のない一般市民は、ボックス席で起きた爆発音で目覚める。

◎キエフ区の広場では

車が停まる。後部座席側のドアが開く。2人は中に飛び込む。

◎直後、車の中では

"主人公"はマスクを取る。息をする。助手席の男が振り返る。何かおかしいという様子で'標的'の顔を掴む。"主人公"は、自分に銃を突きつける運転手の方を向く。

ー暗転ー

叫ぶ。"主人公“の叫び声である。目を閉じ、ジタバタし、冷や汗をかき、嘆願し、抵抗している。


◎日中 車両基地では

吹きさらしの車両基地で、"主人公"は椅子に縛られている。同じく椅子に縛られた'標的'が、"主人公"の前にいる。運転手は汗をかきながら後ろに下がってくる。手には血まみれのペンチ。

運転手(息を切らしながら)「約18時間は耐えられる。」

運転手はテーブルにある時計の方に身振りをして、

運転手「だから、お前の仲間達は7時までには吐くだろうな。」

運転手は'標的'の椅子を押し倒す。'標的'は砂利の上に強く打ち付けられる。うめき声をあげる。

運転手「こいつは18分も持たなかった。」

運転手はナイフを引き抜く。"主人公"に近寄り、

運転手「でもこいつには何も無しだ。お前が何かしら隠してるんだろ?」

ナイフを"主人公"の喉に向けて動かす。

運転手「リスクを選ぶか、」

そして、"主人公“の襟を切って、

運転手「こいつを当てにするか、か?」

銀色のカプセルを引き抜く。"主人公"が見詰める。

運転手「CIA製の"死"か」

運転手は薬を投げ、時計の方にペンチで合図して、

運転手「あいつらが吐けば、お前の手間が省ける」

"主人公"は時計を見る。「5:38」。
貨物列車が、地響きを鳴らしながら通り過ぎる。
時計にフォーカスが行き、"主人公"の叫び声が貨物列車によって掻き消される。

運転手は後ろに下がる。"主人公"は呼吸が荒く、血が滴っている。
運転手は時計に視線をやる。「6:53」。それから自分の腕時計を確認する。わざとらしく渋面をし、時計を持ち、振って、

運転手「時の流れは早いなあ?」

運転手は時計の針を1時間戻す。"主人公"は絶望しながら見ている。運転手がテーブルに時計を戻している時、"主人公"は、'標的'の指が動いていることに気付く。指の中には銀色の薬がある。

貨物列車が反対方向からまるで工事中のような轟音を鳴らしながら通り過ぎる。運転手は血まみれのペンチを持って近づく。

主人公「俺達だけだったじゃないか」

運転手「そんなことは聞いてねえよ。俺達が仲良しになってきてるって言いたいのか?」

"主人公“は、'標的'の手に向かって顔をぶつけるように勢いよく向かっていく。口の中に薬を入れて、かみつく。列車の騒音が耳を劈く。


"主人公"は腕を掴まれ、顎を手でこじ開けるようにされ、口から泡を吹いている。"主人公"の目は微睡み、そして、

ー暗転ー
ーTENETー
ー明転ー


参考元スクリプト
↓↓↓

https://www.scriptslug.com/assets/uploads/scripts/tenet-2020.pdf


劇中だと違う描写だったり違う台詞だったりしますが、とりあえず脚本的には、ということで、このシーンまで書き起こしてみました。


映像だと目まぐるしく進んでいくのと、モタモタしてる暇はないあの状況下で言葉数が多いわけはないので、
あの一瞬で何をしているのか、あの言葉にはどういう意図があるのか、が脚本によって分かるの、本当ありがたいです。

趣味程度、自己満の翻訳なので、異論や修正は悪しからず。