TENET テネット 脚本 翻訳③【ニールとの出逢い〜クロズビー】

※スクリプト P16〜P27


◎日中 ムンバイの 混雑した街道では

"主人公"は電気屋から出てきて、新品の電話を開封し、人混みに紛れ込む。電話をかけて、

男の声(電話越しに)「もしもし?」

主人公「黄昏に生きる。」

男の声(電話越しに)「宵に友なし。辞めたと聞いてたが?」

主人公「死人にも味方が必要でね。」

男の声(電話越しに)「具体的には?」

主人公「ムンバイで仲間が欲しい。サンジェイ・シンに会いたくて。」

男の声(電話越し)「シン?あの男は家から一歩も出ないぞ。家は、えっと…あの…」

主人公「うん、あの家ね。いま右側に見えてる。」

繁華街の上手側に、少なくとも20階はある高層住宅があり、上階には大きいバルコニーが2つある。

男の声(電話越しに)「誰が行けるか確認する。2時間後に、ボンベイヨットクラブで。」

"主人公"は電話を切ると、最上階のバルコニーに人の姿を見つける。街を遥か眼下に立ち、サリーを身に纏う女性だ。


◎夕方、ボンベイヨットクラブ内では

"主人公"は、旧植民地時代に創立された静かな建物に入る。
椅子に座る。1人のビジネスマンが"主人公"の横に座る。

ビジネスマン「ムンバイの著名人についてすぐに知りたいようですね。僕はニールです。」

ニールは握手を求める。"主人公"が受け入れる。

主人公「サンジェイ・シンに謁見したいんです。」

ニール「…無理ですよ。」

主人公「10分程度で良いんです。」

ニール「時間は問題じゃありません。生きて脱出できるが問題なんですよ。」
(考えて)「…子どもを人質に取るんですか?」

"主人公"は首を振る。

ニール「じゃあ女性を?」

主人公「必要に駆られたら、ですが、そんなに大事にしたくないです。」

ニールはずっと考え事をしている。
ウェイターに合図をして、

ニール「ウォッカトニックと、」
("主人公"に向けてジェスチャーをして)「ダイエットコーラを。」

"主人公"はニールを見つめる。ニールは天を仰いで、慌てる。

ニール「な、何ですか?仕事中は呑まないでしょ?」

主人公「…君はよく知ってるね」

ニール「この仕事だと、知っておく事に損はないから。」

主人公「そうだな…クラブソーダの方が好きかな。」

ニール(ニヤッとして)「…違うよ。」

ニールは拳の関節をテーブルにコツコツ鳴らしながら、考えている。

ニール「スカイダイビングは得意?」

主人公「ベーシックトレーニングで足首を骨折したよ。シンの家はスカイダイビングする程は高くないけど」

ニール(考えて)「でも、バンジー飛び、だよ!」

主人公「バンジー飛び、って言葉になってなくないか?」

ニール「言葉的にはそうかもしれないけど、でもシンの家から脱出する唯一の方法かも。」
(ひらめいて)「もっと言うと、侵入するのも」


◎午後 高層住宅の外では

武装した警護がバルコニーを巡回している。

◎高層住宅内では

豪勢な部屋の中で、中年のインド人の男が飲み物を混ぜている。彼がサンジェイ・シンだ。


◎高層住宅の隣にある低めの屋上では

ニールと"主人公"は、スポーツバッグを持ちながら屋上を走って渡る。高層住宅の麓にある庭を覗く。ニールは巻き上げ機を持ってきて、"主人公"は大きい投石機を持ってくる(2つのパイプに括り付けられていた)。

ニールは巻き上げ機を固定し、"主人公"は高層住宅のバルコニーの上部に狙いを定める。バルコニーの柵の上下に、綱が付いた球を撃つ。


◎高層住宅の外では

巻き上げ機を稼働させ、伸縮性のある綱を張りながら、"主人公"とニールが隣同士に横たわる。2人は勢いよく発射して飛び上がり、建物の側面まで到達する。

2人は静かにビルを駆け上がり、テラスの上に行き、サイレンサーで2人の警護を撃つ。

◎高層住宅の中と外

サンジェイ・シンはサリーを身に纏った女性に飲み物を手渡しする。そしてバルコニーの方に移動してくる。


◎外のバルコニーでは

"主人公"はサンジェイを奇襲し、銃を突きつけて、

主人公「(女性に)離れてろ。(サンジェイに)ウクライナで、かなり変わった弾薬で殺されかけた。誰が売ってるのか知りたい。」

サンジェイ「私の名前はサンジェイだ。君の名は?(沈黙)おしゃべりはなしか?」

女性は壁にある赤いボタンを押している。

主人公「誰も出ないぞ。何をしようと助けてくれる人はいない。」


◎高層住宅の警備の詰所内では

警報が鳴動し、警備員は硬直し、ニールは銃を向けながら、唇に人差し指を当てている。


◎高層住宅のバルコニーでは

サンジェイは"主人公"の方を向こうとする。

サンジェイ「何故私がその弾薬を売った人間を知ってるんだ?」

"主人公"はサンジェイの頭に銃を更に押し付け、

主人公「金属の混合物がインド特有の物だった。もしインド由来のものなら、お前しかいない。」

サンジェイ「納得の仮定法か」

主人公「演繹法だ」

サンジェイ「あ、演繹法か。なあなあ、銃が有益な交渉として使えると思うか?」

主人公「俺は交渉する為に遣わされたんじゃない。」

"主人公"は銃の撃鉄を起こし、サンジェイの頭に銃を突きつけて、

主人公「話に来たんだ。」

サンジェイ(血の気が引いて)「無理だ。話せないんだ。」

主人公「お前は武器商人だろ。これは今まで使った中でも軽い引き金だと思う。」

女性(画面外で)「クライアントに関して色々話してしまう事は、サンジェイの'テネット'(信条)に反するわ。」

"主人公"は女性をちらっと見る。女性の指はさりげなく絡み合わせている。

"主人公"は両手で銃を持ち直して、指を絡み合わせる。

主人公「もし'テネット'(信条)が大切なら、あなたが話してくれ。全てを。」

女性「夫の頭から銃を離してくれたらね。」

"主人公"はサンジェイを解放する。

女性「サンジェイ、飲み物をお願い。」


◎サンジェイの家の、ムンバイが見渡せるテラスでは

プリヤ「プリヤ・シンよ。」

主人公「これはあなたのオペレーションなのか?」

プリヤ「男社会では強面を表に置くのも一手段。あなたが探してる商人はアンドレイ・セイター。」

主人公「ロシアの支配者?」

プリヤ「知ってるの?」

主人公「個人的には知らない。ガスで十数億稼いで、ロンドンに引っ越してイギリス人の女性と結婚した。モスクワと対立してると言われてる。」

プリヤ「流石ね。でも、数十億稼いだのはガスじゃなくてプルトニウム。セイターはロシア人が知りたいと思う情報は何でもイギリスの諜報機関に提供してると言われてる。」

主人公「どうやって、あとどうしてセイターに逆行する弾薬を売ったのかを聞きたいんだけど」

プリヤ「私が弾を売った時は、絶対に普通の状態だった」

主人公「じゃあセイターはどうやって逆行させてるの?」

プリヤ「多分、セイターは今と未来との仲買人みたいな役目だと思うわ」

主人公「セイターは未来とコミュニケーションできるの?」

プリヤ「みんなやってるじゃない。クレジットカードや、メールや、留守電。記録に残るものなら何でも未来に直接影響を与える。問題は、未来が返事をするか。もし返事をするなら、何て言ってくるのか。」

主人公「で、俺が探し出す役目?」

プリヤ「セイターに近づくには、初々しい主人公が必要ね。」

プリヤは手を伸ばして"主人公"の頬に触れる。

プリヤ「雛菊のように爽やかな、ね。セイターに近づいて、セイターが何をどうやって受け取っているのかを探し出して。」

主人公「イギリスの諜報機関を巻き込むのは安全なのか?」

プリヤ「セイターの目が及ばない人を1人知ってる」

主人公「俺達の仲間の1人?」

プリヤ「いいえ、その人は私たちがプルトニウムを追ってると思ってる。」

サイレンが鳴る。バン!プリヤは遥か下の方にパトカーが着いたのを見る。家の麓の庭に。

プリヤ「ここを離れた方が良さそうよ。」

主人公「説明はしてくれないの?」

プリヤ「貴方は新しい方法で世界を見始めるべきね。この争いは、逆行と順行同時に行われる。警察の報告書に名前が載ると、未来で身元が割れる。警察はセイターに報告書を渡すわ。」

主人公「セイターに近づく前に俺の素性がバレちゃうよ」

プリヤ「貴方入ってきたけど、出方も考えてたんでしょうね?」

"主人公"はハーネスについているクリップと綱を引っ張って、

主人公「好きな出方じゃないけどね」

"主人公"がバルコニーの柵にクリップを取り付けるのをプリヤが見ている。バルコニーの上から、ニールが先に飛び降りていく。

"主人公"はジャンプし、警察の手の届かない方の壁からゆっくりと落下していき、露天の通りに入ってハーネスを外して、人混みの中へ消えていく。

◎ロンドンのメンバーズクラブの外では

"主人公"は繁華街まで歩いていき、階段を上る。


◎ロンドンのメンバーズクラブの中では

"主人公"が入っていき、執事に近づく。

執事「いらっしゃいませ」

主人公「クロズビーさんとのランチに来た」

執事「マイケル・クロズビー《卿》とのランチのことでお間違いないですか?」

主人公「そうみたいだな」

執事「そのようでしたら、こちらへどうぞ」


◎メンバーズクラブのラウンジ内では

"主人公"は、とあるテーブルに案内される。そこには気品のある中年男性がいて、もう食事を始めている。クロズビーだ。

クロズビー「もう食べ始めてしまったよ。悪いね」

主人公「すぐに追いつきますよ。(執事に)同じ物を頼む。」

執事「ウェイターを呼びます」

主人公「いいから注文を伝えろ」

"主人公"の執事の扱いに、クロズビーはにっこりする。

クロズビー「君は、とあるロシア人に興味があるんだろう?」

主人公「英国系のロシア人です。だから、気を付けないといけないなと思って。」

クロズビー「確かに。彼は諜報部と接触している。彼にゴミを提供されてるだけだと警告しているのだが、気にしていないようでね。」

主人公「彼について教えて下さい」

クロズビー「君はソビエト時代の秘密都市についてご存知かな?」

主人公「地図には描かれない、国家機密事業を中心に構築された閉鎖都市ですね。殆どが開放されていて、普通の町として改められている。」

クロズビー「セイターが育った場所以外はね。スタルスク12という所だ。70年代、我々はスタルスク12の人口が約20万人と見積もった。今日に至るまで正式には分かっていない。放棄されたと思われる。」

主人公「放棄?」

クロズビー「何かの事故があった。その後、地下実験場になったんだと思う。ちょうど2週間前のキエフのオペラ包囲攻撃と同じ日に、我々の衛星がシベリア北西部で爆発を検知した。おそらくそこがスタルスク12だと思う。」

主人公「核爆発?」

クロズビー「相当大きな爆発だったよ。セイターは地図上にない場所から野心を持って現れ、金の力でイギリスの権力層に入り、結果的にここに導かれた。」

主人公「奥さんを使ったんですか?」

クロズビー「フレデリック・バートン氏の長姪であるキャサリン・バートンだ。彼女はシプリーズで働いていて、とあるオークションでセイターと出会った。」

主人公「セイターは美術が好きなんですか?」

クロズビー「よくいる金持ちの犯罪者と同じで、趣味の良い高価な物達で壁を飾り尽くせば、殺戮の陰も隠せると思ってるんだよ。美しい女性と結婚したことからも判断すると、何か隠していそうだ。」

主人公「夫婦円満ですか?」

クロズビー「いいや。ほぼ心は離れてる。」

主人公「セイターにどうやったら近づけますか?」

クロズビー「勿論、彼女を使うんだよ」

主人公「俺の魅惑パワーがめちゃくちゃすごいと思ってます?」

クロズビー「いや全然。とっておきの切り札があるんだ。」

クロズビーは"主人公"の足元にショッピングバッグをスライドさせる。"主人公"は中を見る。小さい額縁に入った絵画だ。

主人公「あなたってハロッズ(高級デパート)のショッピングバッグにゴヤを入れて持ち歩いてるんですか?」

クロズビー「それは偽物だ。アレポという名前のスペイン人が描いた。二つある偽物のうち一つをベルン(スイスのベルン州の州都)で横領犯から押収したんだ。我々は万一の時の為にこの絵をしっかり保管していた。インドから電話が来た時、手放す時が来たと初めて感じたよ。」

主人公「もう一つの絵はどうしたんですか?」

クロズビー「もう一つはルーベンスの絵だ。その絵は一度シプリーズに行き、ゴミになる前にキャサリン・バートンが本物だと鑑定した。それで、誰が買い取ったと思う?」

主人公「旦那ですか?キャサリンは贋作だと分かってたんですか?」

クロズビー「言いにくいことなんだが、キャサリンとアレポは親密な仲だったという噂がある。」

クロズビーは"主人公"をじろじろと見て、

クロズビー「いいかい?気を悪くしないで欲しいんだけれど、本当の億万長者でも、その程度の億万長者なのかと煽られるような世界だ。」

主人公「どういう意味ですか?」

クロズビー「つまり、ブルックスブラザーズはやめた方がいい。」

主人公「予算に限りがあるので…」

クロズビー(ブラックカードを渡して)「世界を救え。支払いは我々に任せなさい。良い仕立て屋をおすすめしてもいいかな?」

主人公「大丈夫です。あなたは英国人なのに、上流階級の特権を独占しないんですね。」

クロズビー「独占というよりは、特権を支配しているんだよ。」

"主人公"は、ブラックカードとハロッズのショッピングバッグを持って立ち上がる。

主人公「カードも絵もありがとうございます。ちなみに、キャサリンの愛称はケイト?キャシー?」

クロズビー「キャットだと思うよ。」

執事の指示により、ウェイターは料理を持って到着する。

主人公「持ち帰りできますか?」

執事「当然ですが無理です。」

それじゃあ、と頷くクロズビーに、"主人公"は笑顔を向ける。

主人公「それでは、マイケル卿」





参考元スクリプト
↓↓↓

https://www.scriptslug.com/assets/uploads/scripts/tenet-2020.pdf


part3は、ムンバイ〜イギリスでの、ニール、プリヤ、クロズビーとの会話だったので割と情報量が盛り沢山になりました🙇🏻‍♀️

part4は、キャットとの接触から、空港下見あたりまでになるかなと思います。また情報量と会話量が多いので…!
趣味翻訳ですが、少しでも脳内補完のお役に立てたら嬉しいです。