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Story Rocking『ピーチ』感想 その崇高さに、理由はある?

ニューネームカミングスーンのタレントを軸に舞台を見ていると必ず当たる演出家が鈴木勝秀(スズカツ)です。脚本家としてはかなり癖のある舞台を作る人ですが、それ以上に「アイドル」を演出させることに秀でた演出家だと思います。本人の人間性を程よく透けさせた演出が多くて、一般の舞台俳優と比べてその人自身の人間性・キャラクターが浸透しているアイドルだからこそ、アイドルとしての下地を生かすことで、限られた時間の中で奥行きのある作品を作るのがうまいなぁと思います。
今回はそんなスズカツが演出を務めた、少年忍者の安嶋秀生主演舞台「PEACH」の感想文を書きましたので提出できればと思います。


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Story Rocking『ピーチ』 ~芥川龍之介「桃太郎」より~
鈴木勝秀演出 安嶋秀生主演 小田将聖出演

 昔々あるところに。桃から生まれたピーチ(安嶋秀生)は村で退屈そうにしているおじいさん、おばあさんのように生きたくないと鬼退治に出かける。道中で出会った犬のボヌッチ(小田将聖)、猿のモンチ(細見大輔)、雉のフェザンチ(久保田秀敏)は不老不死の象徴である桃から生まれたピーチを救世主にして神の化身であると信じ、適当な理由をつけて鬼退治に向かうのであった。
 ピーチから宣戦布告の一報を受けた鬼ヶ島の鬼たち。鬼ヶ島の鬼はそれぞれが支え合って島での生活を営み、人間を恐ろしく野蛮な存在だと恐れながら生きてきた。小舟に子供の鬼を乗せ別の島に逃し、ピーチに反抗せず、服従する道を選ぶ。ピーチに捉えられた鬼は最後に「なぜピーチは鬼ヶ島を征服しようとしたのか」を尋ねるがピーチは具体的な理由を言わない。
 凱旋したピーチたち。ただピーチらは幸せに一生を終えたわけではない。捉えられた鬼が成長し、番人を殺害したことを合図にバラバラに散っていった鬼の子供がピーチの城に集結し、ピーチに襲いかかる。

 ピーチが鬼退治をすることに理由はない。理由がないからこその「鬼退治」に残酷を描いたように見える見える今作。しかし、理由がないのは鬼退治だけではない。作中、ピーチは「天下一ピーチ!」とことあるごとに宣言し、自分はものすごい偉人であるかのように振る舞うが、実際に何か偉業を成し遂げた実績があるわけではない。しかしそんなピーチを家来の動物たちはピーチは救世主、神の化身であると囃し立てる。また、天才は想像力に長けた人物であり、度々世間に理解されない奇行に走ることがあるとし、ならば鬼退治をしようとしているピーチは天才だろうと納得する。つまり、ピーチの持つ権威そのものも理由はなく、むしろ自分が「天下一ピーチ!」であることを逆説的に証明するために鬼退治をしようとしているように見える。

 こういったことは現実世界でもあるだろう。「なんでかわからないが人気がある」という人はいつ、どの時代でもいるもので、むしろ、人を惹きつけることに理由はないことがほとんどで、ただなんとなく凄そうだからという意味で権威があるものはたくさんあるのだろう。私たちが「すごい」と思っているものも、もしかしたらピーチなのかもしれない。

 小説と比較して今作で特に印象的なのはピーチの無邪気さを可愛らしく描いていることだ。無知で思慮浅いピーチを子供らしく可愛く表現し、家来たちもこの後鬼ヶ島を征服するとは思えないくらいわちゃわちゃと平和な空間で楽しく生きている。だからこそ、ここまで無邪気な存在が特に理由なく鬼の居場所を奪うことへの残酷さがはっきりと対比で現れていたと思う。

 安嶋秀生の舞台を見るのは外部では初めて。本人が東京千秋楽で触れたようだから触れるが、彼が出演した映画作品で「おれ」が「オデ」に聞こえる
滑舌のゆるさを公式でイジられていることを知っていたので、特に表現の中でセリフの比重が高いスズカツ作品で大丈夫だろうかと心配していた。実際観劇してみると、思ったほど悪くはなかったと思う。かなり自然に長セリフが入ってきた。ただ、やはりスズカツの作品はどうしてもセリフで多くのことを説明することが多いので、やや難しいことを話すシーンではしっかり聞き取るのにこちらの集中力が必要だったように感じる。
 それ以上に彼が輝いていたのは、視点がピーチから鬼に移り、ピーチが悪役になった瞬間だ。これまでのおバカで愛らしいピーチが一転して、鬼を次々に殺害する冷酷な“鬼子”としてのピーチになった瞬間その残酷さに説得力が生まれ、これまで動物たちがおバカなピーチを神の化身であると崇めていたことに対してなぜか納得がいくようなカリスマ性があった。ここまで振り切って悪役としての立ち振る舞いができることはとても魅力的だと思う。

 対して、 小田将聖が演じるボヌッチは侵略パートでは他の家来と共に感情を一切出さないことが求められたので、そこの演じ分けを見ることはできない。侵略前の小田はとにかく可愛らしい犬を演じていて、基本的にぷりぷり怒ることが多かったが、そこのキュートさは小田らしい可愛らしさだったように感じる。こういった地のキャラクターを生かした演出はスズカツらしいなと思う。

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以下、雑感

・スズカツの私的前作、「逃げろ!」で佐藤流司と橋本良亮がつめつめつめつめつめつめに詰め込んだ膨大なセリフを捌いているところを見てからの観劇になったので、それと比べるとどうしても滑舌が気になる。

・スズカツ特有の濃いメイクが今作では若干控えめ。そういえば檜山のボスキャもメイク薄めだったし少年忍者はスズカツメイクを薄めにするという規約があるのか?(全然関係ないけど、ボスキャの檜山のビジュかなり好きでええす)(京本さんのボスキャをまだ根に持ってます)

・私は正直安嶋も小田も全然普段の様子を知らないので、冒頭の萌え萌え可愛い可愛いゾーンに全く共感できなくて厳しかった。でもああいうファン向けの描写を入れるのって、舞台全然興味ない人も見てることを意識して作ってるからなのかなーと思う。

・今回の会場は北千住のシアター1010。多分初めて来たと思う。北千住も初めて。なんか小さい八王子みたいな街だった。ちょっと古い劇場だったがあんまり見にくさは感じなかった。

・普段、一人だけがアクロバットをしてそれ以外は控えめに跳ぶしかしないグループを応援しているので、安嶋が突然バク転をしたりしててすごかった。アクロバットって生で見ると余計その凄さがわかる気がする。というか映像だと凄さが1/100しか伝わってないのでは。

・そういえば今年はSpeciaL和田が主演を務めた桃太郎も観劇した(片岡鶴太郎が出てたやつ)。和田の桃太郎は日本神話を交えたものになっていて、なんか鬼にも鬼の事情があってどうのこうのみたいな話だった気がする。

・本当に舞台の感想文を書き残さないとどんどん内容を忘れていくのでここまで忙しい中で感想文を書いてみんなに読ませています。

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