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NRF APACレポート|Domino's Pizzaのイノベーションへの取り組み

月曜からシンガポールで開催されているNRF APACに来ています。

初日、最初のキーノートとなったドミノピザ Chief Digital Office "Christopher Thomas-Moore"氏のセッション「Meeting Consumer Needs Through Tech-Driven Innovation」が面白かったので、セッション内で紹介されていたいくつかのキーワード、同社の取り組みを紹介してみます。

セッションの様子

2010年に品質の低下(=美味しくない)によって顧客が離れ、業績不振に直面していた同社が、そこからどのように再生したのか、セッションで紹介された同社のイノベーションに関する取り組みとは?


AI / Computer Vision と Pizza

ピザとAI / Computer Visionはどう繋がるのか?

はじまりは広告キャンペーンから

2019年にスーパーボウルで流された動画を用いながら説明されたこの取り組み。アプリで(同社に限らない)ピザを撮影し、AIによってピザと判定されると、10ポイントをもらうことができ、60ポイント貯まるとピザ1枚と交換できる、というキャンペーンでした。

NvidiaのBlog記事でも、5,000枚以上のピザの画像を用いてAIモデルのトレーニングを行ったことなどが紹介されています(犬用のおもちゃのピザなども含まれていたようです笑)

と、文字で説明するよりも動画を見る方がより面白さが伝わるかもしれません。

ピザの品質管理を行うPizza Checkerへと進化

そして、広告キャンペーンから2年後、DOM Pizza Checkerが誕生します。

DOM Pizza Chekcerは、機械学習やセンシング技術を使うことで、ピザの種類やトッピングの適切な配分・配置、見た目の美しさなどを確認。キッチンにこのチェッカーを設置し、配達前にピザの品質確認を行うことで、ピザの品質が低い、イメージと違った、といったクレームを減らすことを目的に行われたようです。(参考:HBR「The Secret Surveillance Sauce to Domino Pizza’s Success」)

注文から準備までの時間予測の精度向上も

先ほど紹介したNvidiaのBlogでは、ピザの画像認識だけではなく、ロードタイムモデルというものを構築し、マネージャーや従業員の勤務状況、パイプラインにあるオーダー数、注文の複雑さ、交通状況などの変数を考慮していつまでに準備できるか、その時間の予測精度を75%から95%にまで高めたことも発表されています

Pizzaのアクセシビリティを高める

年間売上は180億ドル(≒2.8兆円)、そして米国においては売上の8割がデジタルチャネルとされる同社が、ピザをより買いやすくするためにどのような取り組みをしているのか。

AlexaやGoogleの各種デバイス、さらにはテキストチャットでの注文、自動運転による配送など、ピザの注文しやすさや配達の効率化にも同社は非常に熱心に取り組んでいます。

ピンポイントデリバリー

セッションで動画と共に紹介されていたのがこの2023年に発表されたピンポイントデリバリーです。Google Map上でピンを立てたところに、それがビーチや公園であってもピザをお届けする、というものです。(現実としては、ピンを立てたその場所ではなく、その周辺で最適と判断された場所になる、といった制約などもあるようです)

コチラも動画を見ていただくとよりわかりやすいかもしれません。

Emergency Pizza。困った時のドミノ!

コチラも百聞は一見にしかず、ということでまずは動画をご覧ください。

いかがでしたでしょうか。個人的には、車が突っ込むシーンとか、良い意味でバカバカしく、「やりすぎ」と思いつつも、ついつい見てしまいました笑

このキャンペーンはロイヤリティプログラムの会員であれば、期間中いつでも、困ったときにピザを1回、無償で提供してくれる、というものです。(もちろん、細かいルールはあります)

今年2月の決算発表において、このキャンペーン期間に該当する第4四半期の米国内の既存店売上高が2.8%増加したこと、また、3,000万人を超えたあたりで伸び悩んでいたロイヤリティプログラムの会員が200万人増加し、3,300万人となったことが公表されています。(もう少し詳細が気になる方はコチラをご覧ください)

要素だけを削ぎ落とすと、アメリカで多い「Buy 1, Get 1 Free」と呼ばれる、1枚買ったら1枚無料でついてくる、といったものですが、それをうまく「緊急時に1枚無料でお届けする」といったメッセージに変えているところが上手ですね。

2年から5年先にどんなことを考えているのか

セッションの最後にモデレーターが投げかけた質問ですが、そこで回答されていたものの一部には以下のようなものが上がっていました。

  • AIなどを活用した "tailored experience"、"パーソナライゼーション"

  • 人はその人を知ることで、話し方や話す内容を変える。顧客とのコミュニケーションもデータを活用することで、よりリアルで、より"Relevant"な体験にできるのではないか

  • Spatial Computingなどバーチャルワールドがより当たり前になるのではないか

終わりに:「Innovation」にまつわる2つのこと

セッションの冒頭と、最後に「 Innovation is xx」という2つのメッセージがあったので、この記事の締めくくりとしてご紹介します。

Innovation is Advertising

キーノートの終盤で投影されたスライドに入っていたメッセージの一つがこのタイトルにある「Innovation is Advertising」です。

投影されたスライド(最下部に「Innovation is Advertising」)

個人的にも、このnoteでご紹介した動画も含め、AIを使った品質向上・管理やGoogleとも連携した取り組み、ピンポイントデリバリーなど、新しいイニシアチブをわかりやすく、面白い映像に仕上げているのが印象的でした。

こうした新しい取り組み、イノベーションへのチャレンジをうまくブランディング、広告と結びつけるのは消費者に対しても、また企業のイメージや採用といった観点でも、とても重要だと感じます。

そしてもう一つが、

Innovation is a Journey

というわけで、イノベーションは一夜にして実現されるものではなく、さまざまな試行錯誤やその積み重ねで実現されるのだ、ということです。

モデレーターからの質問でも、どのように経営陣やフランチャイズを巻き込んでいったのか、といった質問がありましたが、そこで語られた内容は

  • 小さく初めて、小さな成果を生み出すこと

  • データを活用してその成果、ROIを示すこと

  • 承認プロセスを整える、ステージゲート制を用いて進めたこと、など

いわゆるDXやチェンジマネジメントなどでよく取り上げられることであり、当たり前ですが、何か魔法があるのではなく、必要なことを着実に推し進めていく、その(大変さと)必要性を改めて感じさせられたセッションでした。

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