TENET テネット 脚本 翻訳②【フェイ〜バーバラ】

※スクリプトP8〜P16


"主人公"は目を開ける。とある男が"主人公"のベッドの横に立っている。穏やかに揺れている。彼がフェイだ。

フェイ「あの世へようこそ」

"主人公“は頭を上げる。

◎日中 海上のボート内では

"主人公"は冷たい海のうねりを見ている。

フェイ「ウクライナから連れ出して、口を治す間、君はずっと薬による昏睡状態にあった」

主人公「薬は偽物?」

フェイ「君の薬は、鎮静剤と交換したんだ」

主人公「なんで…」

フェイ「テストだよ」

"主人公"は自分の口の辺りを触り、はっとする。

主人公「テストだと?あいつらは俺の歯を抜いたんだぞ
?」

フェイは気を紛らわせようとする。"主人公"が目を閉じる。

主人公「仲間は無事なのか?」

フェイ「いいや。おそらく兵卒のロシア人に殺られた。」

主人公「誰かが、口を割ったのか?」

フェイ「君は違うだろ。仲間のことを諦めずに、死を選んだ。」

◎その後 ボートのデッキ(外)では

風が吹くなか、"主人公"は地平線を眺めながら立っている。

フェイ(画面外で)「人は皆、燃えているビルの中になんて入っていけると思ってる。火の熱さを感じるまではな。君は火の熱さを感じてもやる。」

主人公「退職します」

フェイ「君は雇用してない。死んでるんだから」

"主人公"は、困惑しながら、フェイの方を向く。

フェイ「君の任務は国益を超越する。生き残りについての任務だ。」

主人公「誰の生き残り?」

フェイ「皆だ。冷戦があるんだよ。氷のように冷たい。しかし、その本質を知ることは敗北を意味する。情報は分散させるんだ。君に教えられることは、この仕草(指を組み重ねる)とあわせて使う、ある単語『テネット』。十分慎重に使ってくれ。そうすれば正しい扉を開けるが、慎重に使わなければ間違ったドアを開けることになり得る。」

主人公「貴方が言われたのはそれだけ?」

フェイ「あとは、このテストの通過者は、(一呼吸置いて)君だけっていうことだ。」

フェイは"主人公"から視線を逸らす。ボートはうねりの中で音を立て続けている。

◎宵 洋上風力発電所、汽艇(外)では

洋上風力発電所の巨大な白いタービンの方に向かい、"主人公"は大型艇にあったボートから降りる。

目的の汽艇の梯子を見つける為に、汽艇は巨大な白いタービンの中に紛れ込む。

"主人公"は梯子をのぼりドアを目指し、開ける。"主人公"は夜闇の中に消えていく汽艇の方を見てから、風車の中に入る。

◎風車の中では

何もない部屋で、"主人公"は、スポーツバッグと、簡易ベッドと、水の貯蔵箱とプロテインバーを見つける。
スポーツバッグを開けると、パスポート、お金、クレジットカード、ハイビズ(蛍光色の服のメーカー)のベストが入っている。

ベストの下には小さい黒筒がある。蓋を捻って開けると、銀色の自殺薬が3つある。"主人公"は首を振って、バッグの中に投げ戻す。

◎その後 風車の中では

"主人公"は、食べたり、飲んだり、風車の中に長く続く梯子をのぼって運動をする。食べ物と水の備蓄が減っていく。

"主人公"は梯子の頂上で懸垂をする。落下しないように、ぶらさがりながら。

◎ 朝 風車の中では

"主人公"は何度も鳴る汽笛で目覚める。簡易ベッドから起き上がり、ドアを開け、見る。

◎風車の外では

大きな双胴船が、風車に機首上げをし、ハイビズのベストを着たメンテナンスクルーがタービンに出入りしている。別のボートは、他のタービンの点検をしている。"主人公"はベストを急いで着用し、双胴船の所に降りる。

◎日中 ヨーロッパの港では

"主人公"は、残りの風車のスタッフと共に下船する。ハイビズを着た運転手が乗る車を通り過ぎようとすると、側に来て、ドアが開き、エンジンがかかる。"主人公"は乗り込む。GPSが既にセットされている。


◎その後 オフィスビルの外では

閑静な郊外のオフィス街。"主人公"は、ハイビズを着て、クリップボードを持って車から降りる。沢山のスタッフが出てくる中、建物内に入る。

◎オフィスビルのロビーでは

"主人公"はスムーズにロビーを過ぎていく。リストに書いてある『風力発電トランジション B-2』という事務所を確認していく。

◎廊下では

"主人公"はB-2まで歩いて行く。

女性の声(画面外で)「ハイビズのベストにクリップボード。ほぼ完璧ね。ほぼ…」

"主人公"は無愛想な若い女性の方を向く。バーバラである。"主人公"は手を重ね、指を組み合わせる。

主人公「かなり分かりにくいテネット(信条)だな。」

バーバラはキーカードを使って、扉の奥へ案内する。

◎研究室のオフィス内では

バーバラは"主人公"にお茶を手渡す。

バーバラ「お喋りもしないし、私達が何者かとか、何をしてるかも話さない」

主人公「俺は、何をしたらいいのか知るためにここに来たんだと思ってた」

バーバラ「『何』じゃなくて、『どうやって』の為にここに来た。『何』はあなたに関係がないこと。私にも関係ないこと。」

主人公「でも、何をするにしても、直面する脅威に対して何か知っておきたい。」

バーバラは"主人公"をじっと見る。お茶をひと口飲む。

バーバラ「私が分かることは、第三次世界大戦を防ごうとしてるってこと。」

主人公「核の大虐殺か?」

バーバラ「いいえ。もっと酷い。」

◎射撃場内では

バーバラは"主人公"に小銃を手渡す。"主人公"は反射的に薬室と弾倉を確認するが、空である。

バーバラ「狙って、引き金を引いて。」

"主人公"は肩をすくめる仕草をして、空の銃を持ち上げ、25m先にある穴がいくつも空いた標的に狙いを定める。


引き金を握ると、バン!と銃声。困惑する"主人公"。

バーバラ「弾倉を見てみて」

"主人公"が確認すると、3つの弾が入っている。

主人公「どうやったんだ?」

バーバラは防護手袋をつけ、弾倉から弾を取り出し、テーブルの上にある同じ弾丸の横にひとつ置く。

バーバラ「この弾のどちらかは、私達と同じように前に進む時間の旅をしてる。もう一つは、逆に進んでるの。どっちがどっちか分かる?」

"主人公"は首を振る。バーバラは手を伸ばして、

バーバラ「じゃあこれならどう?」

片方の弾が、逆向きに落ちるかのようにバーバラの手の中に飛び上がる。"主人公"はびっくりする。バーバラは見えるように弾を手に持つ。

バーバラ「これは、エントロピーが減少することで逆行してる。だから、私達の目には、動きが逆に見える。これは核分裂による逆放射の一種だと思ってる。」

主人公「君が逆放射で作ったわけじゃないの?」

バーバラ「まだどうやってやるのかは分からないの」

主人公「じゃあどこから届いたの?」

バーバラ「未来の誰かが作って、私たちの元まで逆流させてる。」

バーバラは、カメラの前に弾を置く。(テーブル上)

バーバラ「やってみて。」

"主人公"は手袋をつける。弾の上に手を動かしたが、何も起こらない。

バーバラ「ほら、落とさないと。」

"主人公"はまた手を伸ばす。すると、"主人公"の手の中に弾が飛び上がる。

主人公「触る前にどうやって動いたの?」

バーバラは、"主人公"がたった今やったことの録画を再生する。

バーバラ「あなた視点だと弾を取ったように見えるけど、弾視点だと、」

逆再生して、

バーバラ「弾を落としたように見える。」

画面上では:"主人公"の手から弾が落ちている。

主人公「でも、原因の前に結果が来てない?」

バーバラ「いいえ。私達が時間をどう見るか、による。」

バーバラは指一本で自分の方に向かって弾を引き寄せる。すると、まるで磁石のように弾がバーバラの指についていく。

主人公「自分の意思は関係する?」

バーバラ「貴方が弾の上に手を置かなければ、弾が動く事はなかったはず。どちらにしても、貴方がやった事をビデオは再生したわ。」

バーバラはもう片方の手で弾を持ち上げ、

バーバラ「理解しようとしないで。感じて。」

バーバラは、理解不能なほど美しい動きをする弾で遊ぶ。弾はバーバラから飛んでいき、“主人公"が掴む。

主人公「直感か。分かったぞ」

バーバラは微笑んで、"主人公"の弾を銃と交換する。そして、"主人公"の側にある薬莢まみれのトレーに置く。

"主人公"は標的を狙う。銃の中に薬莢が飛び入って行く。"主人公"が撃つと、命中した弾痕は消えていく。

主人公「なんか変な感じする。」

バーバラ「撃ってるんじゃなくて、受け止めてるの。」

主人公「すげー。」

"主人公"は標的をよく見る。弾痕は無い。

主人公「前に同じ銃弾を見たよ。」

バーバラ「現場で?」

主人公「撃たれるところだったんだ。」

バーバラ「かなりラッキーだったね。」

"主人公"はバーバラの方を向く。

バーバラ「身体を貫通した逆行弾は破壊的な被害をもたらす。逆放射が身体の中に広がっていくから。ポロニウム中毒みたいなものね(ポロニウム:放射線元素のひとつ)。穏やかじゃないわ」

"主人公"は弾をよく見て、

主人公「最近の物みたいに見えるな」

バーバラ「多分、最近製造して、何年か後に逆行させたんだと思う。」

主人公「どこで入手したの?」

バーバラ「その壁と一緒に送られてきた。今研究してる他の物質と同じように、私が担当してるだけ。」

主人公「金属の分析はした?」

バーバラ「勿論。何故?」

主人公「金属の混合物を調べれば、どこで作られたのか見えてくるから。いや、『何』かは俺に関係ないっていうのは分かってるけどさ。」

バーバラ「論点をずらさないでもらっていい?」

主人公「ん?アルマゲドンだとは思ってないよ。」

バーバラは"主人公"から弾をもらって、ついてくるように合図する。


◎保管所内では

ずらっと並んだ引き出しの棚の間で、

バーバラ「一見そう見えないかもしれないけど、弾ってシンプルな構造なの。鉛弾に、薬莢に、火薬。もしこれを未来の誰かが逆行させたなら、殆どの物を逆行させられるはず。私達の未来に関わるような核兵器でさえもね。逆行した武器は、私達の過去にも関わる可能性だってある。」

バーバラは引き出しの棚の前で止まる。自分の周りをぐるっとジェスチャーして、

バーバラ「で、何を研究すべきか分かったから、更に多くの逆行物質を研究し続けてる…」

ボルト、ヒビの入ったレンズ、金属棒、ボタン等、様々な種類の錆びた部品や破片を見せようと、バーバラは引き出しを開ける。

バーバラ「…複雑な物の遺構をね」

"主人公"は手を伸ばして、錆びた留め金を手の中に引き寄せようとする。

主人公「じゃあ、これはどういう物なの?」

バーバラ「来たるべき戦争の残骸。」

"主人公"は沢山ある引き出しの棚を見渡す。


参考元スクリプト
↓↓↓

https://www.scriptslug.com/assets/uploads/scripts/tenet-2020.pdf


今回はバーバラとのやりとりまでを翻訳してみました。
脳内でJDW補正がかかっているからかもしれませんが、語気が柔らかめになりました。

劇中の割と早い段階で時間の仕組みを詳しく分かりやすく説明してくれるので、ノーラン監督優しいなと思います☺️
劇中で"主人公"とバーバラが初めて対面した時の"主人公"の『テネット』の仕草が本当にさりげなくて、ああこれがスパイか…と感動してしまいます。
バーバラの白衣の下の服も赤でしたね!