NIKEが進めるWeb3の旅。「.Swoosh」の現在地を探る〜パート2〜
前回の投稿からだいぶ時間が経ってしまいましたが、約半年ぶりに、.Swooshの現状を紐解いてみたいと思います。「そもそも.Swooshって?」という方は、こちらの記事をご覧ください。
X(旧Twitter)やInstagramをフォローしている中で、体感的にあまり大きな動き・発表がなかった印象ですが、本記事ではその検証も兼ねて、前回の調査以降、昨年後半の動きを整理してみます。
まず最初に、.Swooshの参加者数をチェックしてみましょう。
.Swoosh IDホルダーの増加ペースはスローダウン
前回(2023年6月)時点で、Opensea上で確認できるHolder数は36.9万でした。polygonscanを見てみると、この記事の執筆時点(2024年1月4日)でのHolder数は38.1万と+1.2万といった状況でした。
2023年3月末から6月にかけて3か月でホルダーは5万増えたのに対して、その後の6ヶ月強での増加が1.2万に留まっており、そのペースは8分の1程度と、かなりスローペースになっていることが伺えます。
公式情報を追いかけている限りでは、リリース初期に週1以上のペースで実施していた全米の各都市を巡るオンボーディングセッションは久しく開催されていないように見えます。
なぜホルダー数が増えていないのか?具体的な取り組みを掘り下げる前に、少し寄り道して、NIKE社の事業の状況を確認してみましょう。
リストラを進めるNIKE
2023年末に700名をレイオフすることと共に4.5億ドルのリストラ費用の計上が報道されています。このリストラは3カ年で20億ドルを削減する計画の一部と言われています。
なぜリストラ、コスト削減を進めるのか?
この背景理解として、FY2024Q2の決算を見てみます。売上高は前年度比+1%に留まり、景気動向含め、今後の成長見通しは不透明な状況だと言われています。そのため、収益性の維持・向上のためにはコスト削減の強化が今まで以上に重要になってきています。
さらに脱線していきますが、上記の取り組みに加えて、これまでD2C・直販を強化してきた中で、2023年6月に卸・小売とのパートナーシップを再度強化する方針を打ち出しており、売上拡大に向けた方針転換も進めています。
ただ、この転換は「NIKEのD2Cが失敗した」というものではなく、一定程度やりきった上で次の成長に向けた転換とみる論調も見受けられ、私もそう思います。売上高は全体では+1%成長ですが、ペースは落ちているものの、Direct領域の売上は+6%、デジタル領域の売上は+4%と全体を上回る成長を遂げています。
以上のことを踏まえても、NIKEのビジネスにおけるインパクトを考えると、.Swooshに対してアグレッシブな投資をしづらい環境にいることが想像されます。
と、.Swooshにあまり投資がされていない・投資し辛い状況なんじゃないか、という話をしましたが、気を取り直して、2023年下半期のアップデートを見ていきたいと思います。
Fortniteとのコラボレーション
前回の記事で最後に取り上げたFortniteとのコラボレーション、「Airphoria」はどうなったのかを確認してみましょう。
リリース(6/21)から約1週間後、6/27にXアカウントでフォロワーに対してアンケートを行っており、その結果を見ると以下の通り、回答者の中でAirphoriaをプレイしたことがあるのは44.8%という結果になっていました。
高いか低いか、、、絶妙なラインですね。Airphoriaをプレイしたユーザーに贈られるAchievementは.SwooshIDのようにNFTを活用していないため、そのホルダー数を把握することはできません。
もう1つ、個人的には気になっていたゲーム領域での展開をチェックしてみます。
EAスポーツとのパートナーシップ
2023年6月にEAスポーツとの提携が発表されました。その時点では具体的な内容はなく、以下の2つの方針が伝えられていました(詳細は前回記事をご覧ください)
NIKEの新しいデジタルコミュニティ体験である.SWOOSHのメンバーとEA SPORTSのファンが、プレイを通じて自分のスタイルを表現するための新しい方法を提供するもの
EA SPORTSのエコシステムの中で、新たな没入型体験を構築し、まったく新しいレベルのカスタマイズを解放することを目指します
さて、どのような発表があったのか?
残念ながら、現時点ではまだ大きな発表はありません。2023年12月29日にEA Madden NFLの無料ダウンロードプレゼントを発表した程度に留まっており、当初の計画の具体化が進んでいない、もしくは上述のコスト削減や方針転換の中でペンディングとなっている可能性がありそうです。
注目を集めるゲーム業界・ゲーマー
再び脱線しますが、ファッション・アパレルブランドによるゲーム領域への展開・コラボレーションは増加している印象があります。
例えば
トミーヒルフィガーは、ゲームパブリッシャーと提携し、独自のファッションスタイリングゲーム”FashionVerse”を制作。2024年にリリース予定
ドルチェ&ガッバーナは、ゲームブランドRazerと組んで、ゲームチェアやヘッドホン、Tシャツなどの独自コレクションをリリース
ラルフローレンは欧州のeSports団体G2 Esportsとカプセルコレクションを発表
こうした動きの背景には巨大なゲーム産業の存在があります。世界のゲーム人口は33.8億人、その市場規模は1,840億ドルに達すると言われており、非常に大きな市場へと未だに成長を続けています。
脱線の最後に、デリバリーサービス大手のDoorDashは”ゲーマー”をうまく取り込むことで成長したと言われており、ゲーム人口が増える中で、ファッション業界に限らず、様々な業界が”ゲーマー”に注目しそうです。
さて、もう一度今回の本題、.Swooshに話を戻しましょう。
初のユーティリティ、IRLプロダクト、アパレル
新たな取り組みに乏しかったという雰囲気を漂わせてしまいましたが、.Swooshの最初のコレクションとなるOur Force1(OF1)などを中心に”初”の試みも行われれています。
OF1のユーティリティ第1弾
7月20日にOF1ホルダー向けの最初のユーティリティとして、自分が所有するコレクションのGLB形式の3Dファイルがダウンロードを可能にすることを発表し、25日に提供を開始しました(この3DデータはBlenderなどのソフトを利用して確認することができます)。
最初のユーティリティが3Dファイル・・・?渋い。3Dファイルで遊べるホルダーはいるのだろうか?と思ったのが率直な感想ですが、さすがは.Swooshでした。
X上でのアンケートでは2割以上が過去に3Dアセットを使ったことがあるとのことでした。(逆に8割近くは触ったことがない・触れない可能性もありそうですが)
3Dデータの具体的なイメージはこちらをご覧ください。
初のIRL(In Real Life)スニーカー”TINAJ”
初のユーティリティに続き、10月3日に、久しぶりに.Swoosh Sessionsが開催され、.Swoosh初となる現実世界で履くことのできるリアルなスニーカー”TINAJ”が発表されました。
TINAJとは何か?
その答えは、This is not a Jpeg(これはjpegではない)というものです。NFTに対してこれは単なるjpegじゃないんだ、そんなメッセージでしょうか。このコレクションは10月20日に、まずは米国のSNKRSアプリユーザー限定で提供されることが発表されています。
また、翌11月には、.Swoosh初となるTINAJのアパレルラインが発売され、Tシャツは1日ほどで完売となったようです。
このアパレルラインもSNKRSアプリで受け取りができるようになっています。それ以外でも、.Swooshについて関係者が語る.Swoosh Sessionsの視聴も基本的にはSNKRSアプリとなっており、SNKRSアプリとの連携が深い印象です。
これは.SwooshのメンバーとSNKRSアプリの利用者の重なりが多かったのか、SNKRSアプリの自由度が高かったのか、その両方だったのでしょうか。
11月15日に1周年を迎える
時間軸は前後しますが、11月15日に.Swooshはそのbeta版としてのリリースから1年が経過しました。
NIKE社の状況、現状の.Swooshの展開を見ると直近で大きなアクセルを踏む可能性は高くなさそうですが、こうしたファンとのコミュニティ、ロイヤリティプログラムは今後も要注目だと考えているので、引き続きウォッチしていきたいと思います。
最後までご覧いただきありがとうございました。
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