漫才ギャング感想 「相方」が人生を握るということ

漫才ギャング見ました!7 MEN 侍春の演劇祭の締めくくりです。観劇から1カ月以上経ってしまった…舞台自体良かったのですが、文章が全然書けないタームに入ってしまったり、舞台の感想を文章にすること自体について思う事があって全く筆が進まなかったのですが、ちょっと原作小説を読み返したりして、感想文モチベを高めて最後になんとか形にできればと思います。ついでに1度しか観劇していないので色々間違えている可能性はあります。終演しているのでガンガンネタバレしていきます。


・感想
「お笑い芸人」と「ギャング」が出てくる舞台なので、作中では色々なことが起きるのですが、中盤でマネージャーが問いかける「お笑いを続けることの条件は何か?」の答えを鬼塚が探すというものが軸になっていたように感じます。
結論から言うと「お笑いを続ける条件」は「何よりもお笑いが大切であるということ」だったのですが、これを長くお笑い芸人をやっていた品川裕が書いているのには一定の説得力があるように感じます。
この問いで一番大切なことは「お笑いで成功する人の特徴」ではなく「お笑いを続ける人の特徴」を問うていることだと思います。多くの人はお笑いで“成功”する事を目標として芸人をやっているのだと思いますが、それ以前に続けなければ成功はできない、おじいさん(役名を忘れてしまいました…)も「“続けていれば”今頃…」と言われていましたが、結局続けていないので借金を取り立てるおじいさんになっています。まず成功するためのスタートラインとして、お笑いを続ける事、そしてお笑いを続けるためにお笑いを何よりも大切に思う気持ちを持つべきだと、かつておじいさんの担当をしていたマネージャーは感じていたのでしょう。

お笑いとアイドルは似ています。努力が必ず報われるわけではなく、いい人だから、ネタが面白いから、歌がうまいから売れるわけではないといった、芸能特有のものはもちろんそうなのですが、「相方」「メンバー」という、「同僚」と形容するにはあまりに重すぎる仕事仲間の存在です。
飛夫は鬼塚のために多くのことをしました。ネタを書いたりすることはもちろん、鬼塚のためにギャングに土下座をしたり、先輩と仲良くしたり。それは飛夫が鬼塚を気に入っているからというのもあるとは思いますが、相方である鬼塚の成功は自分の成功で、鬼塚の失敗は自分の失敗だからではないでしょうか。ラストシーンで妹を殴ったギャングを探しに出た鬼塚を探す飛夫は「鬼塚を助けたい」という相方を思いやる気持ちよりも「今ここで鬼塚が問題を起こしたら自分はもうお笑いができなくなる」というの気持ちが強かったように見えます。
アイドルも同じようなことがあるのではないでしょうか。メンバーが成功することで自分の成功に近づく。メンバーが失敗することで、自分も成功から離れる。10代の頃からお互いを知り合っている友人のような関係ではありながら、ビジネスパートナーとしての側面を持つ「メンバー」という関係性だからこそ、“自分の為に”振り付けを考えたり曲のアレンジを考えたり起床時間を管理したり(そんなことしているのは7 MEN 侍だけです)している部分もあるんだろうな、と、実際にアイドルとして活躍している菅田が鬼塚を演じることで感じる部分もありました。

・劇評
小説発売時のお笑いは「爆笑レッドカーペット」が流行っていた頃のお笑いということもあり、今ほど「漫才」に感動したり芸人のドキュメンタリー見ることが一般的ではなかったと思うのですが、小説の中のお笑いの空気感を全編を通して2023年仕様に変更できている印象でした。
演出もセットがかなりシンプルで、黒タンクトップマッチョ、ヒョロガリ青年、声も体も大きい人、という視覚情報が多めの俳優陣をうまく引き立てていたと思います。一方で終盤、サンパチマイクに向かって出演者がストーリーテリングする演出など、かなり緩急も付いていて、見ていて飽きないなと思いました。

芝居について。馬場良馬がとにかく良かったです。細い体で身長も高く、ずっともじもじしていて気が弱いけど、意思は強い、というトビオの特性をよく表していて、「上手い芝居を見たな」という感覚です。
菅田琳寧はそもそも演じる以前、身体つくりが本当にすごくて。舞台役者で役作りのために体型を変える人ってそんなに多くはないと思うのでかなり新鮮でした。演じる鬼塚はセリフ以外での説得力が必要だった場面が多かったと思うのですが、役に対する理解の浅さのようなものが見受けられ、そこだけうーん、というような。でも逆にギャングというこれまでお笑いに触れてこなかった人間がお笑いの世界で戦っていくという世界観が、舞台の経験が豊富の人の中にポンと菅田が入ることでより強いものになっていたような気がします。

これにて侍☆春の演劇祭は全公演が終了です!振り返ると本当に6者6様の作風で劇場から作家から共演者から何から何まで全く違う作品を見られて本当に楽しかったです。周りを見ると自分の好きなメンバー以外のメンバーの作品も見ている侍担の人が多かったように感じて、「自分はこういう舞台が好きなんだな」というのがなんとなくわかってきたのでは…!?と淡い期待を寄せています。趣味としての演劇のスターターセットとしてちょうど良い6作だったように感じます。

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