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第2弾|独自トークン、DAOを取り入れ、Web3時代の人材マーケットプレイスを目指す「Braintrust」

本記事は過去に「Block Post」で取り上げたものとなり、Honest株式会社 久野亮平と、余頃沙貴(よごろ さき)との共同制作です。(昨年作成した記事のため、一部情報は古い可能性がある点はご了承ください)

はじめに

今回は、Web3時代の人材マッチングプラットフォーム「Braintrust(ブレイントラスト)」について深堀りします。Braintrustは、2021年9月にCoinbaseに上場したことで注目されているサービスです。

昨年2022年5月の暗号通貨のチャート急落をきっかけに、「冬の時代突入」とも言われているクリプト・Web3界隈。Web3を起点としたサービス創出はまだまだ時間がかかるだろうと、懐疑的な言説も増えている今、トークンエコノミーやDAOなどWeb3要素を取り入れながら、新しい事業モデル構築に取り組むケーススタディとしてご紹介します。

”Ownership Economy”をビジョンに掲げるBraintrustがアップデートするのは、人材マーケットプレイスのビジネスモデル。そのサービスの仕組みとBraintrust DAOについて、3回に渡って紹介していきます。まずはBraintrustの概要とそのプラットフォームの仕組みについて深堀りしてみましょう。

2回目となる本記事では、この実際のマーケットプレイスにおけるトークンの働きに着目して解説していきます。

👉第1回はこちらから

BTRSTトークンエコノミーの土台はクライアントからの手数料

では、細かくトークンの役割について見ていきましょう。トークンはどこから来て、誰に配分されているのでしょうか。

前回記事のおさらいですが、Braintrustはタレントサイドからの手数料が0%であり、サービスの収益源は主にクライアントの手数料(10%)のみというモデルです。Braintrustの発行するトークン“BTRST”のプールは、このクライアント手数料(ドル)が変換されることにより発生します。これまで変換されたBTRSTは、Braintrustサイトで公開されており、こちらから確認できます。2022年8月時点では、累積で約4.1億円分(298万ドル *1)が変換されているようです。

そして配分先については、コミュニティが過半数の54%を占め、サービス内でのインセンティブやBraintrustDAOへの還元がされています。

BTRSTトークンの3つの役割。権利、ビッディング、インセンティブ

まずはBraintrustの独自トークンであるBTRST のコミュニティ内での役割についてです。

役割は現時点で主に3つ。まずはDAOでの投票権利です。BraintrustDAOにおいてトークンオーナーは、Braintrustのプロダクトロードマップ、手数料等のプライシング、トークンスキームに関して起案と投票をすることができます。すでにコミュニティ内でのトークンの付与方法についてジャッジがされたりしています。BraintrustDAOについては後半記事で詳しく触れていきます。

2つ目は、ユーザーがトークンを支払うパターンで、トークンを利用したビッドスタッキング(bid stacking)です。ビッドスタッキングとは、広告や金融などのオークション型で使われる用語なのですが、トークンを投資してマッチング率を高める手法のことです。Braintrustにおいては、求人のマッチング時にタレント・クライアント双方が自分・自社のマッチング率を高めるためにトークンを「賭け」露出を高めることができます *2。さらに、この「賭けられた」トークンは仕事完了まで担保となり、仮に受注者のタレントが仕事を達成しなかった場合、あるいは発注者の企業によって仕事が中断された場合は、担保したトークンを失うことになります。これにより、マッチング時に互いの案件への「熱意」を示す手段にもなりますし、コミュニティとして信頼関係を保つ手段にもなります。

3つ目は、2つ目とは逆に、ユーザーへ報酬が支払われるパターンです。Braintrustでは、マーケットプレイス以外にも、エコシステム活性化のためのプログラムが用意されています。新規ユーザーのリファラル「Connector Program」や、新規ユーザーのオンボーディングプログラム「Braintrust Academy」です。新規ユーザーをサービスに連れてくるリファラルや、オンボーディングの講座履修時、講座コンテンツをユーザー自身が制作して貢献した場合に、トークンがユーザーに付与されます。

以上が、Braintrustのトークンエコノミーについてでした。前編記事の最後に、BraintrustがWeb3の要素を取り入れながらもサービスとしてアクティブに運営できている理由を2つ紹介します。

成長のポイント その1:タレントとクライアント間は法定通貨(米ドル)のやり取り

Braintrustのマーケットプレイスとしてのアクティブ度を改めて振り返ります。2022年8月時点で、利用しているタレントは6.4万人、4,000を超えるプロジェクトがこれまで契約されていました。Web3のサービスとしては珍しく、マーケットプレイスサービスとしてアクティブに稼働していると言えます。(正確には、途中からトークンやDAOといった要素を追加した、というものではありますが)

この背景とも言えるのが、トークンの利用範囲の設計です。トークンの役割を見る中で気づいた方もいるかもしれませんが、実はトークンのやり取り自体は常にBraintrustとタレント、Braintrustとクライアントとの間のみであり、タレントとクライアントの取引においてはトークンのやり取りは発生していません。

例えば、報酬が100万ドルのプロジェクトにおいて、そのプロジェクトが完了した場合、タレントはクライアントからの報酬をそのまま100万ドル(もちろん手数料は0%)を法定通貨で受け取ることになります。この仕事の報酬自体はドルである点は従来のWeb2.0と変わらず、仮にBTRSTトークンを持っていなかったとしても、マッチングサービスとして十分利用できます。まだトークン自体の価格が乱高下しやすいことも考慮すると法定通貨でのやり取りが基本となっていることは企業・タレント双方にとって、利用の敷居を下げていると思われます。

成長のポイント その2:ユーザーがユーザーを連れてくる、リファラルプログラム

次にBraintrustの特徴的な仕組み「Connector Program」について。これはいわゆる、既存ユーザー向けのリファラルプログラム、ユーザー紹介プログラムです。先述の通り、既存ユーザーがトークンをもらえる手段の1つにもなっており、新規タレントのリファラルでその報酬の1%、新規企業のリファラルで発生した取引総額の2%(ただし上限あり)が紹介したユーザーにトークンで付与されます。

Braintrustのサイトでは、このリファラー(「Connector」)として活躍しているユーザーのランキングが掲載されています。最もトークンを稼いでいるリファラーは、3.4万BTRSTトークン、日本円にして約941万円。この「Connector Program」によって、トークンがインセンティブとなり、既存ユーザーがコミュニティに新規を連れてくる仕組みになっています。

運営の売上は半年で最大1億円? 手数料0%でも成り立つ秘密は

ハイクラス人材にフォーカスすることで企業とユーザーの両サイドを獲得し、マーケットプレイスとして急成長したBraintrust。ユーザーへの利用インセンティブやDAO、マーケットプレイス両サイドのマッチングなど、ユーザージャーニーの各所にトークンが組み込まれた、Web3時代の新モデルとして順調に成長しているように見えます。

Amazon創業者のJeff Bezos氏が言ったとされる「your margin is my opportunity」を体現するかのように、従来の手数料モデルを覆そうとしているBraintrustですが、果たして、企業からの手数料10%だけでサービスを運営していけるのでしょうか。

Braintrustはプラットフォーム(とその裏にいる投資家など)がユーザーから高い手数料を取る従来のマーケットプレイスのアンチテーゼであり、あくまでも営利を追求はしておらず、”public-good”なサービスでありたいというスタンスを取っています

Braintrust is a “public good” not-for-profit, and the project’s goal is to fulfill its mission of creating a decentralized talent marketplace, and make the network more useful for everyone that controls it and runs their business on it. Braintrustサイトより *3

とはいえ、母体は「株式会社」ですからサービス運営での利益は必要になるはず。過去の取引量と想定される運営側のテイクレートより、売上を推測してみました。(実は全ての取引ログ *4が公開されており、非常に透明性の高いサービスです)

ログを調べたところ、2021年9月〜2022年3月の約6ヶ月でのトークンの取引量(≒クライアントからの手数料)はおよそ2.67億円(270万ドル)でした。トークンの配分先(下記再掲)のうち、仮に運営側を初期トークン保持者と初期貢献メンバーと考えると、取引されたトークンの最大41%がアロケーションがされていることになります。このように考えると、6ヶ月で最大約1億円が運営側の売上として入ってくると思われます。

CrunchbaseやCraftなどで社員数を見ると、前者で51-100名、後者で239名とされています。仮に100名としても、記事作成時点の推定売上(6ヶ月で1億円=2億円/年)では大きな赤字であることが想定されます。また、ターゲットとするタレント層も違うため一概には比較できませんが、Upworkのユーザー(タレント)数は1,000万人を超えるとされており、規模の面でもまだまだ小さいことが伺えます。

一方で、トークンをうまく活用し、ユーザー主導の領域を増やすことで、ユーザーと一体となった新しいサービスモデルとなる可能性には注目が集まります。

例えば先述の「Braintrust Academy」というオンボーディングプログラムは、既存ユーザーがコンテツを作っています。また、リファラルプログラムは既存ユーザーが新規を連れてくる仕組みになっており、従来のモデルと比較すると、新規ユーザーの獲得コスト等、マーケティング費用が抑えられているのではないでしょうか。

前提となるスタンスとして「営利追求ではない」ことはありますが、このような【コミュニティへの適切な配分→ユーザーが主導する領域が増える→ユーザーと一体となった運営】という循環の実現を試みが今後どう発展するのか、注視していきたいと思います。

また、いわゆる従来型の企業がWeb3的な考え方やトークンを既存のサービスに組み込む場合の参考モデルにもなると思いますので、その点でも今後に期待です。

以上が、Braintrustのサービス概要と、そのビジネスモデルの解説でした。最終回となる第3回では、さらに深堀りし、今回あまり触れられなかったBraintrustDAOについて紹介していきます。

*1 ドルと円レートは、134円で計算。2022/08/11時点

*2 https://www.acquired.fm/episodes/web3-marketplaces-with-braintrust-ceo-adam-jackson

*3 https://www.usebraintrust.com/frequently-asked-questions

*4 https://fees.btrstinfo.xyz/

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