ダーウィン・ヤング感想 自分の罪を自分で赦すことはできない?

TRUMPをジャニーズJr.で上演してほしいと毎日お祈りをしていたらジャニーズミュージカル界期待の新星・大東立樹が東宝の制作で末満作品を上演ということで、これまでオタクの虚言・空想だったジャニーズTEUMP上演への大きな一歩として意気揚々とシアタークリエに行ってきました。以下、めちゃくちゃネタバレの感想です。相変わらず一回しか見ていないので細かい記憶違いがある可能性があります。原作は未読、パンフレットは既読です。








今作をかなり雑に説明すると、「おじいちゃんが革命に参加してることを隠すために親友を殺害した父の罪を隠すために親友を殺す人」の話です。祖父から父へ、そして父から子へと継承される罪を描いています。。
一連の悲劇は全て因果関係があります。祖父が革命に参加したという事実を隠したくて親友を殺した父親、父が親友を殺したという罪を隠したくて自分も親友を殺した子。このヤング家に継承された呪いの正体について考える時、タイトルである「悪の起源」すなわち祖父・ラナーの事件がヒントになっているような気がします。

祖父のラナーが父親のような存在であった大隊長を殺害して、逃げた先で引き取ってもらったのが第一地区の住民でも階級制度に反対しているヤング家でした。そこからどのように実業家という地位を築いたのかは描かれていませんが、元いた第九地区ではなく第一地区で成功したからこそ「革命に参加したこと」が罪になりました。最初の授業で12月革命(暴動)は革命軍のリーダーが何者かに殺されたことで終焉を迎えたという説明がありました。もしかしたらあの時大隊長を殺害していなかったら革命が成功して壁は無くなっていたかもしれないことを考えると、今の第九地区の住民が「何も持っていない」ことの原因の一端はラナーにあると言っても過言ではないのですが、当の本人は第一地区の「持っている者」として生活を送っていることになります。

父のニースも子のダーウィンも「持っている」から罪を犯しました。2人の父親がバズ父親のようにアル中だったら「親友を殺してでも父親を守りたい」と思っていたでしょうか。2人にとって権威のある、尊敬している、「持っている」父だかからこそ、絶対に守りたいと思い、親友を殺害するに至ったのだと思います。実際のところニースは証拠隠滅のために教育長官になったので守りたい権威などないどころか、「16歳で時が止まっている」「自分の人生には何もない」とまで言います。つまり、ヤング家に継承された「罪」はそれぞれの殺人ですが、継承された「呪い」は、罪の先の人生を元の階級通り「持っていない人生」にすることであるように感じます。革命が成功していたら「持っている」人生になったかもしれない第九地区の人たちの怨念とも言えるのではないでしょうか。


劇中、ダーウィンの親友であるレオが「人の罪は人の手によって赦される」という旨の話をダーウィンに話してスクールを去ります。ニースはジェイを殺してから30年間、ジェイの法事に熱心に参列します。ジェイの家で感じるジェイの存在に怯えながらも毎年ネクタイを締めて参列し、「ジェイを忘れない」とスピーチをしているのは、ニースなりの贖罪なのでしょう。ただ、それは自己満足でしかありません。「人の罪は人の手によって赦される」ということは「自分の罪を自分で赦す」ことはできないのです。舞台終盤でニースは「自分の人生は16歳で止まっている」「自分の願いは1日も早く死ぬことだ」と話します。聞いているとそんなに辛いのなら他者に罪の告白をして然るべき罰を受けて、自分の人生を手にれて欲しいと言いたくなるのですが、自分の罪を告白することは親友を殺してまで守りたかった父親の罪を告白することと同義であるので、ジェイの死を無駄にしてしまうことになります。ニースにそんなことはできないでしょう。他者に知られたくないから犯した罪は、永遠に人に赦されることもできず、永遠に罪人になるかもしれません。

そういえばヤング家以外にもう一人、「人に知られたくない」から罪を犯した人がいました。ジェイの死後30年の時点で認知症を患っているジェイの父です。彼は自分の妻が下等地区出身であることが露見することを恐れ、ジェイのスクール入学を取り消します。彼がいつから認知症を患っていたのか劇中では説明がなかったと思いますが、30年も前に亡くなった息子のことがわからなくなってもなお、息子に妻の秘密を守るための言いつけを言い続けることは、それほどまでに妻の出生を知られたくないという思いが強かったからでしょう。罪の大小は違えど、そういう「人に知られたくない」というプレッシャーを受け続けることこそが、罪に対する罰であるのかもしれません。

話をヤング家に戻して、レオを殺したあと、レオの葬儀に出席しているダーウィンは、ジェイの死を調べているルミに「ジェイの死についてまた一緒に調べないか」と誘われますが断ります。その様子から察するに、おそらくダーウィンも人の手によって赦されることはないのでしょう。ダーウィンも16歳で自分の人生を捨て「持っていない」人生を送り続ける呪いにかけられたのです。


こうやって文章にすると、本当に救いようのない話です。進むも退くも地獄。でも思い返せば末満作品に救いがあったことなんてほとんどないので、本当に制作の狙い通り、大絶望して劇場を後にすることができました。

舞台全体の感想としては、冒頭のキャストパレードが相変わらず秀逸で、「やったー!かなり末満だ!いっぱい絶望したいです!」と意気込んだとおもったら次の瞬間、作品の世界観に意識を持っていかれ、2幕、クリスマスにニースが「自分の願いは1日も早く死ぬことだ」と話すシーンからは本当にずっと悲しくて、観劇しながら「これ以上ストーリーを進めないで!」という意味不明な欲求が出てくるほど辛かったです。

俳優陣については全員文めちゃくちゃ書きたいのですが、一応ジャニオタのnoteというカテゴリなので主演の大東について。
大東の舞台は「ジャニアイ2022」で見ていたはずですが、本当に観劇の記憶がなく、大東が出ていたこともなんとなく記憶にあるくらいなので実質初めてでした。最初はだいぶポップで、教養はあるが無知な学生としてご機嫌に日々を過ごしているのですが、父親が人を殺していると知った時のやめてくれと叫び出しそうな表情、そしてその証拠を親友のレオが持っていると知った時の「自分も親友を殺すことになるかもしれない」という覚悟を決めた時の表情など、本当にただの喜怒哀楽ではなく、それまでの文脈を声、表情、立ち振る舞いどれをとっても十分に表現できていたと思います。歌声も、前半はウメ〜〜〜〜〜〜〜という感じだったのですが、2幕以降、運命に巻き込まれて行ってからはずっしりと重みのある歌声を響かせていて、かなり良かったと思います。かと思いきやカーテンコールではスキップするように袖に履けていく場面もあり、本当にすごい人がジャニーズにいるもんだと驚きました。
本人の希望がどういうものなのかわかりませんが、アイドルグループに属するとしても舞台には経ち続けてほしい、そしてその実力で破綻しまくってる内部舞台をイチから立て直してほしいと思いました。

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