TENET テネット 脚本 翻訳⑦【プリヤ〜セイターとの出会い】

※スクリプト P50〜P58


◎ムンバイのフェリーボートでは

"主人公"が乗り込み、手すり沿いにいるプリヤに近づく。

プリヤ「あの去り方は無いと思うわ」

主人公「俺もバンジージャンプは無いと思う。でも話したいことが」

プリヤ「なに?」

主人公「逆行だ」

プリヤ「もう話したじゃない」

主人公「人間も逆行できるなんて聞いてない」

プリヤ「私達は、原子爆弾では不可能だったことを、逆行によって成し遂げようとしているの。原子爆弾を無くすために。情報は分散し、内に抑えること。無知は武器になる。誰もが、知れば知るほど状況を悪化させてしまい、リスクは大きくなるもの。」

主人公「リスクは承知の上だ」

プリヤは新聞を見せる。見出しに《オスロで金塊輸送機衝突ーテロ?強盗?両方?》とある。

プリヤ「あなたがやったの?」

"主人公"は頷く。

プリヤ「保管室は見つかった?」

主人公「2人の敵に会った。1人は逆行してた。普通の方は始末したが、逆行の方には逃げられた」

プリヤ「2人とも同時に現れた?」

主人公「うん」

プリヤ「同一人物ね。誰かが逆行してたんだわ。セイターがその保管室にターンスタイルを設置したのね」

主人公「ターンスタイル?」

プリヤ「逆行する機械。」

主人公「その技術はまだ発明されてないってあなたが ー」

プリヤ「そう。セイターが未来から手に入れた。」

主人公「何の為に?」

プリヤ「それを解明する良い機会が来たわね。」

◎ムンバイ市街では

2人は歩いていく。ボディガードが距離を取ってついてくる。

プリヤ「セイターには会った?」

主人公「近くにはいた」

プリヤ「もっと近づくのよ」

主人公「話し合おうとしたんだ。あの敵が同一人物なら話は別だが」

プリヤ「奥さんに嵌められたの?」

主人公「多分ね。俺が戻ったらすぐに殺される可能性はかなりあるな。」

プリヤ「この作戦は常に特攻。だから《死人》を雇うのよ」

主人公「誰がやってる?誰の下で働いてるんだ?」

プリヤ「人類よ。生き延びる為。私の下で働いてると思ってちょうだい」

主人公「じゃあ、ボス、成功への道を教えて下さい」

プリヤは考える。"主人公"を見て、決意する。

プリヤ「セイターが欲しい物を、もしあなたが持ってたら?」

主人公「例えば?」

プリヤ「プルトニウム241。キエフのオペラ包囲攻撃で、唯一バラバラになっている241をセイターはCIAチームのもとから盗み出そうとした。セイターはCIAを捕らえたけど、241は無かったの。」

主人公「誰が隠した?」

プリヤ「ウクライナの保安局。1週間かけてタリンへ移動しているところ。」

主人公「武器商人が兵器級プルトニウムを盗む手助けをするのはなんとも受け入れがたいな。殺すよ。」

プリヤ「駄目。セイターの重要な真実を知るまで生かしておかなきゃ。241を管理下に置いて、立場を利用するのよ」

主人公「危険すぎるよ」

プリヤ「テロ爆弾が何百万人もの命を奪おうとも、セイターを止めなければ起こり得る出来事に比べたら何でもないのよ」

主人公「何から?何をどうする?」

プリヤは、車がどんどん通り過ぎていく道路に目をやる。

プリヤ「私達は襲撃されることになる。テロリストや無法国家からじゃなく。」

主人公「じゃあ誰?」

プリヤ「未来から。そして私達は時間と共に戦っていく。」

主人公「時間?」

プリヤ「彼らの時間はじきに尽きる。だから私達の時間を求めてやって来る。それをセイターが手助けしてるの。その方法を見つけ出して。」

◎アマルフィ海岸のテラスでは

"主人公"はツアー団体から離れ、海を見下ろすテラスに行くため、葉が生い茂った道を通って進んでいく。キャットがそこにひとりで立っている。"主人公"はキャットの隣に立つ。

キャット「オスロのニュースを見た。あの絵を持ってるの?」

主人公「もう心配しなくていい」

キャット「燃やした?」

主人公「もう要らないと思ってね」

キャット「彼は知ってる?」

主人公「いや、まだだ。だから様子見しよう」

キャット「様子見?どうして?息子は日を追う毎にあの怪物と一緒にいる時間が長くなってる。私との時間を減らす為に。」

主人公「そんなに長い間じゃない。その間に、俺を紹介してくれ。」

キャット「何て言えば?」

主人公「俺はリヤドのアメリカ大使館の元一等書記官。去年の6月にパーティで出会った。」

キャット「リヤドでパーティはあったけど、6月じゃなかったと思う」

主人公「6月29日の7時から7時30分の間。夜に、メニュー表のサーモンがスズキに代わった。セイターは早めに帰り、その時俺達は出会った。こっちからは何も言わなくていい、もし聞かれたら答えて。俺はロンドンのシプリーズに行った。君はここで偶然俺と会ったから、ヨットを見せてくれることに。」

キャット「不倫だと思われるわ」

主人公「じゃあ俺に会いたくなるだろ」

キャット「それか、殺されるわよ」

主人公「俺のことは心配するな。」

キャット「心配してるように見えた?」

◎日中 アマルフィの波止場では

"主人公"とキャットは巨大なヨットを見ている。

キャット「クルーも併せて70人乗り。ボートが4つ、ヘリコプターが2つ、ミサイル防衛も」

主人公「まじか。海賊対策?」

キャット「アンドレイは政府同士を敵対させるのが趣味でね。そういうとき用に隠れ家として使ってる。」

主人公「もし俺が加わったらどうなる?」

モーターボートの方に進みながら、キャットはボルコフに頷く。

キャット「ボルコフが乗せるかしら」

主人公「じゃあ俺のに乗ろうぜ」

"主人公"は通り過ぎながらボルコフに頷く。

◎アマルフィの港では

"主人公"はエンジン全開でボートを走らせ、穏やかな港を越えて、煌めく進路を刻む。キャットは座って、そのスピード感を楽しんでいる。

"主人公"はヨットに横付けして停める。乗組員達は無許可の接近に慣れていない為あたふたしている。キャットが見上げる視線の先の人影があり、"主人公"もその視線を追って見上げるが、その人の後ろ太陽があってよく見えない。キャットはヨットに乗り込む。

"主人公"はその人影に陽気に挨拶をするが、返答はない。"主人公"は海岸に戻る為にボートを飛ばし、ヨットのランチを通り過ぎる。"主人公"はボルコフに手を振る。

◎ヨットでは

キャットに続いて非常に広い居間の中へ入る。バッグを落として、

男の声(画面外で)「あのアメリカ人は誰だ」

キャットは振り返る。薄い顎ひげを生やし、冷たい目をした中年男が出入口に立っている。セイターだ。

キャット「友達。」

セイター「シプリーズで会った男か?」

キャット「あなたが酷い目に遭わせようとしたのは誰だったかしら」

セイター「もう一度聞く。あいつは誰だ」

キャット「リヤドで会った人。6月にアメリカ大使館で」

セイター「パンチがお得意な外交官か?」

キャット「お得意の被害妄想ね。彼は良い人よ、ディナーに招待したわ。(見渡して)マックス?マックス!?」

セイター「ポンペイとヘルクラネウム(どちらも古代都市の遺跡)を見に行ったぞ」

キャット「夜になるのに?ただ送って終わり!?」

セイター「俺の息子だ」

キャット「私達の息子よ。それに、一緒に行くって約束したの」

セイター「君は忙しいって言っておいたよ。"お友達"との約束でね。」

セイターは向こうをむいて立ち去る。キャットはその様子を見ている。

◎アマルフィ海岸のレストランでは

"主人公"はセイターがいるテーブルの方へ歩いていく。セイターはもてはやされながら、蟹を食べている。ボルコフが"主人公"を止め、大勢のディナー客の目の前で身体検査をする。

主人公「俺の出身地では、まずはじめにご馳走してくれるぞ」

セイターは"主人公"を見ずに椅子にジェスチャーをして、ボルコフが"主人公"を通す。"主人公"が座る。

主人公「セイターさん?俺は…」

セイター(穏やかに)「そう気を遣うな。もう私の妻と寝たのかだけ言え」

"主人公"は、向かい側でお喋り中のキャットを上目遣いで見る。

主人公「いいや。まだ。」

セイターはバターを塗った一口分の蟹を口に入れて一瞥する。

セイター「どうやって死にたい?」

主人公「老衰。」

セイター「お前は間違った仕事を選んだな。」

セイターが、微笑んでいる賓客が乾杯の挨拶する方を向く。セイターは、"主人公"の頬に油で汚れた手を添える。まるで仲の良い友人のように。

セイター「その道を行った所に塀に囲まれた庭がある。そこにお前を連れていき、喉を掻っ切る。横にじゃない、穴を開けるみたいに真ん中に刺すんだ。そしてお前のタマを切り取り、喉の切り口に詰め込んで、気管を塞ぐ。」

主人公「大変だね」

セイター「気に食わん男が窒息寸前で喉からタマを取ろうとするのを見るのは大変嬉しいことだね」

主人公「これが客へのおもてなしか?」

セイター「私の家族を利用して近づいてくる奴にはな」

主人公「他の人はどうやって近づいてる?」

セイター「全く、愚か者ばかりが近づきたがる」

主人公「それか、あなたが喜ぶ出来事を先延ばしにする価値のある物を持つ人か…」

セイターはボルコフに合図する。ボルコフが立ち上がるのをキャットが一瞥する。

セイター「終わりだ。」

主人公「オペラは好きか?」

この時、セイターは止まる。ボルコフに手を振って制止する。

セイター「ここでは駄目だ。お前、ヨットは操縦出来るのか?」

主人公「ボートでちょっと遊ぶくらいなら」

セイター「8時に波止場で。沢山遊べる準備をしてこい」

キャットが"主人公"を解放して、去っていく様子を見ている。


参考元スクリプト
↓↓↓

https://www.scriptslug.com/assets/uploads/scripts/tenet-2020.pdf


今回は、プロタゴニストとプリヤの会話、そしてプロタゴニストとセイターの出会いのシーンでした。


セイターが油でべちゃべちゃの手をプロタゴニストの頬に添える様子は見てみたさがありましたが、
劇中では、最後はただ立ち去るだけでなくキャットにチークキスをしたり、
また、ボルコフに手を振るのではなく指差しをして微笑むのも、プロタゴニストらしくて個人的に好きなシーンです。

今回はノーランの詩的な表現もあり、あえて直訳気味にした箇所もあります。

今回もここまでお読みいただきありがとうございました。乱文で申し訳無いですが、次回もお付き合いいただけたら嬉しいです。